ブーゲンビリアのきちきち日記

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反戦の視点・その75 第5回 愚かしい海賊派兵を阻止しよう

2009年03月07日 09時02分24秒 | 井上澄夫さんから
反戦の視点・その75

第5回 愚かしい海賊派兵を阻止しよう
      ─海上自衛隊による海外拠点の確保という危険な動き─

                   井上澄夫 市民の意見30の会・東京  
                     沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック

◆海賊対策新法案─なんとも強引で奇妙なつじつま合わせ─
3月4日に政府が与党海賊対策プロジェクトチームに提示し了承された「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法案(仮称)」(後注参照)は犯罪的な駄作である。海上保安庁法と自衛隊法とを強引に接木するばかりか、海上自衛隊の武器使用基準を大きく緩和する。接近する海賊船を先制攻撃して海賊を殺しても違法性はないという「危害射撃」を認めるのだが、それは容易に交戦(戦闘)に発展するだろう。「危害射撃」の容認は、これまでかろうじて守られてきた、国の交戦権を否認する憲法第9条第2項を突き崩すことである。 
 ※ 法案の骨子は田村重信・自民党政務調査会主席専門員のブログに掲載されている。   URL http://tamtam.livedoor.biz/archives/2009-03.html#20090304
 新法案は4の(1)で「海賊行為への対処」は海上保安庁が実施するとしている。しかし、同時に5〔海賊対処行動〕でこう規定している。
〈防衛大臣は、海賊行為に対処するため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において海賊行為に対処するため必要な行動をとることを命ずることができる。〉
 つまり「海賊行為への対処」はあくまで海保の任務だが、「特別の必要がある場合には」自衛隊がそれを代行するというわけだ。「特別の必要」というあいまいな規定はいかようにも拡大解釈あるいは歪曲され得ることに注意したい。
 さてその場合の「武器使用」だが、次のように規定されている。
【4の(2) 海上保安官又は海上保安官補は、海上保安庁法第20条第1項において準用する警察官職務執行法第7条の規定により武器を使用する場合のほか、現に行われている上記2の(6)〔後注参照〕の海賊行為の制止に当たり、当該海賊行為を行っている者が、他の制止の措置に従わず、なお船舶を航行させて当該海賊行為を継続しようとする場合において、当該船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要とされる限度において、武器を使用することができる。】
 ※ 注 2の(6)海賊行為をする目的で、船舶を航行させて、航行中の他の船舶に著し   く接近し、若しくはつきまとい、又はその進行を妨げる行為
 新法案の4の(2)は、明らかに下記の海上保安庁法第20条を下敷きにしているが、まったく同じではない。
 【海上保安庁法第20条  海上保安官及び海上保安官補の武器の使用については、警察官職務執行法第七条の規定を準用する。
  2 前項において準用する警察官職務執行法第7条 の規定により武器を使用する場合のほか、船舶の進行の停止を繰り返し命じても乗組員等がこれに応ぜずなお海上保安官又は海上保安官補の職務の執行に対して抵抗し、又は逃亡しようとする場合において、海上保安官又は海上保安官補は、当該船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。】
 つまり「海賊行為への対処」での武器使用については、海上警備行動と同じく警察官職務執行法第7条(正当防衛と緊急避難)を準用するだけではなく、海上保安庁法第20条2項(「危害射撃」の権限)も準用するという。ただし「自衛隊は逮捕権などの司法警察権を持たないため、現場から既に逃走した海賊の追跡や武器使用はできない」(3月4日付『共同通信』)。警告射撃してもなお民間船舶に接近してくる海賊船に対して「危害射撃」を加えることはできるが、急回頭して逃げ出した海賊船に追い討ちをかけることはできないということだ。その点は海保法と異なるのだが、そうなると、逃亡を試みている、あるいは逃亡を開始したなどの判断の基準が問題になる。その判断を誰がするのか。
 新法案は、ほんらい海保の任務である「海賊行為への対処」を、それとは無関係の海上自衛隊に「海上警備行動」を発令してやらせるという、どう考えても筋の通らない話に「出口」をつけるための苦肉の策である。艦隊派遣を先行させ、あとから追いかけて法律を作って公海上で艦隊の任務を切り替え、それでつじつまを合わせるという手口である。
 海賊対策新法案は、そもそも漢方的な根治療法を必要とする問題に、無理に外科手術的対応をしようとして生まれた吹き出物である。

◆海賊派兵に向けた実動演習と図上演習
 海上自衛隊の派遣艦隊は2月10日に呉基地を出港、豊後水道沖の太平洋で実動演習を行ない、同月13日に帰港した。そして2月20日、広島県の呉沖で海自と海上保安庁による初の海賊対処共同訓練を実施した。2月26日付『朝雲新聞』(自衛隊の準機関紙)から引用する。
 〈訓練には海自から派遣護衛艦役で「たかなみ」と艦載のSH60K哨戒ヘリ1機、海保庁から商船役で巡視船「きい」と海賊船役の巡視艇「あきかぜ」が参加。/3艦艇は午後零時20分、呉沖で訓練を開始。日本の貨物船「きい」から海賊接近の急報を受けた「たかなみ」が救出に向かうというシナリオ。/付近を航行する「きい」から「海賊船が急接近中!」との緊急電を「たかなみ」が受けたところから訓練を開始。艦橋では恒益艦長が同船の救助を決断、「きい」に対し無線で「すぐにそちらに向かう」と連絡、貨物船の位置を確認するとともに現場に向け速力を上げた。/艦橋では電測員がレーダーで貨物船と海賊船の動きを追い、海賊船が日本船に向け左舷側から急速に近づいている状況を報告。海賊の行動を阻止するため、国際VHF無線で乗員が「すぐに進路を変更しなさい」と呼びかけを開始するが、相手から応答はない。/艦長は実力での阻止を決断。後部のヘリ甲板で発進準備にあるSH60K哨戒ヘリに対し発艦を命令、同機は数分後に離艦、現場に急行した。SHは目標を確認すると低空で前方に回りこみ、相手からの銃撃に備えて射程圏外を維持しながら海賊船?に圧力を加え、行動を抑制。/この間、後方から追い付いた「たかなみ」が海賊船の前方に割り込み、探照灯で停船を命令。相手が無視すると乗員が海賊船の前方に向け信号弾を発射。護衛艦の“本気”を悟った相手は左に急回頭し、高速で貨物船から離れていった。「たかなみ」はその後、ヘリを貨物船に向かわせ、被害の有無を確認させたところで状況を終えた。〉
 この実動演習はマスメディアに公開された。海賊船に哨戒ヘリが圧力を加え、護衛艦が海賊船が狙う貨物船と海賊船の間に割り込み信号弾を発射したところで、「護衛艦の“本気”を悟った相手は左に急回頭し、高速で貨物船から離れて」いくというシナリオだから、機関銃などの武器は用いていない。シナリオによっては警告射撃もあり得ただろうが、それは回避した。一口に言えば、肝心のデリケートな部分を隠してマスメディアに「見せる」だけの訓練だった。
 しかし海賊派兵の準備は強行されている。実動演習に続き図上演習も始まった。
 〈ソマリア沖海賊対策 防衛省・自衛隊が図上演習始める
 東アフリカ・ソマリア沖の海賊対処で部隊派遣の準備をしている防衛省・自衛隊は3月2日、東京・目黒の同省施設で図上演習を始めた。2日かけて外務、法務、国土交通省など関係省庁との連携要領を確認する。/派遣部隊の近くにいる商船が日本関連かどうか不明の場合など、今回の海上警備行動の下、現場が判断に迷うケースで関係省庁の連携を促進するのが狙い。武器使用に関しても想定シナリオで対処しながら意思統一を図る。防衛省側130人と省庁側25人が参加。派遣部隊の呉基地ともネットワークでつなげて実施した。〉(3月2日付『毎日新聞』)
 実動演習も図上演習も行なわれた。ここまでくれば、海上警備行動の発令を待つばかりということになる。

◆海外拠点確保に走る海上自衛隊─海賊派兵新法は恒久法!
 テロ対策特措法もイラク特措法も特別措置法という時限立法である。しかし海賊対策新法は一般法(恒久法)であり、それが成立すれば《海自艦隊は随時出動できる》。マラッカ海峡での海賊事件発生件数は今は激減しているが、今後もそうである保証はない。海賊行為がまた活発になれば、海賊対策新法に基づいて海自艦隊が出動することになる。それこそかつて財界が声高にブチ上げた「マラッカ海峡生命線論」の実践ではないか。
 同じく石油輸入のシーレーンを防衛するために叫ばれた「ペルシャ湾生命線論」はどうなったか。アフガニスタン侵略戦争を拡大しつつある米艦船への海自艦隊による洋上給油は続いている。海自の補給艦を警護するため護衛艦がインド洋・アラビア海を遊弋(ゆうよく、艦船が警戒のため洋上をあちこち航行すること)していることを想起しよう。洋上給油活動は米などによる海上阻止行動(MIO、米軍の「不朽の自由」作戦の一部)を支援することだ。しかし、ひたすら秘されているから余り知られていないが、実は、補給艦隊は石油を積み込むためドバイに寄港するなど、ペルシャ湾にも出入りしている。ペルシャ湾の東岸に長い国境線を持つイラン政府にとって、それは海自が米軍に呼応して軍事的恫喝を加えていることに他なるまい。
 ところで、海賊対策新法は制圧の対象を「海賊」としているだけで、活動地域は特定されない。すでにのべたように、恒久法であるから活動期間に期限はない。「海賊行為」(航行中の船舶の強奪、運航支配、船内の財物の強奪、乗員を人質にすることなど)さえ発生すれば、【世界のどこにでも】、【いつでも】、海自艦隊は出動できる。そういう法案を政府は国会に提出しようとしているのである。
 派遣予定の艦隊はいつ帰国するのか。海自は呉基地で派遣される隊員の家族に派遣は「3,4カ月」と説明したという。しかしそうなる根拠は明示されなかった。
 〈各国軍の警護により、今年初めから2月中旬までの海賊被害は4件にとどまり、1年間で110件ほど起きた昨年と比べると減少傾向にある。/だが、このまま減少し続けるという保証はない。(イエメン沿岸警備艇の)司令官は「3月中旬に季節風がやみ、高波がなくなった時、(小型高速艇を使った)海賊行為が再び活発化する恐れは十分ある」と警告する。/海賊問題に詳しいイエメンの専門家も「軍艦の配備が抑止力になり、海賊行為が減ったとみるのは早計だ」とみる。〉(3月2日付『共同通信』)
 さて海自による海外拠点確保の動きである。2月26日付『朝雲新聞』(自衛隊の準機関紙)の記事「海賊対策活動拠点 ジブチの港湾など可能 調査団が帰国、報告 受け入れ国と調整 急ぐ」を紹介する。
 〈防衛省は2月24日、ソマリア沖の海賊対策でアデン湾周辺国に派遣していた現地調査団による調査の概要を公表した。調査団は2月8日から同20日まで、海自部隊の展開が見込まれるイエメン、ジブチ、オマーンなど各国の港湾や飛行場など拠点となる適地の調査に当たっていたもので、港湾では米・仏軍が駐留しているジブチのジブチ港が各種協力を得られる有力な選択肢と評価、自衛隊機の活動拠点についてもジブチ空港が現実的と報告している。/調査は港湾、空港担当の2グループに分かれて行われ、艦艇担当はイエメン、ジブチ、オマーンをそれぞれ訪問、一部はバーレーンも訪れた。調査団に対しイエメン、ジブチ両国は港湾施設の使用など可能な支援の用意があることを表明。/これらの結果から港湾施設ではイエメンのアデン港、ジブチのジブチ港、オマーンのサラーラ港のいずれもが、自衛隊艦艇の活動拠点となることを確認。とくにジブチ港は米軍、仏軍が駐留しており、医療支援など各種の協力が受けられることから有力な選択肢と評価した。/空港担当グループはジブチとオマーンを訪問。ジブチ空港では国際空港地区、米軍基地、仏軍基地、ジブチ空軍基地を?調査。米・仏軍基地は駐機場に余裕がないため、今後の調整が必要になるが、自衛隊機の活動拠点としては現実的な選択肢としている。/オマーンでは日本など外国軍隊の空港・港湾施設の利用に関する同国政府の考え方を聴取。その結果、支援を受けるにはハイレベルの調整が必要と判断した。/調査団は今後の対応として、受け入れ国との艦艇・航空機の派遣や連絡調整の仕組みの検討、関係国からの各種協力の確保を検討する必要があるとしており、政府はこの報告を踏まえて関係国との調整を急ぐ。〉
 すでに本シリーズ「反戦の視点・その70」で引用したが、2月2日付『産経新聞』「ソマリア沖派遣 防衛省が自衛隊・陸海空の統合運用検討」を再度紹介する。
 〈アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、防衛省が陸海空3自衛隊の統合運用を検討していることが2月1日、分かった。中東カタールの米軍司令部に空自連絡官を置く方針を固め、P3C哨戒機部隊が派遣されれば、空自のC130輸送機で日本から物資を定期的に運ぶ。海自の拠点となるジブチでは、陸自による基地警備が可能か検討を始めた。実現すれば、国際平和協力活動で初の統合運用になる。/海自派遣に伴い、防衛省は、米軍がカタールに置く合同航空作戦センター(CAOC)に空自要員を連絡官として送る。CAOCは米中央軍が管轄する中東やソマリアを含むアフリカ北西部での航空作戦を一元的に指揮する司令部。イラクやアフガニスタンに駐留する英軍や豪軍も要員を派遣している。空自は昨年12月まで10人の要員をCAOCに常駐させていたが、イラクでの輸送任務終了に合わせ、引き揚げさせた。CAOCに復帰することで、イラクやアフガン情勢を把握できるメリットも大きく、派遣時期や要員の規模を詰める。/海自がP3Cの派遣に踏み切れば、空自は輸送任務も担う。モデルケースになるのは中東ゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)派?遣だ。空自は、平成8年からUNDOFの後方支援を行っている陸自要員に半年に1度の割合で物資を送っており、同様の輸送を行う。C130が日本とジブチを往復する際、給油のための複数の中継地点が必要で、近く候補地の選定に入る。/陸自も海賊対策に加わることに前向きだ。海自のP3C部隊の拠点には、ジブチの国際空港に近い米軍基地や仏軍基地などが想定される。陸自は駐機場などの警備で要員を派遣できるか検討に着手したが、陸自による警備の必要性については、防衛省内局に慎重な意見もあるという。〉
 海賊対策で「陸海空3自衛隊を統合運用する」というこの記事は、現段階ではかなりの程度、産経新聞社の「期待」を反映しているように見える。外国の軍隊が自国の港湾や飛行場を使用することには、どの国の政府も警戒をあらわにする。外国の戦争に巻き込まれる恐れがあるからだ。政府は護衛艦の活動拠点としては、ジブチのジブチ港、イエメンのアデン港、オマーンのサラーラ港が使いやすく、P3C哨戒機の拠点はジブチが有力と見ているが、ジブチを拠点にするためには同国と地位協定を締結しなければならない。
 クウェート─イラク間で武装米兵と米軍需物資を運んでいた航空自衛隊がイラク特措法の期限切れで撤退した理由の一つは、イラクと地位協定を締結する見通しが立たなかったからだ。先に引用したように、2月26日付『朝雲新聞』は「港湾では米・仏軍が駐留しているジブチのジブチ港が各種協力を得られる有力な選択肢と評価、自衛隊機の活動拠点についてもジブチ空港が現実的と報告している。」とのべているが、それは自衛隊側の勝手な期待にすぎない。同国にはすでに、仏、米、独、スペイン軍が駐留している。そこに海上自衛隊が割り込もうというのだ。ジブチ政府が地位協定と引き換えに日本による経済援助を求めることも十分あり得る。それは、アラブとアフリカの十字路に位置する人口80万人の「小国の智恵」というものだろう。

 自衛隊が外国の港湾や飛行場を恒常的に使用するのは、海外に軍事拠点を持つこと、平たくいえば、海外基地を持つことだ。陸上自衛隊はイラク・ムサンナ州サマーワに、一時期ではあるが基地(駐屯地)を維持していた。自衛隊の活動(作戦)は際限なく、外へ、外へと広がりつつある。その恐るべき現実を凝視し、海自艦隊の派遣と「危害射撃」を容認する海賊対策法案の成立とを、総力をあげて阻止しようではないか。
                             (2009・3・6記)

【付記 海賊対策法案の国会提出は先に3月10日と報道されたが、3月4日付『共同通信』は「13日にも閣議で決定、国会に提出される見込み」と伝えている。しかも「政府・与党は3月5日、今国会に提出するアフリカ・ソマリア沖での海賊対策のための新法案について、衆院の特別委員会で審議する方針を固めた。衆院解散・総選挙に備えて早期成立を図るのが狙い」という(3月5日付『時事通信』)。民主党は海賊対策新法案について態度を明らかにしていないが、前原誠司副代表は3月5日、国会内で開かれた安全保障をめぐる超党派議連の総会で、「ここに集まっている民主党議員(7人)は基本的に賛成の立場で来ている」とのべた(3月5日付『産経新聞』)。海賊派兵は迫っている。派兵批判をなお続けたい。】

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