竹炭、シイタケ作りも…日本文理大
大分市東部にある日本文理大学のキャンパスから車で5分。
目の前に、うっそうと茂る森が広がった。ヘルメットに長靴姿で、腰からナタを下げた同大の学生5人が、虫よけスプレーを全身に念入りにかけた後、山道に分け入った。
台風12号が通り過ぎたばかりの8月上旬。学生たちがボランティアで取り組む里山保全活動に同行した。大雨と強風で倒れた木々。参加者は惨状に衝撃を受けながら、シイタケ菌を植えた「ほだ木」に光が当たらないよう、ナタで切った枝をかぶせ直した。
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里山保全は、学生たちの発案で昨秋始まった「四季の森プロジェクト」の一環だ。きっかけは、昨年7月、山口、島根両県に大きな被害をもたらした豪雨。浸水した家屋の泥をかき出すボランティアに参加した学生が、殺菌用の石灰をまこうとすると、住民から「目が痛くなる」「後で処理に困る」などと断られた。
「どうすればよかったんだろう」。その後、石灰の代わりに竹炭を使う方法があることを知った。キャンパスの周りには竹林が広がっている。だが、人手不足で竹炭を作るどころか、森林の整備にも手が回らない。そんな現状を知った学生たちは「それなら、自分たちでしよう」と考えた。
学生たちの思いを聞いた同大の人間力育成センターが地元で林業に携わる住民に頼み、1・36ヘクタールの森林を無償で借り受けた。チェーンソーの使い方も、住民から手取り足取り教わる。副センター長の高見大介助教(33)は「林業で世の中を支えているんだ、という姿を学生に見せてほしい、とお願いした」と振り返る。
同センターは、2007年に開設された。東日本大震災で被災した小学生を学生が大分に招くなどの様々な活動を支援している。センター長の吉村充功(みつのり)教授(38)は「社会に出て力強く生き抜くには、授業で専門知識を学ぶだけでは足りない。地域の人々と交わり、成功や失敗体験を重ねて人間力を磨くことが必要だ」と話す。
同プロジェクトは学生の自主的な活動で、単位にはならないが、現在、1、2年生35人が参加する。成長の早い竹が森林を占領してしまうため、月に1、2回、竹などを伐採。小学生向けの教室を開き、竹炭の作り方を教える。大分県特産のシイタケの栽培も手がけている。
経営経済学科2年の和田一希さん(19)は「自分たちの成果なんて、ちっぽけかもしれない。でも、『助かった』と感謝してくれる人がいて、もっと人の役に立ちたいという思いが強くなった」と手応えを語った。
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その日の午後、キャンパスに戻り、他のメンバーも集めてミーティングが開かれた。
「しばらく行かない間にあんなに荒れてしまった」「道が崩れて危険。安全を確保しなければ」。沈痛な雰囲気の中、プロジェクトリーダーで、航空宇宙工学科2年の三浦公徳さん(20)が「地域の人たちの好意で借りている森。責任をもってやっていこう」と呼びかけ、今後の対策を話し合った。
手が入らず荒れてしまった森を、子どもでも安心して入っていける里山として再生させたい――。その夢を実現するため、試行錯誤が続く。(保井隆之)