
『自衛隊の闇組織』(石井暁 講談社現代新書)
副題「秘密情報部隊「別班」の正体」。
さらに特大の帯には「帝国陸軍から引き継がれた負の遺伝子」、「身分を偽装した自衛官が国内外でスパイ活動を行う「別班」に迫った衝撃レポート」とある。
週刊誌の広告みたいな文面だ。まずほとんどが眉唾ものだろうと警戒して読むことにした。「別班」を題材にしたテレビドラマが話題になり、それに乗じてデカデカとした販促帯を巻き付けたのかもしれない。あの番組は注目を集めていたので、本書は余波を受けて売れたかもしれない。とはいえ・・・ちょっとやりすぎな文面かと思う。本が売れないので、出版サイドは必死なのだろうけど。
さて、情報関連に係るルポルタージュや回顧録は、そのソースが隠されていることが多く、真偽不明のものがほとんどだ。真偽が確認できてしまうと、情報源に危険が及ぶ可能性があり、それは仕方がない。だが、そのグレーさを利用してあることないこと書く輩もいる。それが問題だ。
読む側に、報道及び情報に係るリテラシーが求められる。ソースは実在する組織・人なのか、前後の文脈から看過するしかない。単に「消息筋」「関係筋」と書くにせよ、嘘臭い場合や発言を記者が都合良く解釈し直している場合について、見抜く嗅覚が必要だ。
で、本書はどうだったか。
七割方、胡散臭い情報だと思えた。ソースのほとんどが酒を酌み交わしながらの聞き出しによる取材だ。もちろん個人を特定されないよう、「陸幕長経験者」とか「現役幹部」「元別班員」と記されている。
七割方というのは、話に尾ひれがつきやすい内容な上、酒が入っているし、ソースを出さないから記者が主観的に解釈し、いくらでも自分の言葉に書き直せるからだ。
情報源があやしい上に、記者の主観と、出版サイドの要求も絡まり、事実は1のところを5や10と書いてしまっているかもしれない。
とはいえ、「別班」という組織があった(ある?)らしいことは著者の執念によって解明したといっていいのだろう。知っていたら責任を取らねばならないので、防衛大臣も総理大臣も存在を知らないことになっている。著者はシビリアンコントロールの逸脱と危惧するが、「知りません」で済ませられるようにするお役所的なやり方だなとも思う。似たようなことは、様々な省庁で生起しているのではないだろうか。「俺は何も見ていない。何も知らなかった」と事実上グレーな案件を認めてしまっているようなことが。
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