『名画て読み解く ハプスブルグ家12の物語』(中野京子 著、光文社新書)を読了した。先日見た『名画で読み解く ロマノフ家12の物語』が面白かったので本書も図書館から借りて読んだが、こちらも良かった。実は本書は「名画で読み解く 12の物語」シリーズの第一作で初版が2008年でも読ませられる内容だった。以下は表紙裏の紹介。
―スイスの一豪族から大出世、列強のパワーバランスによって偶然ころがりこんだ神聖ローマ帝国皇帝の地位をバネに、以後、約六五〇年にわたり王朝として長命を保ったハプスブルク家。常にヨーロッパ史の中心に身を置きながら、歴史の荒波に翻弄され、その家系を生きる人間たちの運命は激しく揺さぶられ続けた。
血の争いに明け暮れた皇帝、一途に愛を貫いた王妃、政治を顧みず錬金術にはまった王、母に見捨てられた英雄の息子、そして異国の地でギロチンにかけられた王妃―。
過酷な運命と立ち向かい、また定めのまま従容と散っていったヒーロー、ヒロインたちは、どこまでも魅力的。彼らを描いた名画に寄り沿い、その波瀾万丈の物語をつむぐ。
いかに血筋がドイツ系でもハプスブルグ家のルーツが、オーストリアでもドイツでもなかったことを知らない日本人は多いだろう。光文社HPにはその12の絵画リストが載っており、トップ画像はヴィンターハルターの『エリザベート皇后』。欧州史に関心がなくとも、この肖像画なら目にしている人もいるかもしれない。類稀な美貌の皇后として知られているが、実はハプスブルグ家に嫁いだ女性であり、ハプスブルグ家の皇女ではない。
他にも12の絵画の中にはメンツェルの『フリードリヒ大王のフルート・コンサート』など、ハプスブルグ家の血筋ではない人物を描いた作品があるのだ。フリードリヒの宿敵だったハプスブルク家の女帝マリア・テレジアの肖像画もあるのに、12の絵画にはどうしたものか含まれていない。
マリア・テレジアの肖像画は12の名画に挙げられずとも、第9章はヴィジェ=ルブラン『マリー・アントワネットと子どもたち』なのだ。
マリア・テレジアの娘ながら、異国の地でギロチンにかけられたフランス王妃なら、むしろブルボン王朝12の物語のほうが相応しいように思えるが、中野氏の肩入れがあるのやら。年齢非公開ながら氏もベルばら世代なのは確かだろう。
ルブランの傑作として知られる『マリー・アントワネットと子どもたち』だが、発表当時この絵はあまり好意を持たれなかったという。傲慢な赤字夫人はこの絵で自分の悪評をもみ消そうとした、これは優しく我が子を抱く家庭的な王妃のイメージを国民に浸透させようとのプロパガンダ絵画と見なされたそうだ。
この絵はアントワネット32歳の時の肖像画で、制作年は1787年だったことに本書で初めて気付いた。つまり革命の2年前であり、著者はこの絵に「描かれた死の匂い」を感じたそうだ。さらに絵から幸福感が漂ってこないとも述べるが、西欧絵画に疎い私にはそれが感じられず、単純に王族の豪華な肖像画くらいに見ていた。
序章には、ハプスブルク家初の神聖ローマ帝国皇帝となったルドルフ一世について述べられている。ルドルフが選帝侯等に皇帝に選出されたのは切れ者だったからではなく、その真逆と思われていたのは面白い。
アルプスの瘦せた領土しかない成り上がり者で、おまけに55歳という13世紀としては高齢、大した財産もないため戦争能力に乏しく、皇帝の名を投げ与えれば、無給の名誉職でもきゃんきゃん尻尾を振って忠誠を尽くし、どう間違っても他の諸侯の脅威にはならないだろう……と思われていたのだ。
できる限り無能で、選帝侯の言いなりになる男と見て選ばれたルドルフだが、無能どころか外交や軍事に秀でた君主で、さすが650年に亘る王朝を築いただけのことはある。神聖ローマ帝国に担がれた一介の田舎伯爵は、皇帝の座をハプスブルグ家の世襲にすべく、残り十年の余命を奮戦する。現代でも55歳から大躍進する人物は至って稀だろう。
その二に続く
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ハプスブルク家には浅学ですが、欧州の他の王家に比べると内紛が比較的少ない印象を受けます。スペイン王家といえばブルボン家の傍流のイメージがありますが、かつてはハプスブルク家が統治していましたね。
スペインハプスブルク家は極端な近親婚を繰り返し、生まれた子供は夭折したり障害を持つことが多かったので断絶しましたが、オーストリアハプスブルク家が無事だったのは運がいい。近親婚がスペインほどではなかったため?
最後のスペイン王カルロス二世は本当に気の毒ですね。本人に責任はなくとも、障害が多すぎて子孫を持つことができない体になってしまいました。肖像画でも異様ですから、実際の容貌は更に異相だったでしょうし。
ウィキにあるカルロス二世の家系図ですが、親戚同士の結婚が一人に集約するのですから、かなり恐ろしいですよ。公家や大名家は同じ程度の価格で結婚していたはずですが、あまりこのような障害は聞きませんよね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%AD%E3%82%B92%E4%B8%96_(%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%8E%8B)
マリー・アントワネットも顎が突き出ていたと言いますが、ネットで読んだ話だと、遺骨の発掘で本人同定された証拠の一つが顎骨からだと言います。結局、遺骨が残っていたと言う話ですが。
王侯貴族の肖像画は実際より美化されていますが、それでも異相は隠せませんよね。容貌だけではなく、精神も異常だったようで、死んだ妻の墓を暴いたり、異端審問の拷問を見るのが大好きだったようで、猟奇趣味までありました。
あまりの出来の悪さに「呪われた子」と呼ばれましたが、それでも39歳まで生きている。こんな君主と政略結婚させられた最初の妻も悲劇です。ルイ14世の姪ですが、子供ができないと責められストレスで激太り、うつ状態で早死しています。
ウィキの家系図に目を通しただけで怖すぎ。それでも近親婚を止められなかったのは不思議です。公家や大名家でも近親婚を行っていましたが、あまり障害の話は聞きません。障害があると分かれば、直ちに間引きしていた?
そういえば、マリー・アントワネットの横向きの肖像画を私は見たことはありません。顎が突き出ていた欠点を隠すためだった?顎骨が発掘さけなければ、本人確認は難航していたかもしれません。
後で自分の誤変換を読んで驚く図です。「家格」です。
>子供ができないと責められ
英語とフランス語のウィキに目をざっと通しましたが、染色体異常でそもそも第二次性徴がなかったとか、睾丸は一つだけで石炭のように黒かったとか、子作りなどおよそ不可能です。
>公家や大名家でも近親婚を行っていましたが、あまり障害の話は聞きません。
昔は側室の生んだ子が跡継ぎになる例もあったので、まだ近親婚による弊害がマシだったのかとも思ったり。徳川綱吉は生母が八百屋だとか西陣織の関係者だとか言われてますが、様々言われること自体、出自が定かでない層からも日本の支配者が出た、と言うことです。
DeepL翻訳によるカルロス二世の英語版ウィキ検死所見です。
「検死では、「心臓はコショウの大きさ、肺は腐食し、腸は腐って壊疽し、睾丸は一つで石炭のように黒く、頭には水が溜まっていた」と記録されている[31] 前述したように、これらは水頭症を示している。」フランス語版だと更にてんかん発作や幻覚、しばしば鼻血を出したとのことで、日々生きるのが苦痛だったでしょう。
> そういえば、マリー・アントワネットの横向きの肖像画を私は見たことはありません。
確かに!初めて気付きました。でも、当時の肖像画でどの程度横向きの肖像画があったかにもよりますね。ルネッサンス時代は結構見ますけど、19世紀辺りだとナポレオンの戴冠式以外思い浮かびません。彼女の横向きの姿を捉えた絵と言えば、ダヴィッドが処刑前の彼女を描いたものがありますね。
カルロス2世が子作り不可能なことは国内的には伏せられていたそうです。そのため王妃に非難が集中、ストレスで早死しました。当時は子供が出来ないのは妻のせいにされていましたが、子作りができないのに政略結婚されられたのは夫婦ともに悲劇です。
日本の場合は側室の子でも跡継ぎが認められたので、ハプスブルグ家の様に極端な近親婚は避けられたと思います。カトリックは正式な結婚でなければ跡継ぎと認められず、一夫一妻制なのでいくら非嫡出子がいても跡継ぎにはなれません。
英語版ウィキ検死所見は酷いものですね。39歳までよく生きられました。本書にはよだれを出していたことが載っており、心身ともに障碍者だったはず。水頭症といえば頭部が肥大する病ですよね。肖像画では水頭症に見えませんが、これも美化されていたのやら。
アントワネットに限らず当時の王侯貴族の肖像画で、真横から描いた画はまず見たことがないような……ダヴィッドの処刑前のスケッチですが、それほど顎が出ているようには見えません。顎よりへの字型に結んだ口元が印象的です。
ttps://twitter.com/berry2010528/status/1426554302252732416
でも、今ではどんな遠い国の作品でも(知識があれば)鑑賞できる時代なのですね。
エドゥアルト大公殿下という人物は初めて知りました。検索したら、動画付きの記事がヒットしました。
https://royalty.charapedia.org/20190525d1/
とうに共和国の時代になっているのに、未だに大公殿下やらオーストリア皇子、ハンガリー王子などの称号で呼ばれているのは笑えました。
マリア・テレジアの時代は娯楽作品さえ王侯貴族のものでしたが、今や子孫は異教徒の平民階級の青少年が見る作品を鑑賞している。
また子孫はエヴァンゲリオン以外にもアニメ好きなようですね。女帝があの世で嘆くでしょうが、アニメを目の敵にする日本のフェミ学者に感想を聞きたいものです。
日本で徳川公爵とか井伊伯爵とか言っていたら笑われますけど、向こうでは自称扱いでもきちんと通用するのが面白いところです。本当に階級制度が強固ですね。フランスでも自称としてですが、今でも爵位を名乗るそうですし。オルレアンの子孫とかそうですよね。
オーストリア皇太子にあたる人物は現在レーシングドライバーですけど、オーストリア皇帝である父親は、貴族制度に対して愛着がありますね。欧州の貴族は国際的な広がりを持ち、文化と政治を一手に担ってきた集団なのは間違いありませんから、無理からぬ事ではあります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%97%E3%82%B9%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF%EF%BC%9D%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%B3#cite_ref-13
>アニメを目の敵にする日本のフェミ学者に感想を聞きたいものです。
アニメを目の敵と言うか、自分の好みに倫理的な装いを凝らしているだけですからねえ。本当にアニメを目の敵にしているのは実写の監督です。でも、実写映画より、アニメの方が遥かに世界に浸透していますよ。
https://note.com/mogura2001/n/n51212ba4aed7
仙台には伊達政宗の子孫が住んでいますが、紹介される時は18代目伊達家当主・伊達泰宗さん。泰宗公とは呼ばれませんよ。欧州で最も格式あるパブスブルグ家はともかく、それより劣る王家の末裔でも堂々と爵位を名乗っているのは驚きます。大衆もこれを当然視しているのでしょうね。
そして未だに金羊毛騎士団が存続しています。日本各地の武将隊など殆どは庶民上がりのタレントなのに、改めて欧州は階級制度が強いことが伺えました。
喜多野土竜氏は「自分の好みに倫理的な装いを凝らしている」ツイフェミについても言及していました。何故ツイフェミがオタクを目の敵にするのか不思議でしたが、この記事で納得です。
https://note.com/mogura2001/n/ne50ba177c66c
アニメを目の敵にしている実写の監督のことは「痛いニュース」にも取り上げられていました。
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/2009643.html
千件を超えるコメントが寄せられていますが、はじめの「映画館に行ってまで見たい邦画が無い件」に尽きるでしょう。エグゼクティブプロデューサーがこれでは邦画は救われません。