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拾い読み≪野球善哉≫

2010年04月12日 18時31分49秒 | マリーンズ2007~10
ロッテを「足」で勝たせる男。
荻野貴司という異能の新人とは!?


 昨シーズン、パ・リーグ5位に沈んだロッテの快進撃が続いている。週末に行われた西武との首位決戦も2勝1敗と勝ち越し、その差を3ゲームとしてリードしている。この時期での順位をどうこうの言うのは早計なのは分かっているが、とにかく、今年のロッテは一味違う戦いぶりを見せている。

 その象徴とも言えるのが、新人にして開幕から2番に抜擢されている荻野貴司の存在である。打率.357、打点9 得点13、盗塁8と絶好調で、西岡剛とともに、俊足1、2番コンビを形成。井口資仁、金泰均、大松尚逸から成る強力クリーンアップにつなぐ役割を果たしている。

 足、足、足……。

 そのプレースタイルを見れば、彼がどんな選手なのか一目瞭然である。

 リーグトップの8盗塁もさることながら、普通の送りバントでも、セーフティ気味に転がし、一塁まで駆け抜ける。外野の間に飛ぶ単打を放てば、あわよくば二塁を陥れようかのごとき勢いで、常に先の塁を狙う。自らの武器がどこにあるのかを、強く意識しているのがわかるのだ。

 一つの武器をもった選手がプロの世界でこれほど映えるとは……彼の活躍にはいつも驚かされるばかりだ。

努力する天才! 才能が無かった荻野貴が成長した背景。

 そもそも荻野貴の野球人生は、これまでそれほど華やかだったわけではない。

 奈良県出身の荻野貴は中学時代、ボーイズリーグの名門チーム・橿原コンドルに所属していたが、チームメートだった加治前竜一(巨人)とは対照的な存在だった。加治前が走・攻・守がそろうスーパースターだったのに対し、荻野貴は常に控えに甘んじた存在でしかなかった。のちに智弁学園―東海大を経て、先にプロ入りした加治前の経歴と比べて、その差は明らかだった。

 彼のポテンシャルが発揮され始めたのは高校に入ってから。奈良県下有数の進学校・郡山高に進んだ荻野貴は1年春からベンチ入りし、頭角を現す。2年春には遊撃手でレギュラーをつかみ、それからはチームの顔になった。郡山高の恩師で、元監督の森本達幸氏は言う。

「加治前君は中学時代からスーパースターで、荻野はそんなに目立つ選手ではありませんでした。荻野はうちに来た時は守備が上手く、足も速かったのですが、身体が小さいという印象でしたね。高校に入ってから彼自身が努力をし続け、パワーがついてきたことで、チームの中心になったんです」

 高校3年、夏の甲子園予選では3番・遊撃手のポイントゲッターとして、チームの準優勝に貢献。甲子園出場は果たせなかったものの、チームを引っ張る存在になっていたのである。ちなみに、準決勝では加治前のいる智弁学園を大差で破っている。高校卒業時には、ロッテ、阪神など複数球団がドラフトでの指名を窺ったほどで、本人が大学進学を希望したために実現することはなかったが、荻野貴の存在は在阪スカウトの中ではちょっとした話題となっていたのだ。

大学時代の荻野貴がついに気づいた“自らの方向性”。

 とはいえ、当時の荻野貴から今の姿を想像できたかというと、決してそうではない。筆者自身も、高校時代の彼を見てきたが当時の印象とは全く違う。確かに足は速かったが、彼の持ち味として語られていたのは、遊撃手としての華麗な守備とミートに優れたバッティングセンス、勝負強さなどだった。森本氏はいう。

「高校の時から足は速かったんです。僕の指導方針の中で、選手に『ノーサインで走れ!』という指示はあまりしないのですが、荻野には任せていました。ただ、荻野はチームプレーをいつも考える選手で……ノーアウトで自分が盗塁を試みて失敗することでチームのムードが悪くなったりすると、それを気にし過ぎて積極的に走らなくなったりはありましたね」

 むしろ、足を武器とする選手としての才能が開花したのは、大学も上級生になってからのことである。関西学院大に進んだ荻野貴は、大学時代に自らをこう振り返っていた。

「2年の春くらいに、うちのチームには長打を打てる選手がいないということに気づいたんです。そこで、自分が塁に出て、足を生かす野球をしようと思ったんです。それからは、とにかく盗塁に力を入れるようにしました」

学生リーグ新記録まで樹立して、大学卒業時はプロを回避。

 3年春に1シーズン10盗塁を記録しその成果を見せると、4年春リーグ戦ではついに本領発揮し1シーズン17盗塁の関西学生リーグ新記録を樹立。少しでもモーションの大きい投手ならば必ず盗塁を決めたし、マークがきつくても試合の勝負所となると、それをかいくぐってでも見事に盗塁を決めてみせた。

「自分の武器は足」

 このころの荻野貴には、現在見られるプレースタイルへの手ごたえがすでにあったようだ。しかし、大学卒業時には結局プロ志望届を出さなかった。本人自身の思いはともかく周囲の評価は高かっただけに、在阪担当スカウトの多くがその決断に頭を抱えることとなった。すでに当時の荻野貴は、誰もが欲しがるほどの魅力的な「足」を持っていたからだ。

 社会人のトヨタ自動車での経験を経て、昨秋のドラフトでロッテの1位指名を受けた。ドラフトの目玉・菊池雄星を回避してでも、ロッテが欲しがった理由は今の活躍を見れば、理解できるというものである。

荻野貴の存在で、今後ますます難敵になっていくロッテ。

 今後、荻野貴に対するマークは厳しくなるだろう。それは走者として、盗塁が警戒されるだけではなく、「塁に出したくない」打者としても厳しく攻められるということだ。彼が越えなければいけないプロとしての壁が高いのは確かだが、しかし、それだけ対戦相手を苦しめているということでもある。

 昨シーズンの盗塁数がリーグ最下位だったロッテに注ぎこまれた荻野貴司という新たな要素。こうしたプレッシャーを相手チームに与え続ける選手がいるということで、ロッテはシーズンを通してますます戦い難い相手となっていくはず。

 4月11日の試合でロッテは11-0で西武に圧勝した。一見するだけでは荻野貴の足が西武をかき回した試合ではないのだが、その存在が目に見えないところで対戦チームにプレッシャーを与えていたのは間違いない。

 荻野貴の存在が、ロッテの野球を熱くさせている。

文=氏原英明

(NUmber)

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