今年の春ごろまで「漫画村」というサイトがありまして、ここでは市販の漫画をスキャンしてデータベース化。誰がどう考えても著作権法違反という状況があって、政府が緊急対策として民間通信事業者へ自主判断を促し、結果として一般の方から当該サイトへの通信を遮断(=ブロッキング)し、当該サイトは閉鎖となりました。
このように「ブロッキング」は通信事業者が特定のサイトへの接続を遮断して「誰からも見られないようにする」というもので、漫画村は著作権法違反がベースであり、このほかの適用例としては児童ポルノ関係のサイトでも実施されているものです。
一応大義名分はあるんですが、問題がないわけではありません。
まずは憲法問題
日本国憲法第21条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
21条は表現の自由、言論の自由の根拠条文であり、集会の自由、結社の自由は表現の自由に類するものとして保障されています。更に2項では行政機関による検閲の禁止、そして通信の自由を定める現代日本の骨格ともいえるべき部分でもあります。
インターネットについては電気通信事業法が所管となりますが、この電気通信事業法の179条では「通信事業者の取扱中にかかる通信の秘密を侵すことを禁止」しています。
こういう背景があるので政府の見解としては「法制度整備までの臨時的かつ緊急的な措置」という立場をとっており、政府もどこかグレーなことをしていることの自覚はあるようです。
あまり自慢になりませんが、私のネット歴はかれこれ25年ぐらいあります。パソコン通信当時からネット上には良くも悪くも「既存メディアにない独特の自由」があり、色んな声が飛び交って参りました。実際、こうした「自由」は憲法、或いは電気通信事業法によって支えられている部分があり、本来であれば政府主導によるブロッキングに対して、もっと政治に関わる方が声を上げるべきですが、大義名分がそれなりにあったり、或いは政局に持ち込めないなどの理由で、議論は行政府と法学者などを中心に行われているようです。
よくよく考えなければいけない部分は「政府の判断で民間通信事業者へ自主判断を促してブロッキングができる」ということは、時の政権の考えによって、解釈の濫用が可能になってしまう可能性はゼロではないはずなんです。
別に著作権違反や児童ポルノを推奨する意図はありませんよ。
ありませんが「法」を考えた場合、避けられない議論になるかと思います。
漫画村のケースでは「漫画原作者の権利が侵害され、且つ、出版社の売り上げ減」が大義名分ですが、同様の事例はyoutubeやニコニコ動画でもあることです。こうなるとYoutubeですらブロッキング可能という理屈になります。
ブロッキングの是非については法令も無ければ(検討はされているが、憲法上の課題が解決しない上、憲法改正じたいの動きも進みそうで先行き不透明なのでフリーズしているような感じ)、司法による判例もありません。そんな中、表現の自由、知る自由、通信の秘密への制限が無く、且つ、時の政権による濫用が防がれるような形で、いわゆる「公共の福祉に抵触」するような場合にのみ、ブロッキングが合憲なものとして対処できるよう考えなければならないと思います。
これまでの議論としては、こうした表現の自由の問題が解決しない限り違憲であり、法制化が難しいという軸足を置く勢力と、出版社など権利者側の(アンダーグラウンドのサイトは)「海外サーバーに置かれるなどして、運営者の特定ができず(国内法では)対処できない」ことからブロッキングの法制化を目指している勢力に分かれています。
しかし、本日更新の
BuzzFeed Newsでは、日本の弁護士(カルフォルニア修での弁護士資格をも持つ)が米国での訴訟手続きを通じ、データが置かれたクラウドフレア本社がある米国で民事訴訟を提訴。その上で、証拠開示手続き(ディスカバリー)を行い、クラウドフレア社から漫画村に対する課金関係の資料を取り寄せ、漫画村運営者の特定を試みた結果、特定に成功したと報じられていますので、そのことで対処が可能であれば、安易なブロッキングには賛同しかねます。
どうしても進めて行くのであれば、憲法21条を帝国憲法29条にあるような「法律の範囲内」と一言入れて改正をするか、公権力による濫用防止や当事者の手続き保障的な視点から、裁判所が求めによりブロッキングを行えるようにできるのが現実的な所かな…と思ってます。