ブーゲンビリアのきちきち日記

神奈川の米軍基地のある街から毎日更新。猫と花と沖縄が好き。基地と原発はいらない。

反戦の視点・その69 海賊派兵をめぐる各紙の主張を読む 2

2009年01月29日 19時27分57秒 | 井上澄夫さんから
▼1月10日付『産経』
 【主張】ソマリア海賊 海上警備行動で対応せよ    

 アフリカ・ソマリア周辺沖での海賊を抑圧するため、海上自衛隊艦船を派遣することなどを検討する与党プロジェクトチームの初会合が開かれた。現行法活用と「海賊新法」制定の両面を協議し、3月中旬ごろまでに結論を出すとしている。
 麻生太郎首相が海賊被害に対応するため、海上自衛隊の活用を前向きに検討すると表明したのは昨年10月17日だ。3カ月近くの間、与党と関係省庁は一体、何をしてきたのだろうか。
 国連安全保障理事会は昨年、3回にわたり各国に海賊行為制圧を求める決議を採択した。主要8カ国(G8)で艦船を出していないのは日本だけだ。中国艦艇3隻は6日から商船を護衛している。
 世界が一致して海賊を取り締まる行動を展開しているさなか、日本は「検討中」と、言い続けているだけだ。国際社会の責任ある一員としての役割を果たしているとは、とてもいえない。
 海警行動は、海上の治安維持のために必要な行動をとると自衛隊法第82条に明記されている。外国船を助けるのも人道上の行為であり、国際法的に問題はない。
 何もしないことは日本の国益を損なう。海警行動で迅速かつ有効な対処は可能だ。防衛相に速やかな発令を求める。

 『産経』の「国連安全保障理事会は昨年、3回にわたり各国に海賊行為制圧を求める決議を採択した。主要8カ国(G8)で艦船を出していないのは日本だけだ。中国艦艇3隻は6日から商船を護衛している。国際社会の責任ある一員としての役割を果たしているとは、とてもいえない。」という主張は、麻生首相と外務省の焦りを代弁している。「何もしないことは日本の国益を損なう。海警行動で迅速かつ有効な対処は可能だ。防衛相に速やかな発令を求める。」とは、「初めに派遣ありき」論調の典型である。
 
▼1月23日付『読売』
社説 海賊対策新法 現行法での対応は応急措置だ

 現行法による海上自衛隊の派遣は、あくまで暫定措置だ。海賊対策新法による対応が依然、急務で、怠るべきでない。
 ソマリア沖では、1日平均5、6隻の日本関連船舶が運航している。いつ重大な海賊被害が発生してもおかしくない。現行法に基づく海自派遣は、迅速性を優先した「応急措置」と言える。
 防衛省は今後、船舶警護と海賊対処に関する部隊運用基準の作成や、それに基づく部隊の教育訓練などの派遣準備に万全を期すべきだ。関係国との調整・協力や事前の情報収集も大切だろう。
 一方で、防衛省が従来、現行法での派遣に過度に慎重だったことには、大いに疑問がある。現行法での派遣は、他国の船を守れず、武器使用に一定の制限がある。現場指揮官が判断に迷う場面があるかもしれない。しかし、日本国民の生命・財産を守ることこそが自衛隊の最大の使命だ。
 現場指揮官の負うリスクと、日本関係船舶が海賊の脅威にさらされ続けるリスクのどちらを優先すべきかは自明だろう。

 『読売』の「日本国民の生命・財産を守ることこそが自衛隊の最大の使命だ。現場指揮官の負うリスクと、日本関係船舶が海賊の脅威にさらされ続けるリスクのどちらを優先すべきかは自明だろう。」という文言は海自に対する脅迫である。自衛隊の任務はそもそも「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つ」ことであり(自衛隊法第3条)、そこで言う「国」は政府の行政機構のことである。そこに私たち一人ひとりは含まれない。自衛隊にとって私たちは治安出動の対象でしかない(同条「〔自衛隊は〕必要に応じ、公共の秩序の維持に当る」)。
 「日本国民の生命・財産を守る」のは警察、あるいは海の警察である海上保安庁である。同紙は自衛隊の任務を勝手に拡大解釈しているが、これでは防衛省・自衛隊は面食らうだろう。

◆ぐずぐず言いつつ海上警備行動発令やむなし

▼1月24日付『朝日』
社説 〔海賊対策〕新法での派遣が筋だが

 政府は来週、方針を正式に定め、早ければ3月中にも護衛艦が現場海域へ向かう。
 ソマリア沖には、すでに欧米や中国など約20カ国が軍艦を派遣し、貨物船やタンカーの護衛にあたっている。だが、海賊行為は増え続け、最近では未遂も含めて2日に1件のペースだ。
アデン湾はアジアと欧州をつなぐ要路だ。1日平均6隻もの商船が航行している日本も何もしないではすまされない。
 海賊行為は犯罪であり、本来は海上保安庁の仕事だ。しかし、日本をはるかに離れたアデン湾で長期間、活動するのは、海上保安庁の装備や態勢では実質的に難しい。また海賊行為からの護衛は、憲法が禁じる海外での武力行使にはあたらない。国際社会に協力を呼びかけた国連安保理決議もある。事態の深刻さを考えれば、護衛艦の派遣はやむを得ない判断だろう。
 ただし、派遣の法的根拠となる自衛隊法の「海上警備行動」はそもそも日本の領海や周辺を想定したものだ。今回は極めて例外的な措置であることを忘れてはならない。
 本来なら、海賊を取り締まることを目的とした法律をつくり、自衛隊のできること、できないことをきちんと規定したうえで派遣すべきだ。
 政府は法案を通常国会に提出すべく準備している。課題は多いが、たとえば武器使用は正当防衛と緊急避難に限った警察官職務執行法を原則とし、かつ効率的な海賊取り締まりができるよう工夫をしてもらいたい。

麻生首相が泣いて喜ぶ主張だろう。「海賊行為からの護衛は、憲法が禁じる海外での武力行使にはあたらない」と言うが、憲法第9条は戦力の不保持を定めているのだから、武力行使に当たるか当たらないかにかかわらず、もともと自衛隊という戦力を海外に派遣すること自体が憲法違反なのである。
 そればかりか、問題の海域では英海軍がすでに銃撃戦で海賊2人を殺している。海自も海賊との交戦は大いにあり得るのだ。ROE(交戦規定、部隊行動基準)があいまいなまま海自の艦隊は派遣される。
それにしても、『朝日』は海賊取り締まり法を制定して自衛隊を堂々と世界の問題海域に派遣せよと主張しているのである。この社説で特徴的なことは海賊派兵が「長期間」にわたると勝手に決めていることだ。政府も与党も海上警備行動の期間に触れていない。海自は驚いているかもしれない。
 ※ 1月28日付同紙声欄に上の社説を批判する投書が掲載された。参考のため、一部   を略して引用する。

 ◎海賊対策には海保派遣が筋 会社員 高橋  迪(東京都江東区 64)
自衛官による海賊対策を容認した24日社説を読み、海上保安庁OBの私は納得できません。海賊は誘拐や身代金を要求する刑事犯罪であり、対策は治安官庁である海保の巡視船の責務です。/同庁長官が昨年10月、「総合的に勘案すると(海保の)巡視船を派遣すことは困難」と答弁しました。それが今の海上自衛隊の派遣論議につながっています。/海保の巡視船は世界一周航海ができ、欧州から日本までプルトニウム運搬船の護衛経験があり、北朝鮮不審船対応の武器、防護能力もあります。長官は配下の能力を理解せぬまま責務を回避した格好です。答弁内容をマスコミや国会は精査せず、まず自衛隊派遣ありきとする政治家の言説に利用されています。(以下略)

▼2008年12月27日付『毎日』
社説:海賊に自衛隊派遣 国会審議経た新法対応が筋だ

 麻生太郎首相がソマリア沖の海賊対策で、浜田靖一防衛相に自衛隊派遣の検討を指示した。首相は、新法制定を目指しつつ、それまでの「つなぎ」として、自衛隊法82条の「海上警備行動」発令による海上自衛隊派遣という「2段階対応」を考えているようだ。
 ソマリア沖やアデン湾は世界貿易の大ルートだ。ここを航行する船舶は年間約2万隻を数え、約1割が日本関係の船舶である。輸入大国・日本にとって海上輸送の安全確保は極めて重要であり、海賊対策は国益にかなう。自衛隊派遣も、海賊対策の有効な方策の一つであろう。
 自衛隊の海外派遣は、武器使用基準など十分な国会審議を尽くしたうえで、新たな法律で対応すべきである。これを先送りし、当面、海警行動で乗り切ろうとする手法には問題もあり、慎重な検討が求められる。
 海警行動は、99年の北朝鮮不審船事件と04年の中国原子力潜水艦領海侵犯事件で発動されたことがある。今回、発動されれば海警行動による初の自衛隊海外派遣となる。「海の治安出動」と言われる海警行動は本来、日本の周辺海域を想定したものであり、与党内にもソマリア沖への派遣を疑問視する声がある。また、外国商船を護衛することもできない。海自には海賊を逮捕するノウハウもない。武器使用基準や、逮捕した海賊の身柄の取り扱いも今後の検討課題である。
 首相が海警行動で派遣を急ぐのは、総選挙を控えて与野党の対立が激化し、新法の成立が見通せない事情に加え、今月の中国の海軍艦艇派遣で「乗り遅れるな」という焦りがあるのだろう。しかし、泥縄的な対応との印象は免れない。
 海賊対策は軍事ばかりではない。日本は、東南アジアの海賊対策で「アジア海賊対策地域協力協定」策定を主導し、マラッカ海峡周辺国に海上保安庁の巡視船を提供するなどして海賊封じ込めに成功した実績がある。こうした経験を生かすべきである。

 『毎日』の「輸入大国・日本にとって海上輸送の安全確保は極めて重要であり、海賊対策は国益にかなう。自衛隊派遣も、海賊対策の有効な方策の一つであろう。」という主張も麻生首相を喜ばせる主張である。『読売』と『産経』は海賊派兵の旗振り役であり、『朝日』も『毎日』も政府に追い風を吹かせているのだ。
 『毎日』は「自衛隊の海外派遣は、武器使用基準など十分な国会審議を尽くしたうえで、新たな法律で対応すべきである。これを先送りし、当面、海警行動で乗り切ろうとする手法には問題もあり、慎重な検討が求められる。」と言うが、これはまさにとってつけた言い訳にすぎず、結局、海賊対処法を制定してしっかりやれと言っているのである。
 「海賊対策は軍事ばかりではない」という主張は同紙が初歩的な常識を欠いていることを示している。海賊には警察行動で対処すべきで、軍艦を派遣すべき問題ではない。初めから海上保安庁の仕事である。


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