「私の従軍記」 子供たちへ

平成元年父の誕生日に贈ってくれた本、応召されて帰還するまでの4年間の従軍記を今感謝を込めてブログに載せてみたいと思います

移動 2

2006-08-24 19:21:39 | Weblog
私の脳裏に千切れ雲のように突然浮かぶ風景がある。両側は緑一杯の道を私達は何処へとなく2列に並んで歩いていた。そこに屋根瓦が葺かれ、壁は淡いクリーム色に塗られた家が現われる。そこの薄暗い1室の奥から白い上着、サロンをまとったインドネシアの女が2,3人現れて
 「トアン、コッピー」と言ってコーヒーカップを差し出した。
 私は思わず立ち止まって受け取ると、グーッと飲み干した。喉が渇いていたので本当に旨かった。
 カップを台の上に置き、手で口の辺りを拭うと、
 「テレマカシイ(有難う)」と、頭を丁寧に下げて又歩歩き出した。後からの兵隊達も次々に飲んだ。
 終戦と同時に現地人の我々に対する態度は冷たく急変していた時だけに、このコーヒーの1杯は何より嬉しかった。これは多分【ベラワン】港に行く途中のことなのだろう。春の色のように淡い黄桃色のふんわりとしたパステル調の中に居るような…このメルヘンの雰囲気は一体何であろうか。
          ……    ……
 昭和21年2月3日、移転の為【ベラワン】出発。
 最初、スマトラ島に上陸してから、19ヶ月余にして又今度は敗残の身で再びマラッカ海峡を渡った。
 2月6日、マライ【バトバハ】上陸。
 この辺りの記憶は全然無い。

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