トーキング・マイノリティ

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戈壁(ゴビ)の匈奴

2006-05-09 21:20:54 | 読書/東アジア・他史
 司馬遼太郎は生涯を通じてモンゴルに関心を持っていた。彼の短編『戈壁の匈奴』は鉄木真(テムジン)ことチンギス・ハーンが主人公となっている。鉄木真が何故世界征服に明け暮れたか、その背景をずばり「ものとおんな、この二つへの強烈な執念で成立っていた」とする。鉄木真が何度も西夏攻撃を繰り返したのも、若い頃話に聞いた世界で最も美しいという西夏の女を得るためだった。

 司馬はさらにモンゴルはじめ北方遊牧民をこう記している。
「匈奴、鮮卑と卑称されたこの沙漠の民は、当時から世界で最も性欲の強烈な人種とされていた。それは穀食人種の常識を超えきったものであった。常食に獣肉、獣肝、獣膵を食い、獣血を飲み、髄をすする。匈奴ハ日ニ七タビ交ワル、と古代シナの記録者は伝えている。後漢の中期、玉門関の西方に版図を持った烏孫国の王某は十歳で3人の妻妾を持ち、17歳の時、生母を除く亡父の妾15人を相続し、60歳で夜ごと十人の女を御したといわれる。おそらくこの男のみの特異記録ではなかったのであろうか…
 (ものと女を得るために)匈奴、烏孫、女真、鮮卑と呼ばれた沙漠民は一族の生死を賭けたのである。その欲望は今日の常識の及ぶところではない。物に飢え、性に飢えた人種が馬に乗っている」


 中国側の記録なので北方民族蔑視があるのは言うまでもないし、女と交わる数値も多目に書いた可能性もある。ただ、精力絶倫だったのは確かなようだ。それでも十歳ではままごと程度だろう。遊牧民にも幼児婚があったのか。
 鉄木真時代のモンゴル人は体力もまた強烈だった。小説から一部抜粋したい。

「鉄木真の頃の蒙古人は十日間の食料を持ち、20日間の日数で北から南へ渡ったといわれる。彼等は6日間の絶食に耐えられる特異な胃袋をもっていた。その心臓も他人種のそれとは異なる。成吉思汗鉄木真の子オゴタイ大汗がカラコルムの宮殿で崩じた時であった。
 この宮殿を一騎の伝騎が躍り出た。この時の伝騎は遥か欧州の征旅にあった猛将バトウのもとへ、大汗の死を報知するのが目的だった。
  出発に先立って彼は内臓を破裂させないように腹に木綿を巻き、カラコルムからカスピ海へ、記録によれば僅か十日で到着している。中近東の山野を疾駆し全行 程一万二千キロ、ほとんど地球の半周にも及ぶ距離である。しかし、これを特異記録とする訳にはいかない。中世の蒙古民族にあっては、一昼夜の騎走千キロ以 上というのは普通であったからだ。この場合内臓を守るために、茶だけは飲んで食事は取らない。しかもそれを十昼夜続ける。これを他民族の常識では人と呼ば ない。人以上か人以下である


 1227年夏、鉄木真65歳にしてやっと西夏の王族・李睍(リーシェン)公主を手に入れる。この世のものとは思われないほど美しい公主を得て、7日目に彼は息を引き取る。

 当時の蒙古には老齢になって生活力を喪った父を、子が生きながらに風葬する習慣が普通に行われていたそうだ。日本にも姨捨山伝説を描いた『楢山節工』という映画があったが、老人福祉はかなり後世のものなのだ。
 現代のモンゴル人はさすがに鉄木真時代の猛々しさはないにせよ、日本の大相撲界を制している。

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4 コメント

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(/▽\*)。 (セリ摘み王キモト)
2006-05-10 08:52:16
はるか昔、某ゲームにてそんな選択肢があったの絶句した記憶があります。



丁度、今朝のスポーツ紙をみてると日モ合同でチンギス・ハンの映画を撮るそうです。主演は反町隆史だとか…



こけなきゃあイイけどヾ(-.-;)。
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オルド (Mars)
2006-05-10 12:54:25
こんにちは、mugiさん。



キモトさんからもご紹介ありましたゲームですが、コ○エーの「チンギス・ハーン」シリーズですね。このゲームでは、オルドコマンドがあり、子○りに励むのです。こうしてできた子供は、後継者や配下の武将となることが可能です。

(ご存知のことかもしれませんが、オルドは本来、幕営という意味です。)



ゲームでは子供が多ければ多い程、利用できるので、オルドコマンドを多く利用してもよいのですが、、、。実際だと、体力が持たないでしょうね(自爆)。また、子供が多いほど、後継者争いの内紛は激しさをますでしょう。モンゴル帝国自身、複数の帝国に分断して、勢力が衰えてきたのも事実です。大国ほど、外圧よりも内紛で滅びるのは、古今東西、同じでしょうね。



話は変わりますが、中国人の他民族への蔑視は、今も尚、健在でしょうね。そして、対等の友好なんて、考えることもないでしょう。また、中国には完全な民間などあり得ない(企業も何らかの形で、党と繋がりがあり)し、民間交流といっても、向こうは政府の代弁者でしかない。中国との友好を掲げるものは、その辺の事実も、歴史も疎いのでしょうね。

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モンゴル映画 (mugi)
2006-05-10 21:30:13
>キモトさん

主演が反町隆史とは、彼がチンギス・ハン??

昔、加藤剛の「青き狼」をTVでやってましたが、見られたものでなかったのを憶えてます。



モンゴル映画でもチンギス・ハンが主人公の映画があったような気がします。私は未見ですが、「マンドハイ」というモンゴルの女傑を描いた映画もありました。
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士農工商 (mugi)
2006-05-10 21:31:48
こんばんは、Marsさん。



子○りに励むことができるゲームがあるとは知りませんでした。対象となる女の人種や体○も決められるのですか

ゲームならともかく、子供が多いのは庶民ならまだしも、王家ではお家騒動の元になりますね。モンゴル帝国もお家騒動がすごかったし、また盛んに謀略活動していたのが、どの民族か書くまでもありません。



中国との友好を掲げる者は自分たちが儲かればそれでよし、と思っているのでしょうね。儲けのためなら売国などへとも感じないのです。士農工商とはもともと中国から来た言葉で、やはり商人は蔑まれてました。
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