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人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:三黄瀉心湯

2019-05-29 | 日記



これはあまり使わない処方です。
私のところに通っている患者さんの1000何人の中に、
三黄瀉心湯を処方している人は一人位です。
それはすごい瀉薬だからです。徹底した瀉薬で、
単独で延々と使い続けるのはあまりよくないのです。
臓まで瀉してしまいます。私のところでたった一人使っている人も、
半夏瀉心湯と半々に使っています。

漢方の風邪の場合は、熱さましはほとんど使わず、
温める薬しか使わないと言う話しをしました。
しかし、三黄瀉心湯は本当に冷やします。
三黄瀉心湯を単独で使ったのは1O回くらいでしょうか。
本当に脳卒中の急性期で、意識が朦朧として、
鼻血が止まらないという状態の時です。
それでも薬として考えるのは非常に大切なことなのです。

瀉心湯とは黄芩黄連を含むものを言います。強い消炎剤です。
本当に冷やします。
どこを冷やすかと言うと、心を冷やします。

ここで心について説明します。大部分の教科書は微妙に問違っています。
東洋医学でいう心は、いわゆる西洋医学でいう
心不全を起こす心臓のことと少々違うのです。
心不全の状態の心臓は、東洋医学では肺のことを言います。
ここが大部分の教科書で問違っているところです。

それは経験的に言えるのです。私は自分が経験したことだけをお話しします。
心と肺の問題については、薬味を分析すれば説明できますが、
それについてはそのうちお話しします。
心が衰えるとどうなるかと言うと、知的能力が衰えるのです。

要するに心とは何かと言うと、一つは脳、それから冠血管です。
冠血流や脳に行く血流、内頚動脈や椎骨脳底動脈、これらを支配しているのが心です。
東洋医学で言う心とは、心臓の機能の中の、いわゆる拍動している心臓にみられる、
心不全症状を起こす心臓のことは言わないのです。心拍出にからまないのです。

その他に、心には一切の熱いものを生み出す作用があります。
そうすると心を瀉さなければならない時は、どう言う状態かと言うと、
心の熱が上がったとき、あるいは脳内に熱が上がったとき、
又もう一つは心の子分である小腸に熱(炎症)を持つときです。

面白い話しがあります。
それらの他に、心には赤いものを生み出す作用があると言うことです。
血液が赤いのは、実は心の力なのです。
骨髄はどこの臓に属するのか、非常に問題があります。
骨は腎に属するのは本当のようですが、骨髄がどこに属するのか、
まだ私は完全には見極めていないのですが…。
あまり骨髄疾患は、南富良野の山の中の診療所まで、来てくれないのです。
症例を診れば解るはずですが…。

ただ一つ言えるのは、骨髄だけが血を造っているのではないということです。
成人したら確かに骨髄が血を造っています。
しかし、生物の発生学上、一番最初に見えるのは心臓の拍動です。
そしてこの段階で顕微鏡レベルで小腸が認められます。
この段階で骨髄はまだ認められません。
このときに血は、どうも小腸で作られているらしいのです。
ただどうやって造血作用が、骨髄に変わっていくのかと言うのは、
私もまだ解らないのです。
要するに心の子分としての小腸が血液を造っていて、
血の色は赤色になると思われるのです。

三黄瀉心湯証と言うのは、要するに心そのものが、
何らかの形で直接に熱を上げているのです。
炎症があってもよいのですが。
心の熱が、心そのものの原因により、一番熱を上げるのは夏バテの時です。
真夏と言うのは、この図(資料)にある様に体の内も外も、衛気も営血も、
心や小腸の支配を受けているということを示しています。
要するに体の中に、熱を生み出しやすい状態になっています。
その時にあまりにも外気が上がり過ぎると、心がオーバーヒートして、
いわゆる夏バテになります。オーバーヒートしてしまって、
それが脳に行くとフラフラになるのですが、
それはアッと言う間にやられたときですね。

これがジワーツと来た時にどうなるかというと、
一般的に陰陽五行の関係で、腎が焼かれるのですが、
もう一つ別の臓が別の理由で焼かれます。
それは陰陽五行なしで診断されます。解剖学的関係です。
図のごとく、肺が心の上に布団のようにかぶさります。
心の下には胃があります。胃の裏側には脾があります。
脾は先に言ったように膵のことですね。

ここでちょっと話が横道にそれます。
五臓六腑の名称は、杉田玄白が解体新書を訳していたときに、当てはめました。
本来は五臓六腑の言葉が先にあって、杉田玄白が解剖した際、
西洋医学の解剖学的臓器に当てはめたのですね。
本来は五臓六腑と言うのは、単なる一個一個の臓腑ではなくて、
一つの臓器と関連する大きな機能群なのです。
杉田玄白はそれを理解しないで名称を当てはめてしまったため、
間違えてしまったのです。
更に臓器そのものも間違って、脾と訳したのです。
皆さんは解剖実習をし たので解っていると思いますが、膵は探しにくい臓器です。
大網に覆われていて見落としやすいです。
いわゆるMi1zは 解りやすいのでこれを脾と名付けてしまったのです。
それで混乱しています。脾は消化器系の総称なのです。
ちなみに西洋医学で言う脾臓は、東洋医学では肝に属します。
話しを戻します。

心の熱が上がるとどういう事になるかと言うと、
一つは肺が焼かれ、うんとひどくなると肺の症状を出します。
幸いなことにそんなにひどくないと、肺は外気と通じていて熱を放出するのですが、
脾や胃はもろに熱を受けて焼かれます。
これはもう五行相関ではなく、解剖学的な関係です。

夏バテのとき、最初は頭がボーツとして食欲がなくなり、
胃腸がやられて、熱で焼かれている状態です。
夏バテでなくても心の熱を上げるのは何でしょうか。
それは腎水の不足です。右図の様に理解してみると解りやすいのです。
下にバーナーがあり、上にお釜があって水が入っている状態です。
これで腎の水があれば安定するのですが、
腎水が不足するとそれだけで空焚き状態になり、オーバーヒートします。
逆に心火がうんと弱くなると、体全体が冷えます。そして腎水があふれてきます。
腎水が増えただけでも心火が弱ったのと 同じ状態になります。

お年寄りで顔が赤くなる人がいます。
それは腎水不足で空焚き状態になっているのです。
心火がそんなに衰えないで腎水不足のお年よりは意外に元気で、
そして顔が赤くなっています。 やっぱり心熱が相対的に上がった状態です。
そういう時に、下手をすると脳卒中になることがあります。
当然便秘気味になりますし、血圧も上がります。鼻血も出たりします。
こういう時に使うのが瀉心湯です。

あくまで心の熱症状で、心が上がっているのです。
だから補瀉は対立概念ではないという言い方をします。
虚実も対立概念ではないと言いましたね。
そのことをよく理解しないと、
何故最初に言った三黄瀉心湯をあまり使わないのか、
という理由が解らなくなります。

臓器は本質的には最初が実で1OO%です。
生まれて成長し完成されたら、五臓はその人その人で100%です。
だから臓の症状が何か出てきたら、実際は必ず本質的に臓は虚していきます。
人体の臓は大体二倍半くらいの容量があります。
だから腎臓を一つあげてもよいし、冠状血管が一本詰まっても大丈夫なのです。
肝臓だったら半分あげられます。
ほとんどの臓器はそういう余力を持っているのです。

橋本病を西洋医学的に考えると解りやすいです。
橋本病の初期を考えると、橋本病は甲状腺がダメになっていくにもかかわらず、
初期は甲状腺機能亢進の症状を出します。
そして甲状腺の容量が少なくなっていきます。

臓が損なわれても・・例えば1O%くらい・・
体の中に入って見た訳ではないので表現しにくいのですが、
多分10%か20%ぐらい損なわれても、おさまれば自然回復すると思われます。
それより損なわれるとだんだん減っていくのです。

例えば心が90%ぐらいになって、10%ぐらい損なわれると家来に症状を出します。
小腸の症状、脳の症状、冠状動脈、頚動脈、
あるいは椎骨脳底動脈の症状を出していきます。
臓が虚していく時、腑が実している様な症状を出すのですが、
実際的には臓が虚しているのです。最終的にダメになるかどうかは言い切れませんが、
そこで腑を瀉していきたいのですが、瀉し過ぎるとまずいのです。
腑に作用する薬はやり過ぎると臓までやられるのです。
だから徹底した瀉薬を単独で延々と使うときは、
どこかで少しセーブして使わなければならないのです。
だから三黄瀉心湯は、やたら使う処方ではないのですが、急迫症状が出ているときに
パッと短期間使って効かせることは出来るのです。

瀉心湯でぜひ説明しておきたいことがあります。
最初に小柴胡湯で問題になったのですが、副作用の事です。
黄芩を含む処方で、間質性肺炎との関係が言われています。
ずっと私は漢方をやってきて思うのですが、実際に間質性肺炎を起こしているのは、
小柴胡湯、半夏瀉心湯、三黄瀉心湯あるいは他の柴胡剤です。

確かにいずれにも黄芩が 入っています。
では、それでは黄芩が原因かと言うとそうではありません。
黄芩だけが原因であれば、黄芩の中の何の成分が問質性肺炎を起こしているのか、
現代医学的に黄芩に含まれている何の成分が原因かつきとめて解明できるはずです。
疫学的に確かに黄芩が入っているので、黄芩ではないかと思うのですが、
これは違うのです。違うのですと言ってしまいましたが、
独断と偏見に近いのですがこれは大事なことなのです。

生薬畑を見に行った人はいますか? とても大事なことなので見に行ってください。
もちろん製剤になったものも見なければなりませんが、
その元の生薬はどんな姿をしているのかを見て下さい。
黄芩の花を見たことがあるでしょうか。すごくやさしい花です。
こがね花と言います。決して悪さをする様な花ではありません。

例えばトリカブト、黄連は毒々しい花です。どちらもキンポウゲの仲間で猛毒です。
その場で食べるとそんなに長くは生きていられないはずです。
黄芩は何かを包んで運ぶ作用なのです。
母親の愛情を思わせるような、そんな花です。

ところが実はそれが問題なのです。
これはいろいろな説があります。私は最初から思っているのですが、
黄芩そのものが消炎剤としての作用を持っていると言うよりも、
どうも消炎剤でも何でも、だだっ子でもあやすように運ぶのです。
そして運ばれたものが悪さをするのです。
黄芩と一緒でないと柴胡も黄連もそんなに強い効果も出せないし、
悪さが出来ません。

例えば黄連湯という処方があります。
これは半夏瀉心湯の黄芩が、桂枝に変った処方です。
それだけなのですが、半夏瀉心湯は結構悪さをします。
黄連湯も間質性肺炎として問題にされていますが、
しかし、まず問質性肺炎は起こさないようです。
実際に半夏瀉心湯は、瀉心湯としての心への作用がありますが、
黄連湯は胃内への作用しかありません。

要するに全身に運ぶのが黄芩なのです。
柴胡も同じで、黄芩と一緒になって始めて、非常に強い消炎作用を示します。
黄芩が入らないと、単なるトランキライザー的作用程度です。
うんと少量の柴胡は、この前言ったように補剤というか、
気力を持ち上げる作用があります。
ただ生薬畑は季節季節で見に行くと、
ああこれはこうかなとか、いろいろ見えてくるものなのです。
私の診察室には製品化した生薬が80品目ぐらいはあります。
解らなくなると取り出して眺めたり、臭いを嗅いだりするのですが
なんとなく解ってきます。だから製品としての生薬も、
原生植物として見るのも大切です。

本来、漢方薬は食べ物なのです。
元の食材としてどう言うものなのか見ることも必要です。
三黄瀉心湯は、黄連黄芩二つの消炎作用を大黄で更に強めているのです。
大黄は大黄甘草湯のときお話しした様に、いわゆる中枢神経鎮静作用があります。
黄連、黄芩、大黄の三つとも黄の字があり、三黄瀉心湯と言うのですが、
ちなみに瀉心湯は苦いです。
「良薬口に苦し」というのはこのことから言われます。
要するにこういうのを強めてあるのが三黄瀉心湯です。
解らない所があったらお聞き下さい。解っていることはお話しします。
解らない所は解らないと言います。

第2回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda02.htm

黄芩の花と根


商品一覧 : 三黄瀉心湯