今回のアメリカの中間選挙の結果は、 アメリカ政界に思ったよりも大きな力学変化を引き起こす可能性が出てきたようです。その根拠はいくつか挙げられますが、三つほど代表的なものを挙げますと、一つ目は民主党が上下両院を制した連邦議会の根本的な勢力変化であり、二つ目は議会の民主党指導部の方針であり、三つ目はラムズフェルド国防長官の後任人事と言えます。
一つ目の選挙結果ですが、昨日まで二つの州で結果が確定せず、民主党が上院を制することができるか微妙な情勢だったのですが、ここに来て両州での民主党候補の勝利が固まり、民主党が上下両院を制することが確定しました。これは、今後ブッシュ政権が、すべての法案、予算案、閣僚級人事案について、民主党の意向を尊重しなければいけなくなったことを示しています。もちろん、アメリカの大統領には、拒否権がありますが、これを乱発しても、法案を拒否できるだけで通せるわけではありませんから、結局のところ民主党の意向に沿った法案、予算案、人事案しか成立しえなくなったということになります。この根本的な変化は、内政だけでなく、イラク、北朝鮮などへの外交政策にも波及することが予想されます。
二つ目は、議会の民主党指導部の方針です。新しい下院議長に内定したナンシー・ペロシ氏は、ブッシュ共和党政権と、融和的に政策協議しながら議会運営していくことを意見表明しています。実は、こういう穏やかな態度は、過激な対決姿勢をぶち上げるよりも怖いところがあり、何事も取引しないと、一切承認しないという寝技的な戦略が裏に隠されている可能性があります。
かつて、共和党が1994年に42年ぶりに上下両院を同時に制したとき、下院議長に就任したニュート・ギングリッチ氏は、かなりド派手な対決姿勢をぶち上げて、クリントン民主党政権をボコボコにいじめ抜きましたが、スキャンダル等であっという間に失速し、政界のパワー・サークルから消えていきました。 ― 「五人の子どもの母で、五人の孫の祖母」というのが、ペロシ氏の選挙キャンペーン中の口癖だったそうですが、こういう肝っ玉母さんキャラの人は、案外スケールがでかく、ブッシュ政権がその奥行きのある融和戦略に飲み込まれてしまう可能性もあるかもしれません。
三つ目は、ラムズフェルド国防長官の後任人事です。後任は、元CIA長官のロバート・ゲーツ氏です。この人の経歴で目を引くのは、生え抜きのCIAエージェントであるということのほか、現在「イラク検討グループ(ISG)」(解説/公式サイト)という共和党、民主党の両党の重鎮が参加する超党派の政策グループに名を連ねているところです。ISGは、イラクでのアメリカの国益を確保した上で、出口戦略を探る方策などを検討している政策グループですが、実はこのISGのヘッドをしているのが、現在の大統領の父親のパパ・ブッシュ政権時に国務長官を務めたジェームズ・ベーカー氏という、共和党における「国際協調派」のドンなのです。
以前の投稿で、現在のブッシュ政権の外交・国防チームには、ネオコン派と国際協調派の暗闘があるということを書きましたが、これまでブッシュ政権ではネオコン派がやや優勢でしたが、今回のゲーツ氏の国防長官就任は、国際協調派の復興の兆しを示すもので、今後、イラク政策だけでなく、北朝鮮政策にも、根本的な変化が起きてくる可能性があります。ゲーツ氏は、ベーカー元国務長官だけでなく、しばらく前に退任したアーミテージ元国務副長官にも近い人物で、国際社会のコンセンサスを重視する国際協調派の価値観を持つ人物であると言われています。それだけに、今後チェイニー副大統領のようなネオコン的価値観を持つ人の影響力低下も予想され、アメリカの外交・国防政策に大きな変化が生じる可能性があります。
少し時間が経たないと、今回の「力学変化」の波は、日本の政治・経済にまで押し寄せて来ないかもしれませんが、待ったなしの北朝鮮政策などについては、米朝の直接協議を開催するなど、大きな政策シフトが起きる可能性もあるかもしれません。
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