ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』2012年5月13日(日)

2012年05月20日 | Weblog

Nさんから白鳥の湖の最終日の寄稿頂きました。

「米沢さん、只者ではないようです。」

というコメントもありオデット/オディール役の米沢唯さん

素晴らしかった様です。又次の演目マノンへのNさんの思いも

寄稿頂きました。

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』2012年5月13日(日)

オデット/オディール:米沢唯
ジークフリート王子:菅野英男
ロートバルト:厚地康雄

王妃:西川貴子
道化:福田圭吾
家庭教師:石井四郎

王子の友人(パ・ド・トロワ)
さいとう美帆 長田佳世 江本拓

小さい4羽の白鳥:さいとう美帆 長田佳世 寺田亜沙子 細田千晶
大きい4羽の白鳥:本島美和 厚木三杏 堀口純 丸尾孝子

花嫁候補:寺田亜沙子 堀口純 若生愛 川口藍 小村美沙 細田千晶

スペイン:湯川麻美子 楠元郁子 マイレン・トレウバエフ 江本拓

ナポリ:大和雅美 井倉真未 八幡顕光

ルースカヤ:本島美和

ハンガリー:長田佳世 古川和則

2羽の白鳥:厚木三杏 堀口純

大きい4羽の白鳥(第4幕):本島美和 丸尾孝子 楠元郁子 小村美沙

米沢さんのオデットはスケールがあり、
初役とは思えぬ貫禄があった。
危うげな箇所は皆無で、テクニックは申し分ない。
オデットを踊るには個性が強すぎるのではとも想像していたが、
そんな不安は登場早々吹き飛ばされた。
腕の動きや足の運びが繊細で瞬く間に魅了された。
更には王子に近づきたいけれども簡単には寄り添えない、
そんな心の動きが見えてくるような表現も秀逸で
若いながらも母性を感じさせた。
優しさに溢れるオデットに王子が惹かれていくことにも納得である。

オディールでは持ち前のテクニックが全開で、客席は大いに沸いた。
妖艶さや色っぽさよりは身体の底から解き放たれる、
天性の明るさや晴れやかさに
王子も参ってしまっているようであった。
米沢さんならではのオディールであろう。
グラン・フェッテではトリプルも混ぜながらこなし、
終演まで回転が続いていてもおかしくないほどの
楽しそうな表情も忘れ難い。

米沢さんはアメリカのサンノゼバレエ団出身で、
若手ながら経験豊かなダンサーである。
また、1997年には幼い頃から所属していた
名古屋の塚本洋子バレエスタジオ(現テアトル・ド・バレエアカデミー)が招かれた
日中友好二十五周年と香港返還の記念行事公演にも参加している。
今回新国立劇場バレエ団初の中国からのゲスト招聘ということもあり、
少し紹介しておきたい。

公演は蘇州、南京、常州、北京で2日ずつ計8回であった。
当時の雑誌の報告によれば、トラブルはいくつもあったという。
蘇州の会場は映画館で舞踊用に整備されておらず、
木の床に空いた穴に新聞紙を敷き詰めてリノリウムを敷いたそうだ。
上演中に出演者が穴にはまってしまわないか、
心配なあまり舞台監督は床ばかり見ていたほどだったという。
加えて上演中こうもりが会場の中を飛び回っているなど、
昨今の日本の公演では考えられないような状況だったという。

数々のコンクール、そしてまだ10代初めでのこのような海外での舞台、
あらゆる経験が舞台度胸を据わらせ、今に繋がっているのであろう。
米沢さんの魅力が一層開花した舞台であった。

菅野さんは風格があり、落ち着きのある王子であった。
次期国王として政治を任せたいと王妃が期待を寄せていることに説得力を持たせる
温厚そうな人柄で、知的な雰囲気も漂う。
踊りは一つ一つ丁寧ですっきりと無駄がなく、
伸びやさに終始引き込まれた。
哀愁のあるソロでも心のこもった美しい踊りで、
大きな舞台にたった1人でいても自然と吸い寄せられた。

パゴダの王子に引き続き
米沢さんとのパートナーシップも光り、
お互いを引き立てながら豊かな感情が生まれていた。
来シーズン開幕作品であるビントレー振付のシルヴィアでも
主役を任されペアを組む、今後益々楽しみな2人である。

それから2羽の白鳥の堀口さんは
この日も強い印象を残した。
音楽と呼応するような踊りであることは初日も触れたが、
弦楽器の細かな響きと指先、足先の動きもぴったりと合い、
鳥肌ものであった。
どこか薄幸な雰囲気はオデットに似合い、
ロメオとジュリエットでの娼婦の弾けっぷりも良かったため
オディールでも新たな魅力を花咲かせそうである。
是非彼女のオデット/オディールを観たいと改めて思わせた。

次回は早くもバレエ団シーズン最後の演目・マノンである。
約9年ぶりの久々の再演で、初挑戦のダンサーが殆んどであろう。
マクミランの最高傑作であり、
18世紀の退廃したフランス社会という
踊りは勿論、背景にある空気感出すことも難しく、
ただ綺麗に、また勢いに乗って踊れば済む作品ではない。

前回新国立のダンサーで主役を踊ったのは
酒井はなさんのみであったが、
今回はマノンを小野さん、本島さん、
デ・グリューを福岡さん、山本さん、4人のダンサー達が挑む。
中でも、恐らくは日本の男性ダンサー初のデ・グリューとなる福岡さん、
この方の抜擢を前回公演来待ち望んでいた人は多いであろう
山本さんは要注目である。
(前回はなぜか看守と貴族だったそうであるが、
新聞に掲載されたゲスト不在時に酒井さんと組んでいる
沼地のパ・ド・ドゥの写真は全く違和感が無かった)

私も当時はまだ新国立に通っていない時期で、
首を長くしてこの作品の上演を待っていた者の1人である。
ロメオとジュリエットに続き、マクミラン作品における
新国立劇場バレエ団のダンサー達の熱演に期待したい。



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