国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

ジャイアンとしてのアメリカ

2006-11-17 | 経済・社会問題

現在、ベトナムのハノイでは、APEC(アジア太平洋国際協力会議 Asia Pacific Economic Cooperatioon)という国際会議が開催されています。これまで閣僚級会合が開催され、明日から首脳会議が始まる予定なので、すでに安倍さんもハノイに入ったようです。

APECは、アジア・オセアニア諸国・一部地域(台湾含む)、アメリカ諸国、ロシアをメンバーとして、貿易・投資の自由化と円滑化、経済技術協力の推進、安全保障の確保について話し合うことを目的にした、緩やかな政府間協議体です。カチッとした国際機関でもなければ、不定期会合を繰り返す単なる会合でもないので、協議体、もしくはフォーラムという表現が一番しっくりくるように感じます。

 

首脳会合でカウントすると、今回で14回目を数えることになったAPECですが、今回は、貿易の自由化促進、北朝鮮の核問題が主要議題となる見込みです。このうち、貿易の自由化については、休止状態のWTOのドーハ・ラウンドの再開方法のほか、APECの全参加国による新たなFTA(自由貿易協定)の構想についても話し合われているようです。

様々な議題の中でも、このAPEC参加メンバーによる新しいFTAの話は、なかなか興味深い要素を含んでいるように見えます。FTAというのは、固有名詞ではなく、二カ国以上の国の間で、関税などの貿易障壁を互いに減らし合って、互いにより好条件で貿易をするための貿易協定を指していますが、これまで無数の二国間FTAが世界中で締結されているほか、NAFTA、EUといった大規模な複数国間FTA の事例も多数あります(参考資料)。今回のAPECでは、こうしたものの一つとして、APECメンバー国がすべて参加したFTAAP(アジア太平洋FTA)というものを作ろうかという話し合いをしているのです。

 

こういう議題が話し合われること自体は、はっきり言って面白くも何ともありませんが、面白いのはこの構想が出てきた経緯です。FTAAP構想が出てきた背景には、まず最初に中国が、独自のイニシアティブを振るって、中国、日本、韓国、ASEAN諸国10カ国の13カ国で、中国を中心にしたFTAを作ろうとした経緯があるのですが、中国の存在感の大きさに脅威を覚えた日本が、この中国中心の枠組みにインドとオーストラリア、ニュージーランドを引っ張り込んで、中国のリーダーシップを中和する「東アジア経済連携協定」という構想を独自にぶち上げた経緯があります(参考記事)。

そこに、「お前ら、なに勝手なことやってんだ!」と、太平洋の向こう側から割って入ってきたのがアメリカで、実は今回のFTAAP構想のウラには、この巨大なアジアFTA構想に対して、クサビを打ち込みたいアメリカの思惑があるのです。ですから、アメリカにとっては、APECという枠組みは、アメリカのFTA戦略からすれば、このアジア地域のメガFTA構想に入り込むための方便なのです。そのため、FTAAP構想は、アメリカ、オーストラリアなど以外の国々は、あまり真剣に受け止められていないようです(参考記事)。

 

思えば、APEC自体も、もともとはオーストラリアやマレーシアの提唱で、東アジア、東南アジア、太平洋地域の国だけが参加する予定だったのに、途中から「お前ら、なに勝手なことやってんだ!」と、アメリカが割って入ってきた経緯があります。ですから、今回のFTAAP構想は、APECの立ち上げのときのアメリカの干渉と同じ性質のものと言えます。誰かが何かをやっていると、放っておかないで、かならず「お前ら、なに勝手なことやってんだ!」と首を突っ込んでくるアメリカ。ホント、ジャイアンみたいですね。


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