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文明のたそがれ

2005-09-27 20:50:41 | 読書/インド史
 中世ヨーロッパはよく暗黒時代といわれる。この頃は暗黒時代否定論も見られるようになったが、古代ローマの文明水準から大きく後退したのは明らかだろ う。イスラムの方が逆に世界最先端の文明を誇っていたが、何もイスラム化したから急に文明度が上がったのではなく、初期のイスラムは積極的に異教徒の文明 を取り入れていたのだ。古代ギリシア、ローマ、ペルシア、インド、中国の文明がなければ、イスラムもあれだけ飛躍しなかったろう。現代は排外思想が吹き荒 れる所となってしまったが。
 偉大な古代文明を誇ったインドや中国というと、欧州よりはかなり水準は高くとも、中世はやはり振るわなくなってきたようだ。ネルーもこの時代を総括して、次のように書いている。

 「文明も帝国も同じことだが、外敵の強さよりは内部の弱体化と崩壊によって倒れる。・・・ガズナのマフムードより遥かに前から、インドではこの過程がはじまっていた。我々は人民の精神の中に、この変化を見ることが出来る。新たな観念や事物を生み出す変わりに、彼らはもっぱらかつてあったものの繰り返しと模倣に忙しかった。 彼らの精神はまだ決して鈍っていた訳でないが、しかしもっぱら、大昔に言われたことや書かれたことを解釈し説明するのに忙しかった。彼らはその後も素晴ら しい彫刻を制作したが、あまりにも細部や装飾にこだわり、時には怪奇趣味が混入した。創意が欠如し従って大胆で調子の高い構図もありえなかった。

 これらはすべて文明のたそがれを告げるものだ。こんな状態がはじまれば文明の命は衰滅の道を歩みつつある、といって差し支えない。創造こそは生命の兆候であり、反復と模倣はそれを示すものではないからだ。
 いわばこの過程がこの頃のインドや中国にあらわれつつあった。このようなことは、どの国でも、またどの文明でも起こることだ。偉大な創造的努力と成長の時代があれば、必ずまた枯渇の時期がやってくるのだ」 <父が子に語る世界歴史 第2巻 中世の世界>より

 最近のわが国のリメイクばかりの映画や番組の傾向を見ると、どきっとさせられる。衰退期に創意が欠如するのはどの民族にもあるのは確かのようだ。インドや中国の場合も、文明の衰退後は混乱と民族対立の歴史があった。


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4 コメント

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つれづれなるままに (Mars)
2005-09-29 17:48:51
こんばんは、mugiさん。



>文明も帝国も同じことだが、外敵の強さよりは内部の弱体化と崩壊によって倒れる。

民主主義国家も同様でしょうね。国家を一部の政治家に任せ、国民の大多数が政治に関心すら示さなくなれば。そして、政治家は国家でなく自己の利益のみ追求する。そんな状況を、周辺国は見逃さないでしょうね(民主主義国家、周辺国ともに、特定の国家をさしているわけではないですが)。



>もっぱらかつてあったものの繰り返しと模倣に忙しかった

これも、特定の国をさすわけでないですが(笑)。ある国家に事大して大局を見ず、独立を失った国の例もありますね。その時は宗主国様の制度をコピーして、自らは、権力闘争に明け暮れた、挙句の果てでしたね。

その国家は再独立しても、嫌いだ、嫌いだという国の文化や文物の模倣に明け暮れていますね(笑)。かの国では、歴史も含め、自らを直視することが難しいようです。



>文明のたそがれ

>創造こそは生命の兆候

インドや中国だけでなく、イスラムの中にも同様な国もあるのではないでしょうか?また、結局は、現在を直視できず、過去の古きよき時代のノスタルジーで、過激なことばかりする人達もいますね。

簡単な言葉であっても、その意味には深いものがありますね。



>最近のわが国のリメイクばかりの映画や番組の傾向

確かに多いですね。10年以上前のドラマや映画のリメイク、人気のドラマを映画にリメイク物が多いですね。

そして、昔のアニメやドラマのDVDや、ドリンクや菓子等についている、(昔のアニメの)おまけ等、わが国の大人(自分も含む)の精神年齢の低下に合わせ、創造性がなくなってきているのかもしれませんね。

(かのK流ドラマ・映画も、我が国の20~30年前の内容と大差がないとか。簡単に受け入れてしまう、オ○様達も同様かもしれませんね)

映画の都のハリウッドですら、昨今はリメイク物が多いですね。模倣は簡単で、リスクは少ないかもしれませんが、造る側だけでなく、それを受け入れる側も、ちゃんと見分ける眼を、養わないといけませんね。

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創造力 (mugi)
2005-09-29 21:10:57
こんばんは、Marsさん。



民主主義も万能ではありませんからね。ネルーもデモクラシーにはシビアに書いてました。

「しかし、ことデモクラシーに関する限り、それは人間が実際上、不平等に出来てることを容認した。ただそれは、人間が平等の政治的・社会的価値を持つものとして扱われるべきだと、主張しただけだ」。



>その国家は再独立しても、嫌いだ、嫌いだという国の文化や文物の模倣に明け暮れていますね(笑)。

ま、その国家を嘲るのは簡単ですが、日本もその轍を踏まないように心がけたいものです。



>インドや中国だけでなく、イスラムの中にも同様な国もあるのではないでしょうか?

現時点ではイスラム圏がもっとも排外主義がひどいです。自分たちの過去の栄光ばかり自慢して、過去の人々が何故それを成し遂げたかには見ることはない。すべては十字軍をやったキリスト教徒が悪い、でおしまい。どこかに似てますが(笑)。



ハリウッドも人件費はじめ諸経費が高騰したので、リスクの伴う新作を作らない傾向があると聞いてます。これは日本も同じでしょうし、かつてのインドや中国もそうだったのかも。どうしても安定を求めると造る側も安易に流れ、見る側もノスタルジーで同じような作品を好むようになるかもしれません。
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ビザンツ帝国 (室長)
2012-06-06 15:34:48
 こんにちは、今mugiさんの過去記事を少し勉強しています。
 文明の黄昏というテーマ。今読んでいる『世界の歴史11:ビザンツとスラヴ』(中央公論社、1998年2月)には、8--9世紀に旧大陸の唐、イスラム世界、西欧などが低迷期に入ったのに、唯一ビザンツ帝国のみは、9--10世紀にかけて、最後の花を咲かせたという。
 テマ制の確立により、外敵の侵入は抑えられ、内乱も減り、経済は発展に向かった。軍人皇帝とか、文人皇帝とか、質素ながらも統率力ある皇帝も輩出し、無駄のない小さな政府も実現されていた由。

 ギリシャ語表記では、小文字が発明され、古典ギリシャ語(大文字のみで、句読点、単語の切れ目などが一切無く、読みにくかった)の文献を集めては、新ギリシャ語(句読点つきで、小文字もある)+古典への注釈で、古典ギリシャ文明が復活させられたそうです。つまり、小生がこれまで理解していた、古典ギリシャ文明はアラビア語経由でルネッサンス期に西欧に再輸出・・・では必ずしも無く、ビザンツ帝国の滅亡後、オスマンから逃れたギリシャ人によって、直接西欧にもたらされたギリシャ古典、或いは古代ギリシャの技術文明(自然科学)も多かったらしい。

 特に、数学者とか、機械仕掛けで動くライオン像(要するに日本のからくり人形)なども出現した由(p96--97)。

 ローマ法大全も、レオーン6世皇帝の命令で、ラテン語からギリシャ語に翻訳したり、条文などを整理し直して『バシリカ法典』として、整備したという。とはいえ、バシリカ法典も、旧ローマ法に基づくので、既に当時のビザンツの現状とは齟齬が多すぎたので、「法解釈、注釈」にて、現実とのずれを訂正したという。ともかく、古代ローマの成果というべきローマ法研究に関しても、ビザンツがきちんと整備し直していた!

  結局、西欧のルネッサンスというのは、ビザンツの成果を、亡命したビザンツの学者がもたらした知恵(イタリア人らの家庭教師は亡命学者)が、花開かせた部分も多いのかな、と感じ始めました。
 ビザンツの場合、7--8世紀の暗黒時代を経て、9--10世紀の盛夏があったようです!
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RE:ビザンツ帝国 (mugi)
2012-06-06 21:51:53
>こんばんは、室長さん。

 過去の記事を遡って読まれて頂きありがとうございました。私もこれを久しぶりで読み返しました。

『世界の歴史11:ビザンツとスラヴ』は未読ですが、後者はもちろんビザンツも一般に日本人には知られていませんよね。9--10世紀にかけてビザンツ帝国は政治経済面で安定し、文化の華を咲かせたとは思ってもいませんでした。私自身、古代ギリシア文明はイスラム世界を通じ、ルネッサンス期に西欧に再輸出…と思っていましたし、ビザンツ帝国滅亡後、西欧に亡命したギリシアの知識人が学問や科学技術を伝えたのは確かです。

 しかし、亡命知識人は何も古代の学問や科学だけを伝えたのではなく、古代ローマの成果ともいうべきビザンツの文明をもたらしていたようですね。ルネサンス以前の西欧とビザンツでは比べものにならないし、直接ビザンツを滅ぼしたのはオスマン帝国ですが、その前の十字軍でビザンツは大打撃を受けていました。
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