ご無沙汰してすみません。
突然ですが、AppleのSteve Jobsが2/6に発表したレコード会社宛の公開書簡を全訳しようと思いたちました。が、85%くらいまで来たところで猛烈な睡魔が襲ってきたので、最後の4パラグラフだけ放置して寝ます。というわけで中途で大変恐縮ではありますが、ここにアップしておきます。
後で頑張って最後まで訳すつもりです。なお、スピード重視で訳したので文章は良くないです。誤訳もあるかもしれませんがご容赦ください。
#誤訳の指摘は大歓迎です。お願いします。
それと、CNET Japanにあった記事とAPPLE LINKAGEというサイトにあった抄訳を一部参考にさせていただきました。ありがとうございます。
それでは本日はこのへんで寝ます。お休みなさい。
【2/8追記】
残りの4パラグラフも訳して、ようやく全部完成しました。引き続き誤訳等があれば教えてください。
=====
Thoughts on Music
音楽に関する考察
スティーヴ・ジョブズ
2007年2月6日
アップル社のミュージックプレイヤーiPodとオンラインミュージックストアiTunesの驚くべき世界的成功により、アップル社に対してデジタル著作権管理(DRM)システムという楽曲の盗用を防ぐために使っている技術をオープンにするよう求める人たちが出てきました。オープンになれば、iTunesで購入した曲を他社のデジタルデバイスで聴くことができたり、他のオンラインミュージックストアで買った保護された楽曲をiPodで聴いたりすることができるというのです。ここで、音楽に関する現在の状況と、どうしてこういう状況になったのか、そして将来的に考えうる三つの選択肢について考えていきたいと思います。
まず最初に次のことに留意しておく必要があります。すなわち、MP3やAACといったオープンでライセンス可能なフォーマットにエンコードされて、どんなDRM処理もされていない楽曲であれば、あらゆるiPodで演奏することができる、ということです。iPodユーザは、自分が所有するCDも含めたくさんのソースから音楽をとってくることができるし、また実際にそうしています。CDに収録されている楽曲は、マック上でもPC上でも動く無料ダウンロード可能なジュークボックスソフトiTunesに 簡単にインポートでき、そのときDRM処理されていない、オープンなAACやMP3フォーマットに自動変換されます。この曲は、これらのオープンフォーマットに対応しているiPodや他の音楽プレイヤーで聴くことができるわけです。
問題はアップル社が自社のオンラインiTunes Storeで楽曲を販売する際に起こります。アップル社はいかなる音楽も所有したり、権利を持ったりしていません。ですから音楽を配信するためには他者からライセンスを取得する必要があります。ここでいう他者とは、主に4大レコード会社、ユニヴァーサル、ソニーBMG、ワーナー、EMIのことを指します。これら4つの会社は世界中の曲の70%以上の配信について支配しているのです。アップル社がこれら4社に、彼らが持つ楽曲をインターネット上で合法的に配信をするためのライセンスを得るべくアプローチをしたとき、彼らは非常に警戒していました。そしてアップル社に対しそれらの曲が不法コピーされることのないよう保護することを要求したのです。その解決法がDRMシステムをつくることだったのです。このシステムは、iTunes Storeで購入されたひとつひとつの曲を特別な秘密のソフトウェアで包みます。ですからこれらの曲は許可されていないデバイスでは演奏することができないのです。
アップル社はこの交渉のなかで画期的な使用権を勝ち取ることができました。それは、ユーザがDRM保護された1つの曲を、5台のコンピュータ上で再生できるというものです。さらにiPodであれば台数は無制限です。こうした権利をレコード会社から勝ち取ることができたというのは当時は前例のないことでしたし、現在でさえ大部分のデジタル音楽サービスが実現できていないことなのです。しかしながら、われわれのレコード会社との合意のなかで鍵となる条件がありました。それは、もしアップル社のDRMシステムが破られてしまい、許可されていないデバイスで再生可能となってしまったら、われわれはその問題を数週間以内に修正すること。さもなければ彼らはiTunes storeから全ての曲を引き上げる、というものでした。
不法コピーを防ぐため、DRMシステムは保護された楽曲を許可されたデバイスだけで再生するようにしなくてはなりません。もしDRMで保護された曲のコピーがインターネット上に投稿されたとして、その曲をダウンロードした人のコンピュータやポータブル音楽機器で再生可能であってはならないわけです。そのためにDRMシステムは数々の秘密を使っています。秘密を秘密のままにしておくこと以外にコンテンツを保護する手段はありません。言い換えれば、もし最も高度な暗号を使って曲を保護したとしても、その曲の暗号を解く鍵をユーザのコンピュータなりポータブル音楽機器なりのなかに隠しておかなければなりません。いままでに誰もこのような秘密に頼らずに動作するDRMシステムを完成させていないのです。
問題は言うまでもなく、世界にはたくさんの頭の良くて、こうした秘密を解き明かし、みんなが無料の(盗んだ)音楽を聴ける方法を公開するのが好きな人がいるということです。しかもそのなかの一部の人には時間もたっぷりあるということです。彼らはしばしばそれに成功するため、DRMを使ってコンテンツ保護をしようとしている企業はより発見されにくい秘密を用いたDRMにアップデートし続けなければなりません。これはまさに“いたちごっこ”です。アップル社のDRMシステムはFairPlayという名前です。このFairPlayも過去に何度か問題が発生しましたが、iTunes storeのソフトや、iTunesジュークボックスソフトやiPod自身のソフトをアップデートすることによってそれらの問題点を修正することができました。今のところわれわれはレコード会社に対する、彼の音楽を保護する、という約束を守ることができていますし、合法的なダウンロードミュージックの業界においては、最も自由な権利をユーザに提供することができています。
こうした背景を踏まえて、将来の3つの選択肢について検討してみたいと思います。
第1の選択肢は、現在の路線を継続することです。それぞれのメーカーが、音楽の販売、再生、保護のための独自システムを使って自由に競争するのです。この市場の競争は非常に激しく、巨大な世界企業たちが新しい音楽機器とオンラインミュージックストアの開発に多大な投資をしています。アップルもマイクロソフトもソニーも全て独自システムを使って競争しています。マイクロソフトのZune storeで購入した曲はZuneだけでしか再生できません。ソニーのConnect storeで購入した曲はソニーのプレイヤーでしか再生できません。アップル社も同様です。これが業界の現在の状況であり、お客様は革新的な製品とたくさんの選択肢に囲まれ続けることになるでしょう。
消費者が一度このような独自方式のミュージックストアから楽曲を購入すると、彼らは永遠にその会社が提供する音楽機器を使うようにロックされてしまう、と批判する人がいます。あるいは、消費者が一度特定のプレイヤーを買うと、彼らはその企業のミュージックストアだけから楽曲を買うようにロックされてしまうとも。これは本当なのでしょうか。iPodとiTunes storeのデータを見てみましょう。これらは業界で最も人気のある製品ですし、われわれはそれらの正確なデータを持っていますから。2006年末までのiPodの販売台数は全部で9,000万台、iTunes Storeの販売曲数は20億曲です。平均すれば、これまで販売されたiPodに保存されているiTunes Storeで購入された曲は22曲となります。
現在最も売れているiPodは1,000曲を保存できるものですが、調査によれば平均的なiPodはほとんどいっぱいになっているそうです。つまり1,000曲のうちのたった22曲、すなわち平均的なiPodの音楽のうちiTunes Storeから購入されたDRMで保護された曲はわずか3%未満なのです。残りの97%は保護されていない、オープンフォーマットの曲に対応したプレイヤーであればどんなプレイヤーでも再生可能な曲なのです。たった3%の曲が将来にわたってユーザをiPodにロックしてしまうというのは信じ難い話です。そしてまた、平均的なiPodに入っている97%の曲がiTunes Storeから購入されたものでないということからも、iPodユーザがiTunes Storeにロックされていないということは明らかでありましょう。
アップル社にとっての第2の選択肢は、異なるメーカーのプレーヤーと音楽ストア間での相互運用性を実現するためにFairPlay DRM技術を現在および将来の競合他社にライセンス供与することです。一見してこれは良い考えのように思えます。なぜなら利用者の選択肢を将来にわたって増やすからです。同時にアップル社もささやかながらFairPlay DRM技術のライセンス料によって利益を得ることができるかもしれません。が、しかしもう少し詳細に見てみると、この選択肢には問題があることがわかります。最も深刻な問題はDRMのライセンスによってDRM技術の秘密がたくさんの企業のたくさんの人々に明らかになってしまうということです。そしてそれらの秘密は必ず外部に漏れてしまうということは歴史が証明しているところです。インターネットはこうした漏洩をさらに深刻なものにするでしょう。こうした漏洩はDRM保護を無効にするソフトウェアプログラムを出回らせ、許可されていないプレーヤーで楽曲が再生できることになってしまう恐れがあります。
同じくらい深刻な問題は、こうした漏洩から生じた損害をいかにすばやく修復できるかということです。効果的な修復は、ミュージックストアのソフト、ジュークボックスソフト、そしてプレイヤー自身のソフト全てに関係し、それらに新しい秘密を付加する必要がでてくるでしょう。そしてこのアップデートされたソフトを何千万、何億というMacやPC、音楽プレイヤーに行き渡らせなければなりません。これらはすべて迅速に、一糸乱れず行わなければなりません。それはこれら全てを1社がコントロールしていても大変困難なことです。が、もし複数の企業が断片的にコントロールしている状況では、実行することはもはや不可能でしょう。
アップル社は次のような結論を既に出しています。すなわち、もしわれわれが他社にFairPlayをライセンスしたら、4大レコード会社からライセンスを受けている音楽を保護できる保障はもはやできない、と。おそらくマイクロソフト社が最近彼らのDRM技術を他社にライセンスするオープンなモデルから、独自のミュージックストア、独自のジュークボックスソフト、独自のプレイヤーというクローズドなモデルに力点を変えつつあるのも、彼らがわれわれと同様の結論に達したからでしょう。
3番目の選択肢はDRMを完全に撤廃してしまうというものです。すべてのオンラインストアが、オープンでライセンス可能なフォーマットにエンコードされたDRMフリーの楽曲を販売する世界を想像してみてください。このような世界では、すべてのプレーヤーがすべての店舗で購入した曲を再生でき、すべての店舗がすべてのプレーヤーで再生可能な曲を販売できるのです。これが消費者にとって最良の選択肢であることは明らかですし、アップル社もこの選択肢を心から支持したいと思います。もし四大音楽企業がアップル社にDRM保護の不要な楽曲をライセンスしてくれれば、われわれはDRMフリーの楽曲だけを売るようにiTunesストアを変えるでしょう。これまでに製造されたすべてのiPodは、こうしたDRMフリーの音楽を演奏するようになるでしょう。
ではどうすれば4大レコード会社はアップル社や他社に対してDRMシステムを使わない音楽配信を許諾するようになるのでしょうか。一番シンプルな回答は、DRMというものが音楽の著作権侵害を防ぐために、うまく機能していたとはいえないし、これからもしないだろうというものです。4大レコード会社はオンラインで販売される彼らの全ての曲はDRM保護されることを要求していますが、これらの会社は、年に何十億というまったく保護されていない楽曲が収録されたCDを販売し続けています。そうなのです、これまでCD向けにDRMシステムが開発されたことは一度もありませんでした。だからCDで配られる楽曲は全て簡単にインターネットにアップロードすることができます。そしてそれらはどんなコンピュータにもプレイヤーにも不法にダウンロードされ、再生されるわけです。
2006年にDRM保護された楽曲の世界中のオンラインストアでの販売数は20億曲にも満たないものでした。これに対してレコード会社自身がCDで販売したDRMフリーの、保護されていない楽曲は200億曲以上販売されたのです。レコード会社は曲の大部分をDRMフリーで販売し、しかもその態度を変えようとはしていません。なぜなら彼らは収入の大半をCDの販売に頼っていますが、CDプレイヤーはDRMシステムをサポートしていないからです。
90%以上の曲がDRMフリーで販売されている現状にあって、残りのほんの少数の曲をDRMで保護して販売してレコード会社にいったいどんなメリットがあるというのでしょうか。何もないように思えます。どちらかといえば、DRMシステムの開発、運営、更新には技術的な専門知識や経費が必要なため、DRM保護された楽曲を販売する企業の数はこれまで限定されていました。もしこうした制約がなくなれば、音楽業界には、革新的なストアやプレーヤーに投資しようとする新しい企業がたくさん参入してくるでしょう。これはレコード会社にとっても大変喜ばしいことであるはずです。
DRMシステムに関する懸念の多くはヨーロッパ諸国で起こり始めています。ですが、現在の状況を不満に思っていらっしゃるみなさんは、その不満のエネルギーを、レコード会社にDRMフリーの楽曲を売るよう説得するほうに向けるべきなのです。ヨーロッパ人にとって4大レコード会社のうち2.5はすぐ近所にあります。最大の会社ユニヴァーサルは、フランスの会社のヴィヴェンディが100%所有しています。EMIはイギリスの会社ですし、ソニーBMGはドイツのベルテルスマンが50%を所有しています。これらの企業に、彼らが持つ楽曲をアップル社やその他の企業にDRMフリーでライセンスするよう説得すれば、真に相互利用可能な音楽市場が生まれることでしょう。これが実現すればアップル社は心から歓迎したいと思います。
(了)
突然ですが、AppleのSteve Jobsが2/6に発表したレコード会社宛の公開書簡を全訳しようと思いたちました。が、85%くらいまで来たところで猛烈な睡魔が襲ってきたので、最後の4パラグラフだけ放置して寝ます。というわけで中途で大変恐縮ではありますが、ここにアップしておきます。
後で頑張って最後まで訳すつもりです。なお、スピード重視で訳したので文章は良くないです。誤訳もあるかもしれませんがご容赦ください。
#誤訳の指摘は大歓迎です。お願いします。
それと、CNET Japanにあった記事とAPPLE LINKAGEというサイトにあった抄訳を一部参考にさせていただきました。ありがとうございます。
それでは本日はこのへんで寝ます。お休みなさい。
【2/8追記】
残りの4パラグラフも訳して、ようやく全部完成しました。引き続き誤訳等があれば教えてください。
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Thoughts on Music
音楽に関する考察
スティーヴ・ジョブズ
2007年2月6日
アップル社のミュージックプレイヤーiPodとオンラインミュージックストアiTunesの驚くべき世界的成功により、アップル社に対してデジタル著作権管理(DRM)システムという楽曲の盗用を防ぐために使っている技術をオープンにするよう求める人たちが出てきました。オープンになれば、iTunesで購入した曲を他社のデジタルデバイスで聴くことができたり、他のオンラインミュージックストアで買った保護された楽曲をiPodで聴いたりすることができるというのです。ここで、音楽に関する現在の状況と、どうしてこういう状況になったのか、そして将来的に考えうる三つの選択肢について考えていきたいと思います。
まず最初に次のことに留意しておく必要があります。すなわち、MP3やAACといったオープンでライセンス可能なフォーマットにエンコードされて、どんなDRM処理もされていない楽曲であれば、あらゆるiPodで演奏することができる、ということです。iPodユーザは、自分が所有するCDも含めたくさんのソースから音楽をとってくることができるし、また実際にそうしています。CDに収録されている楽曲は、マック上でもPC上でも動く無料ダウンロード可能なジュークボックスソフトiTunesに 簡単にインポートでき、そのときDRM処理されていない、オープンなAACやMP3フォーマットに自動変換されます。この曲は、これらのオープンフォーマットに対応しているiPodや他の音楽プレイヤーで聴くことができるわけです。
問題はアップル社が自社のオンラインiTunes Storeで楽曲を販売する際に起こります。アップル社はいかなる音楽も所有したり、権利を持ったりしていません。ですから音楽を配信するためには他者からライセンスを取得する必要があります。ここでいう他者とは、主に4大レコード会社、ユニヴァーサル、ソニーBMG、ワーナー、EMIのことを指します。これら4つの会社は世界中の曲の70%以上の配信について支配しているのです。アップル社がこれら4社に、彼らが持つ楽曲をインターネット上で合法的に配信をするためのライセンスを得るべくアプローチをしたとき、彼らは非常に警戒していました。そしてアップル社に対しそれらの曲が不法コピーされることのないよう保護することを要求したのです。その解決法がDRMシステムをつくることだったのです。このシステムは、iTunes Storeで購入されたひとつひとつの曲を特別な秘密のソフトウェアで包みます。ですからこれらの曲は許可されていないデバイスでは演奏することができないのです。
アップル社はこの交渉のなかで画期的な使用権を勝ち取ることができました。それは、ユーザがDRM保護された1つの曲を、5台のコンピュータ上で再生できるというものです。さらにiPodであれば台数は無制限です。こうした権利をレコード会社から勝ち取ることができたというのは当時は前例のないことでしたし、現在でさえ大部分のデジタル音楽サービスが実現できていないことなのです。しかしながら、われわれのレコード会社との合意のなかで鍵となる条件がありました。それは、もしアップル社のDRMシステムが破られてしまい、許可されていないデバイスで再生可能となってしまったら、われわれはその問題を数週間以内に修正すること。さもなければ彼らはiTunes storeから全ての曲を引き上げる、というものでした。
不法コピーを防ぐため、DRMシステムは保護された楽曲を許可されたデバイスだけで再生するようにしなくてはなりません。もしDRMで保護された曲のコピーがインターネット上に投稿されたとして、その曲をダウンロードした人のコンピュータやポータブル音楽機器で再生可能であってはならないわけです。そのためにDRMシステムは数々の秘密を使っています。秘密を秘密のままにしておくこと以外にコンテンツを保護する手段はありません。言い換えれば、もし最も高度な暗号を使って曲を保護したとしても、その曲の暗号を解く鍵をユーザのコンピュータなりポータブル音楽機器なりのなかに隠しておかなければなりません。いままでに誰もこのような秘密に頼らずに動作するDRMシステムを完成させていないのです。
問題は言うまでもなく、世界にはたくさんの頭の良くて、こうした秘密を解き明かし、みんなが無料の(盗んだ)音楽を聴ける方法を公開するのが好きな人がいるということです。しかもそのなかの一部の人には時間もたっぷりあるということです。彼らはしばしばそれに成功するため、DRMを使ってコンテンツ保護をしようとしている企業はより発見されにくい秘密を用いたDRMにアップデートし続けなければなりません。これはまさに“いたちごっこ”です。アップル社のDRMシステムはFairPlayという名前です。このFairPlayも過去に何度か問題が発生しましたが、iTunes storeのソフトや、iTunesジュークボックスソフトやiPod自身のソフトをアップデートすることによってそれらの問題点を修正することができました。今のところわれわれはレコード会社に対する、彼の音楽を保護する、という約束を守ることができていますし、合法的なダウンロードミュージックの業界においては、最も自由な権利をユーザに提供することができています。
こうした背景を踏まえて、将来の3つの選択肢について検討してみたいと思います。
第1の選択肢は、現在の路線を継続することです。それぞれのメーカーが、音楽の販売、再生、保護のための独自システムを使って自由に競争するのです。この市場の競争は非常に激しく、巨大な世界企業たちが新しい音楽機器とオンラインミュージックストアの開発に多大な投資をしています。アップルもマイクロソフトもソニーも全て独自システムを使って競争しています。マイクロソフトのZune storeで購入した曲はZuneだけでしか再生できません。ソニーのConnect storeで購入した曲はソニーのプレイヤーでしか再生できません。アップル社も同様です。これが業界の現在の状況であり、お客様は革新的な製品とたくさんの選択肢に囲まれ続けることになるでしょう。
消費者が一度このような独自方式のミュージックストアから楽曲を購入すると、彼らは永遠にその会社が提供する音楽機器を使うようにロックされてしまう、と批判する人がいます。あるいは、消費者が一度特定のプレイヤーを買うと、彼らはその企業のミュージックストアだけから楽曲を買うようにロックされてしまうとも。これは本当なのでしょうか。iPodとiTunes storeのデータを見てみましょう。これらは業界で最も人気のある製品ですし、われわれはそれらの正確なデータを持っていますから。2006年末までのiPodの販売台数は全部で9,000万台、iTunes Storeの販売曲数は20億曲です。平均すれば、これまで販売されたiPodに保存されているiTunes Storeで購入された曲は22曲となります。
現在最も売れているiPodは1,000曲を保存できるものですが、調査によれば平均的なiPodはほとんどいっぱいになっているそうです。つまり1,000曲のうちのたった22曲、すなわち平均的なiPodの音楽のうちiTunes Storeから購入されたDRMで保護された曲はわずか3%未満なのです。残りの97%は保護されていない、オープンフォーマットの曲に対応したプレイヤーであればどんなプレイヤーでも再生可能な曲なのです。たった3%の曲が将来にわたってユーザをiPodにロックしてしまうというのは信じ難い話です。そしてまた、平均的なiPodに入っている97%の曲がiTunes Storeから購入されたものでないということからも、iPodユーザがiTunes Storeにロックされていないということは明らかでありましょう。
アップル社にとっての第2の選択肢は、異なるメーカーのプレーヤーと音楽ストア間での相互運用性を実現するためにFairPlay DRM技術を現在および将来の競合他社にライセンス供与することです。一見してこれは良い考えのように思えます。なぜなら利用者の選択肢を将来にわたって増やすからです。同時にアップル社もささやかながらFairPlay DRM技術のライセンス料によって利益を得ることができるかもしれません。が、しかしもう少し詳細に見てみると、この選択肢には問題があることがわかります。最も深刻な問題はDRMのライセンスによってDRM技術の秘密がたくさんの企業のたくさんの人々に明らかになってしまうということです。そしてそれらの秘密は必ず外部に漏れてしまうということは歴史が証明しているところです。インターネットはこうした漏洩をさらに深刻なものにするでしょう。こうした漏洩はDRM保護を無効にするソフトウェアプログラムを出回らせ、許可されていないプレーヤーで楽曲が再生できることになってしまう恐れがあります。
同じくらい深刻な問題は、こうした漏洩から生じた損害をいかにすばやく修復できるかということです。効果的な修復は、ミュージックストアのソフト、ジュークボックスソフト、そしてプレイヤー自身のソフト全てに関係し、それらに新しい秘密を付加する必要がでてくるでしょう。そしてこのアップデートされたソフトを何千万、何億というMacやPC、音楽プレイヤーに行き渡らせなければなりません。これらはすべて迅速に、一糸乱れず行わなければなりません。それはこれら全てを1社がコントロールしていても大変困難なことです。が、もし複数の企業が断片的にコントロールしている状況では、実行することはもはや不可能でしょう。
アップル社は次のような結論を既に出しています。すなわち、もしわれわれが他社にFairPlayをライセンスしたら、4大レコード会社からライセンスを受けている音楽を保護できる保障はもはやできない、と。おそらくマイクロソフト社が最近彼らのDRM技術を他社にライセンスするオープンなモデルから、独自のミュージックストア、独自のジュークボックスソフト、独自のプレイヤーというクローズドなモデルに力点を変えつつあるのも、彼らがわれわれと同様の結論に達したからでしょう。
3番目の選択肢はDRMを完全に撤廃してしまうというものです。すべてのオンラインストアが、オープンでライセンス可能なフォーマットにエンコードされたDRMフリーの楽曲を販売する世界を想像してみてください。このような世界では、すべてのプレーヤーがすべての店舗で購入した曲を再生でき、すべての店舗がすべてのプレーヤーで再生可能な曲を販売できるのです。これが消費者にとって最良の選択肢であることは明らかですし、アップル社もこの選択肢を心から支持したいと思います。もし四大音楽企業がアップル社にDRM保護の不要な楽曲をライセンスしてくれれば、われわれはDRMフリーの楽曲だけを売るようにiTunesストアを変えるでしょう。これまでに製造されたすべてのiPodは、こうしたDRMフリーの音楽を演奏するようになるでしょう。
ではどうすれば4大レコード会社はアップル社や他社に対してDRMシステムを使わない音楽配信を許諾するようになるのでしょうか。一番シンプルな回答は、DRMというものが音楽の著作権侵害を防ぐために、うまく機能していたとはいえないし、これからもしないだろうというものです。4大レコード会社はオンラインで販売される彼らの全ての曲はDRM保護されることを要求していますが、これらの会社は、年に何十億というまったく保護されていない楽曲が収録されたCDを販売し続けています。そうなのです、これまでCD向けにDRMシステムが開発されたことは一度もありませんでした。だからCDで配られる楽曲は全て簡単にインターネットにアップロードすることができます。そしてそれらはどんなコンピュータにもプレイヤーにも不法にダウンロードされ、再生されるわけです。
2006年にDRM保護された楽曲の世界中のオンラインストアでの販売数は20億曲にも満たないものでした。これに対してレコード会社自身がCDで販売したDRMフリーの、保護されていない楽曲は200億曲以上販売されたのです。レコード会社は曲の大部分をDRMフリーで販売し、しかもその態度を変えようとはしていません。なぜなら彼らは収入の大半をCDの販売に頼っていますが、CDプレイヤーはDRMシステムをサポートしていないからです。
90%以上の曲がDRMフリーで販売されている現状にあって、残りのほんの少数の曲をDRMで保護して販売してレコード会社にいったいどんなメリットがあるというのでしょうか。何もないように思えます。どちらかといえば、DRMシステムの開発、運営、更新には技術的な専門知識や経費が必要なため、DRM保護された楽曲を販売する企業の数はこれまで限定されていました。もしこうした制約がなくなれば、音楽業界には、革新的なストアやプレーヤーに投資しようとする新しい企業がたくさん参入してくるでしょう。これはレコード会社にとっても大変喜ばしいことであるはずです。
DRMシステムに関する懸念の多くはヨーロッパ諸国で起こり始めています。ですが、現在の状況を不満に思っていらっしゃるみなさんは、その不満のエネルギーを、レコード会社にDRMフリーの楽曲を売るよう説得するほうに向けるべきなのです。ヨーロッパ人にとって4大レコード会社のうち2.5はすぐ近所にあります。最大の会社ユニヴァーサルは、フランスの会社のヴィヴェンディが100%所有しています。EMIはイギリスの会社ですし、ソニーBMGはドイツのベルテルスマンが50%を所有しています。これらの企業に、彼らが持つ楽曲をアップル社やその他の企業にDRMフリーでライセンスするよう説得すれば、真に相互利用可能な音楽市場が生まれることでしょう。これが実現すればアップル社は心から歓迎したいと思います。
(了)