箕面の森の小さなできごと&四季の風景 *みのおハイキングガイド 

明治の森・箕面国定公園の散策日誌から
みのおの山々を歩き始めて三千余回、季節の小さな風景を綴ってます 頑爺<肇&K>

あの青年の涙は・・・! 

2020-08-26 | *編集・冬/12月

あの青年の涙は・・・

 11月の終わり・・・

私はこの日、箕面のビジターセンターから自然4号路を通って

勝尾寺へ抜ける山道を歩いていました。

途中に丸太を半割にした木のベンチが2つ並んでいる所があり、そこで

休憩を取ろうと思っていました。

ここから茶園谷へでて、谷山尾根をつたって白島へ下るルートを

予定しています。

林立する杉林を抜けて雑木林に入ると、晩秋の秋風が吹くたびに

ひらひらと落葉し、広葉樹は美しく色付いて もうすぐやってくる

冬支度を始めているようです。

 

まもなくベンチについた私は1人の青年が先に座っていたので、もう

ひとつのベンチに腰掛けましたが・・・

青年は ず~ と、前の一点を見つめたまま物思いにふけっている様子

なので、挨拶するのも控えていました。

森に浸っている様子でもなく、何か心ここにあらず・・・といった

感じです。

私はいつも寒いときは携帯しているポットからコーヒーを注ぎ、

体を一息入れさせると共に素晴らしい晩秋の風情を楽しんでいました。

 

まもなくして 70歳は過ぎていると思われる おばあさんが落ち葉を

ザクザクと踏みしめて息も切らせることなくゆっくりと、しかし元気な

姿で歩いてこられました。 

・ こんにちは・・・! 

    * ああ!  寒くなってきたね・・・

と、私と挨拶をして・・・

それに気付いたのか青年がベンチの端により、おばあさんに席を空けて

いました。  

おばあさんは笑顔で会釈をしてそこへ座りましたが・・・

長い間二人とも黙って前を見つめていました。

 

あのおばあさんはいつもお1人で歩いておられるのだろうか? 

おじいさんはどうされたのかな?  お子さんはおられるのかな? 

どんな生活をされているのかな? 

後ろから姿を見ただけでは窺い知る事は出来ないけれど、幾多の

困難を乗り越えて、今は心静かに森の散策を楽しんでおられる様子に

見えるけど・・・?

そんな事をぼんやり思いながらいたら、ひときわ強い風が吹き、沢山の

落ち葉が一斉に降り注いで我に帰りました。

 

そろそろ出発しようかと思ったとき突然・・・

あの青年の片がゆれ始めた・・・

それは段々と激しくなり、遂に片を震わせておいおいと声をあげて

泣き始めた・・・ 何を思い出したのか? 

何を悲しんでいるのだろうか? 

いったい何が? あったというのだろう? 

きっと急に悲しくなって、寂しくなって、思わずこみ上げてきたに

違いない・・・

 

隣に座ったおばあさんは、そんな青年の姿を見て、そっとリュックから

テイッシュを取り出し、そのまま何も言わずに青年に手渡した・・・

そして自分の手を重ね、何度も優しくポンポンとたたいています・・・ 

まるで自分の子供を労わるように ”よしよし大丈夫だよ・・・” と

言っているように・・・

 

やがて 青年が落ち着いてきたのを見計らってか? おばあさんは

ゆっくりと立ち上がり、静かにリュックを背負い、青年の片をなでる

ように手を這わせて励ますようなしぐさをした後, 再び落ち着いた

歩みで勝尾寺の方へ登っていかれました。

 

残された青年は ウン ウンと一人頷いている・・・

一言の会話も無かったのに、それは心と心が通じた証でした。

 

森は人間の心を素直にも正直にもさせてくれる。

癒す方も癒される方も、それが自然になされているだな・・・

 

森の木立は風が吹くたび大きく揺れている・・・

木枯らしの季節がやってきました・・・

しかし、このベンチの安らぎは温かい温かい暖炉の前にいるよう

でした。

 

僅か15分ほどの一時だったけど・・・

私は今日も森の中で素晴らしい自然の摂理と、人間の心温かい豊かさ

を味わいながら帰路についたのでした。

 06-12 (完)  

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