主宰句鑑賞文 最後の寄稿(獅子吼2022年10月号)

2022年10月04日 | 俳句
時計草(九月号主宰句鑑賞)

蟇婆娑羅の顔をしてゐたり
 蟇の句が八月号で二句、今月も二句と続きました。お庭に定住しているのでしょうか、日常的に蟇との出会いがあり、その度に異なった発想が湧き出て来るのでしょう。
 その外見について、前回の「蟇汝が風貌は哲学者」では考えに耽る髭面のソクラテスを想像しましたが、今回は見得を切る隈取の歌舞伎役者を想像します。宗匠の自由自在の発想により、我々は俳諧の楽しさの真骨頂を見せて頂いているようです。

炎熱を逆手に生きる力とも
 地球温暖化の影響もあり昨今の夏の暑さは並大抵ではありません。ともすると炎暑に負けて俳句を詠む気力も萎えてしまいそうになりますが、宗匠は「炎熱を逆手に取って生きる力としようではないか!」と力強く詠まれました。極暑に対処するための宗匠からのアドバイス又は励ましともいうべき一句のように受け止めました。
 「逆手に取る」とは「相手の攻撃手段を逆用して、自分の攻め手とすること」とあります。炎熱が相手であれば、それを上回る情熱をもって暑さに立ち向かいなさいという事なのでしょう。

Tonka John 老いにけらしな時計草
 辞書には出て来ない言葉「トンカジョン」を検索すると、元参議院議員某氏のブログに(私には)意外な記述を見つけました。『柳川で「トンカジョン」といえば、大きなお利口さんの子ども。発展して「良いとこのお坊ちゃん」的な意味を持つ。「トンカジョン」という柳川の方言を世に出したのは、「油屋のトンカジョン」と呼ばれていた北原白秋だった。白秋は詩集「思い出」の中で柳川弁を使い、詩を書いた。』
 以上を参考に句意を解釈すれば『子供の頃はトンカジョンと呼ばれた「お利口さん」も、時の流れの中で老いてしまったことだなぁ。』となるのでしょう。白秋の作品との関連性もありそうですが、残念ながら「椰子の実」と「からたちの花」程度しか知らない私には分かりません。青空文庫の中に詩集「思い出」が見つかったので、ゆっくり読もうと思います。

百日紅不立文字と致すべし
 不立文字(ふりゅうもんじ)という難解な言葉を辞書で引くと、「仏の道は言葉や文字で伝えるものではなく、心で悟らねばならないという事。以心伝心とともに禅宗の根本的な立場を示す語」とあります。従って、掲句には「夏の間中、休むことなくひたすら咲き続ける百日紅。その姿に、言葉や文字ではなく視覚から、日々の生き方の指針を直観すべきであろう。」というような句意を感じました。それはそのまま、森羅万象を対象とする俳句との向き合い方にも通じる教えと思った次第です。

6 コメント

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Unknown (きりぎりす)
2022-10-05 15:23:06
👍
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何回か (きりぎりす)
2022-10-06 06:47:32
拝読しました。一度では入って来ませんでした。
トンカジョンを英語?で表した意図は?とか。
奥が深いですネ。 
良い句がいっぱいで…
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Tonka John (健人)
2022-10-06 21:17:56
Tonka John と英語で表現した理由は?
実は私も分からぬまま鑑賞文を書いていました。
今日改めてネット上の「青空文庫」で白秋の詩集「思ひ出」を走り読みしたところ、詩の中に「Tonka John」の表現が幾度も出てきました。

JOHN, JOHN, TONKA JOHN,
油屋の JOHN, 酒屋の JOHN, 古問屋ふつどいやの JOHN,
我儘で派美はで好きな YOKARAKA JOHN
“SORI-BATTEN!”

というように、白秋は柳川弁の言葉を詩の中で英語のように書いたようでした。疑問を呈していただき感謝です。私もこれでスッキリしました。
ちなみに“SORI-BATTEN!”は、「そうだけれども」の柳川弁だそうです。
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なにも (きりぎりす)
2022-10-07 07:13:07
勉強してなくて…
「ばってん」、ほのぼのとしたいい言葉ですね。
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ばってん (健人)
2022-10-07 13:55:47
昔々、ラジオで「とんち教室」という番組があり、
先生は青木アナウンサー、
生徒の中に「長崎ばってん」さんという人がいました。
ただそれだけですが。。。
BATTEN YOKATO!!
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残念ながら (きりぎりす)
2022-10-07 16:54:49
題名と名前は覚えてますが、内容と声までは覚えてません。
どちらにしても古い話ですね!
ヨカト!ヨカト!
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