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人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:茯苓飲

2019-05-27 | 日記


次は茯苓飲です。茯苓と似た薬がいっぱい入っているのですが、
敢えて茯苓飲と名付けて茯苓を主薬にしてあるというのは、
やはりこの処方が一番茯苓らしいからでしょうね。

人参は気を補い、黄耆は肺を補い、白朮は利尿作用で、茯苓は一応水を助けるのです。
強心作用は人参や黄耆の方が多いのです。
これは心が拍動している部分の心肺機能で酸素を取り込み、血液を全身に回す作用です。

それから本来の「心」というのは冠状動脈と内頚動脈からの脳循環です。
茯苓はどう作用するのかと言うと冠血流とは言えないし、山梔子や天麻の様に
脳関門を通って脳に入ったりしないので脳循環とも言えないのですが、
でも明らかに茯苓を使うと心神が正気に戻ると言うような感じがあるのです。

丁度、逆のことがあります。脳死状態になると2週間以内に必ずMOFになって、
どんな治療をしようが死んでしまいます。茯苓はこの逆をやる様なのです。
要するに脳の活力が少し低下して、いわゆるMOFまでは行かないで、
もっと軽い臓器不調とでも言える様な感じになって、
いろいろな臓器が元気が無いという状態の時に、
茯苓を使うとすごく全体がシヤキッと締まって来るのです。
茯苓そのものが何かしているという感じではないのです。
利尿作用は確かにあるのですが、ほんの少量加えても何か引き締まってくるのです。
おそらく多臓器不調になっているのを改善するのだと思います。
※ MOF< multiple organ failure (多臓器不全)

人参等は基本的な潜在的な心不全等を補おうとはしているのですが、
刺激する薬も入っているので徹底的に弱っている状態ではないのです。
枳実が陳皮と一緒に入っており、ほとんど動かす作用になります。
陳皮は枳実と一緒になると刺激する作用になります。
そして乾姜ではなくて生姜が入っており、
陳皮、枳実、生姜とみんな刺激する薬として働きます。そういう薬が使えるから、
そういう薬に反応するだけの物を体力として持っている筈なのです。

でも、何となく指令塔があまりうまく働いていないので全体的に不調になっており、
それをちょっと一方で亢め、一方で刺激しながら茯苓でキチッと引き締めるという
それだけの薬なのです。こういう茯苓飲の状態になると、
やはり脳や脾、肺の働きが落ちて、気の働きが悪くなって水の不調がおきます。
でも、茯苓飲だけの患者さんはあまり来ないですね。水だけの停滞の段階が多いのです。

茯苓飲合半夏厚朴湯の状態になると気も不調になり、患者さんとして医療機関に来ます。
だから茯苓飲の診断は難しいです。これが確実に出来るようになったら、
かなり力が上がったと言って良いでしょう。茯苓飲は、一応水の異常がありますが、
水毒というほどではないので、舌を見てもそんなに強い水毒が出ていません。
厳密に言えば水毒傾向だなあとか水が滞っているなあぐらいの感じです。
防已黄耆湯のように舌が分厚くなるような状態ではありません。
非常に強い冷えがある訳でもなく、お腹の痞えも軽いのです。

だから何を見るかと言ったら、やはり望診でその人の正気が「少し落ちているな。」
と言う事を把える事です。正気が落ちていてそれで頑張っていると、
見せかけの興奮状態が出てきます。その場合は桂枝茯苓の組合せになるから、
これは分かり易いのです。興奮したり落ち込んだり、精神の不安定状態が出てきます。
桂枝茯苓丸や苓桂朮甘湯がそうです。茯苓飲だけの場合は「正気が違うかな。」
という感じがあり、そのために何となく体に元気が無いという状態です。

あとは前にも言いましたが、
術者の気が亢まってくればお腹に手を置いただけで分かります。
水の動くのが感じ取れるのです。大体心下部あたりですが、
たまに右下腹部に在ることもあります。左下腹部は私はあまり記憶が無いですね。
手からの気というのはすごいのです。例えば当帰芍薬散の人はお腹を痛がるのですが、
手を置いているとその痛みが消えるのです。
本来、血と水の働きが悪くなって痛みが出ているのでが、
術者の気が伝わると痛みが消えるのです。
茯苓飲の人は術者が手を置いた途端に水が動くのを感じます。
茯苓飲合半夏厚朴湯の人は気と水が同時に動きます。
これは水泡が動くのが感じられます。
茯苓飲の場合は水だけがスーツと動くのが感じられますが、
こちらの方がはるかに難しいですね。

茯苓飲の人もまず医療機関には来ません。
茯苓飲という処方はついでにしかしたことはありません。別の人に付いて来て、
ついでに見てほしいとか言う場合にしか処方をしたことはないですね。
茯苓飲単独の人はわざわざ医療機関にこなで、町の薬局に行って
「一寸調子が悪いのですが、何か薬ありませんか。」
と言って薬を飲んでいるかもしれません。
茯苓飲合半夏厚朴湯になるとちょっと強い症状が出てきます。
胸の痞とかお腹がゴロゴロするとかですね 
その場合は私がお腹をちょっと触るとグルグルと鳴ります。
場合によっては患者さん自身がびっくりするぐらい、
お腹が動いて鳴りますのですぐ分かります。だから、
茯苓飲合半夏厚朴湯の人ぐらいからお腹を触ってマスターして行けば良いと思います。

疾患として茯苓飲は胃の病気に使うのですが、本来は正気の低下に作用します。
その為に茯苓飲という名前が付いているのです。
生薬で1gから3gぐらい茯苓を使うと本当に引き締まってくるのです。
茯苓は上薬ですのでまず副作用は出しませんし、簡単に加える事が出来ます。
因みに人参も上薬ですがやたらと出すと胃実になり過ぎて、
お腹がバンパンに張って来たり、更にひどい場合はクッシング病様になったり、
血圧が上がり過ぎたりすることがあります。

また、黄耆は合わない人が居て、飲むとかえって具合が悪くなったりすることがあり、
その人によって合ったり合わなかったりすることがあるのですが、
茯苓はほとんどそういう記憶がないですね。
この人は全体にバランスが悪いのではないかと思える人には
大抵エキス剤に茯苓を原末でちょっと加えてあげるだけで結構良い結果を出します。
今日はこれで終わります。


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