ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』2012年5月12日(土)

2012年05月14日 | Weblog

Nさんより先週土曜日の白鳥の湖の観劇記を寄稿頂きました。

今回は日本ペア 〈川村さんと貝川さん)です。

終幕に関するNさんの感想が特に秀逸ですね。


新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』2012年5月12日(土)

オデット/オディール:川村真樹
ジークフリート王子:貝川鐵夫
ロートバルト:厚地康雄

王妃:楠元郁子

道化:八幡顕光
家庭教師:石井四郎

王子の友人(パ・ド・トロワ)
さいとう美帆 長田佳世 奥村康祐

小さい4羽の白鳥:さいとう美帆 長田佳世 寺田亜沙子 細田千晶

大きい4羽の白鳥:本島美和 厚木三杏 堀口純 丸尾孝子

花嫁候補:寺田亜沙子 堀口純 丸尾孝子 川口藍 小村美沙 細田千晶

スペイン:西川貴子 厚木三杏 マイレン・トレウバエフ 江本拓

ナポリ:さいとう美帆 井倉真未 福田圭吾

ルースカヤ:本島美和

ハンガリー:大和雅美 輪島拓也

2羽の白鳥:厚木三杏 堀口純

大きい4羽の白鳥(第4幕):本島美和 西川貴子 丸尾孝子 小村美沙

川村さんのオデットはいたくたおやかで、
踊り1つ1つが美しい線を描き、柔らかで儚げな余韻を残す
まさに白鳥の化身であった。

指先から足先に至るまで神経が行き届いていて隙が無く、
どの瞬間を切り取っても絵になるような踊りであった。
川村さんといえばオデットとオディールでは前者の印象が強かったが
パゴダの王子で踊った悪女・エピーヌの経験が生きているのであろう、
オディールにもぞくぞくとさせられた。
真っ赤な口紅を付け、それに負けないほどの妖艶な色っぽさに
終始鳥肌が立った。
王子が翻弄されるのも十分に頷ける。

貝川さんのジークフリートはおっとりとした雰囲気があった。
周りの状況に身を委ねているうちに
オデットに瞬く間に引き込まれ、
オディールに対しても何の疑いも持たずに接近する姿から
育ちの良さが伝わってくる。
良い意味で淡白で何色にも染まっていない王子像を造形している印象を与え、
これからの出会いや試練をいかにして乗り越えていくのか
想像を掻き立てられた。

大和雅美さんのハンガリーも挙げておきたい。
実に晴れやかで力強く、生き生きとした踊りであった。
小柄な方だが、中心を務めるに相応しい
貫禄と高い技術に惹きつけられた。

終幕はオデットと王子の愛の力でロートバルトを打ち負かすという演出だが、
いまひとつ心に迫るものがなかったのは惜しい。
舞台上にいる全員が踊っているうちに
いつの間にかロートバルトが沈んでいた、という印象である。
確かに不況、政治不安というこのご時世を考慮すると
オデットと王子が2人で身を投げるという結末はあまりに痛々しく、
オデットと王子どちらかが息絶えるというのも
小さなお子様やバレエ初鑑賞の観客も多いであろう演目上
気持ち良い足取りで帰宅し、またバレエを観に行きたいと思わせるのは
困難であろう。

明解な結末を導くには、愛の力にこだわるのであれば
ロートバルトを追い詰めるオデットと王子の振付に工夫を凝らすか、
精霊ウィリ達によってヒラリオンが沼に追い詰められた挙句に突き落とされる
ジゼルのように、群舞のフォーメーションも大きく変更するなど、課題は多くある。
また、セルゲイエフ版のように
王子がロートバルトの翼をもぎ取る振付に戻しても良いかと思う。
ロートバルトが倒れていく過程が観客には非常に分かりやすい。
それからこの作品の核は王子の成長物語である。
愛する女性を守り抜くまでに男として成長した王子の姿から、
物語の輪郭がよりはっきりしてくるであろう。

明日は初役同士の米沢唯さん、菅野英男さんペアが登場する。
お2人とも2010年秋に入団し、揃って
シンフォニー・イン・Cの第一楽章でデビュー、
その後はガラでのドン・キホーテのパ・ド・ドゥやパゴダの王子でも組み、
パートナーシップの良さが光っていた。
数日後に韓国で開催される「日韓文化交流公演~同行~」への参加も決定した
勢いのあるペアである。
オデット/オディールと王子がどう心を通わせるか、期待したい。

 


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