その①、その②の続き 逮捕されたババオッラーは、テヘランにあるシアー・チアール(黒い穴の意)と呼ばれた牢獄に4カ月間に亘り拘禁される。地下深く湿り、暗く寒い牢獄は、かつてテヘランの公衆浴場の地下槽だった。ババオッラーの述懐にはこうある。-地下牢は深い暗闇に蔽われていた。そこにおよそ150人の者がいた。盗人、刺客、追剥…殆んどの者は横になる寝床はおろか、身を覆う衣服もなかった。この上なく腐臭と陰鬱に . . . 本文を読む
その①の続き「生ける文字」ターヘレ(清浄の意)ことファーテメ・バラガーニーは学者の家に生まれ、大半の女が文盲だった時代に兄弟と共にコーランを学ぶ。そのためバーブ(サイイド・アリー=モハンマド)の思想を容易に習得できた。1848年初夏、ホラーサーン(イラン東北部)の村バダシュトで、バーブ教徒80人が会合をするが、この会合でのターヘレの振舞いは信者に衝撃を与えた。彼女はバーブこそが約束のマフディー(救 . . . 本文を読む
日本ではなじみが薄いが、バハイ教は世界の230余国に共同体を組織、キリスト教に次ぎ2番目に広く普及している宗教である。開教したのは19世紀半ば、主な世界宗教の中では最も新しい。私が『バハイ教』(P.R.ハーツ著、青土社)を読んだのは、イラン国内のゾロアスター教徒たちを多数改宗させた宗教だからだ。金銭や武力による圧迫でなく、平和裏にゾロアスター教徒を棄教させたのは他には仏教くらいである(※サーサー . . . 本文を読む
その①の続き ホラムズ帝国のオアシス都市の抵抗はなかなか止まず、モンゴル軍はいくつもの部隊に分かれ、その一つ一つをしらみつぶしに攻略、破壊した。モンゴル軍は1つのオアシスを占領すると、その住民を連れ次の都市に向かい、彼らを攻城の第一線に使用した。そしてこの捕虜隊の背後にはモンゴル督戦隊が控え、躊躇ったり逃亡しようとした者を容赦なく殺害。また住民を駆り出して攻城用の対塁を築かせたり、水路を断つため使 . . . 本文を読む
映画『モンゴル』で、チンギス・ハーンに滅ぼされた国として名が出てくるのは西夏だけだが、その生涯に「国を滅ぼすこと40、朽木を抜く」が如く大帝国を倒し、人を殺すこと数百万と謳われた人物でもある。特に惨禍の酷かったのがイスラム世界であり、侵攻されたのはパレスチナの一地方に過ぎなかった十字軍など、物の数にも入らない。中央アジアと西アジアではモンゴルの侵入により、それまで繁栄を極めたオアシス都市が廃墟と . . . 本文を読む
その①、その②の続き ユディトはユダヤの女刺客だったが、ユダヤ側も敵の美しき間者にヤラレたこともある。有名なサムソンとデリラなど典型的ハニートラップ型であり、デリラは敵ペリシテ人のスパイだった。怪力で有名なサムソンだが士師であり、士師記に彼の話がある。士師の原語は「ショーフェート」(裁く者の意)で、元は裁判官。ユダヤ人は外敵から圧迫を受けた時、諸部族を率先して指揮に当たった英雄的な人物もこう呼んだ . . . 本文を読む
その①の続き アブラハムの妻ゆえサラは聖書でも別格扱いの女性である。良妻賢母の鑑のように描かれているが、妾やその子への扱いは実に女性的で面白い。不妊に悩むサラは75歳(聖書にはこう記されている)で出産を諦め、女奴隷のハガルを側女として夫に与えた。ハガルはエジプト人であり、異民族、異教徒を奴隷化するのに聖書(またはコーラン)では全く問題視もしていない。 だが、妊娠するやハガルは女主人を見下す態度を取 . . . 本文を読む
旧約聖書と言えば、クリスチャンではない大抵の日本人なら引いてしまうだろう。なにやら堅苦しく取っ付きにくい宗教話とのイメージがありすぎる。ただ、好き嫌いは別にして、説教臭さが全編に漂うにせよ、屈指の宗教文学なのは事実であり、その点、邦訳するとまるで面白味のないコーランとは異なる。いかに古代のお話にせよ、何でもありの世界なのだ。 聖書に関しては様々な解説本もあり、最近では漫画で見る聖書のようなものま . . . 本文を読む
その①の続き パシュトゥーン人の間にはパシュトゥヌワレイというものがある。訳するなら「パシュトゥーン精神」となり、その道徳と慣習の不文法に当たる。国家権力に頼らず、自分達で問題を処理するため、どの民族もある程度は見られるだろうが、これらから彼らの精神が浮かび上がってくる。勇気:刀(トゥーラ)と同語。パシュトゥーン族最高の徳目。かつては刀が彼らの魂であった。今は鉄砲がこれに代わっている。日本のような . . . 本文を読む
イスラム世界でもアラブ、イラン、トルコに比べ、アフガニスタンは一般に知られていない。「アフガン族の国」の国名と違い、アフガン族より大抵パシュトゥーン人と呼称される民族は全人口のやっと半分の有様。民族が異なれば、同じアフガン人という認識などないのが現状である。先日、映画『君のためなら千回でも』を見たので、パシュトゥーン人の社会と文化を書いた本に軽く目を通してみた。 アフガンの言語事情は興味深い。こ . . . 本文を読む