『土と兵隊・麦と兵隊』(火野葦平 新潮文庫)
確か高校の国語総合便覧の文学史年表にも載っていて、有名な作品ではある。それ以前に私は家にあったレコードで軍歌『麦と兵隊』を知り、次にこれが映画の主題歌だったと知った。無論、映画の原作となったのが本作であるわけだが、そういう逆順で知ったせいか先入観にまみれてしまった。軍国調の、浪花節的な、国策映画の、原作と。
おそらく火野葦平はそういう先入観に苦しめられ続けた書き手だったろうと思う。読んでみると意外に文章は短切で読みやすく、読み物ではなく“文学”の文体である。無駄や余計な虚飾は削がれている。たまたま“兵隊作家”と持て囃されたのであって、それがなくても良い作品を文学史上に残したであろうと思った。という感想を確認するためにも、他のものも読んでみたい。
ただし、解説にもあるように、その視座に戦争を批判的にみつめようという態度はない。素朴に、兵らを慈しみ、祖国を想うのは人情としても、たまに、きな臭い報道的な表現が挿入される。報道班員の任務として、また当時の世相から類推して、そういう文脈が必要だったのは理解できる。と、同時に、戦後はこれが忌避されたのも容易に想像がつく。戦争に協力したと捉えられても仕方のないような表現がないとも言えないのである。
しかしだ。戦友を愛し、祖国を想い、敵を憎み、皇軍の正義を信じていたのは、当時の平均的な、兵士一般・国民一般の在り方だったはずである。だから文学を戦意高揚に利用するのも許容される、とは思わないが、逆に怖いのは、そうした一般の人々が、“戦争犯罪人”の陰で素知らぬふうに“転向”していったであろうことだ。
感想からずれてしまった。芥川賞受賞作や戦後のものを読んで、妙なフィルターを介さずに読みたい作家である。

確か高校の国語総合便覧の文学史年表にも載っていて、有名な作品ではある。それ以前に私は家にあったレコードで軍歌『麦と兵隊』を知り、次にこれが映画の主題歌だったと知った。無論、映画の原作となったのが本作であるわけだが、そういう逆順で知ったせいか先入観にまみれてしまった。軍国調の、浪花節的な、国策映画の、原作と。
おそらく火野葦平はそういう先入観に苦しめられ続けた書き手だったろうと思う。読んでみると意外に文章は短切で読みやすく、読み物ではなく“文学”の文体である。無駄や余計な虚飾は削がれている。たまたま“兵隊作家”と持て囃されたのであって、それがなくても良い作品を文学史上に残したであろうと思った。という感想を確認するためにも、他のものも読んでみたい。
ただし、解説にもあるように、その視座に戦争を批判的にみつめようという態度はない。素朴に、兵らを慈しみ、祖国を想うのは人情としても、たまに、きな臭い報道的な表現が挿入される。報道班員の任務として、また当時の世相から類推して、そういう文脈が必要だったのは理解できる。と、同時に、戦後はこれが忌避されたのも容易に想像がつく。戦争に協力したと捉えられても仕方のないような表現がないとも言えないのである。
しかしだ。戦友を愛し、祖国を想い、敵を憎み、皇軍の正義を信じていたのは、当時の平均的な、兵士一般・国民一般の在り方だったはずである。だから文学を戦意高揚に利用するのも許容される、とは思わないが、逆に怖いのは、そうした一般の人々が、“戦争犯罪人”の陰で素知らぬふうに“転向”していったであろうことだ。
感想からずれてしまった。芥川賞受賞作や戦後のものを読んで、妙なフィルターを介さずに読みたい作家である。
