ゴダールよりもデ・パルマが好き(別館)

ホンも書ける映画監督を目指す大学生monteによる映画批評。

The Hunter

2010-03-25 11:44:07 | 映画(数字・アルファベット)
2010年・ドイツ/イラン・Shekarchi
監督: Rafi Pitts
(IMDb:6.3 Metacritic:× Rotten:×)



ベルリン映画祭にて鑑賞。
監督のRafi Pittsは前作「It's Winter」でもコンペティションに選ばれた。
今、ベルリンから最も愛される新進監督の一人である。

この作品はどう評価すれば良いのか、判断に困るようなところがある。
一言で表すならば、映画祭映画であり、映画祭以外での上映などありえないことのように思える。

映画祭好みの“スタイル”の映画である。
“物語”を丁寧に伝えようとすることが放棄されているのはもちろんのこと、
アート系の映画に見られる“画面”での遊びもほとんど見られない。
ただ、いかに少ない描写で、いかに物語を伝えることができるのか。
そして、既存の映画文法を破壊し、新たな映画の構成方法を目の肥えた観客に見せ付けるか。
という非常にマニアックな、映画を見すぎた人にしか分からない姿勢のため、非常にわかりにくかったし、
結局、何がしたいんだの一言で、済まされてしまいそうでもある。
映画祭だからこそ受け入れられ、成り立つ作品のように思った。

しっかりと見ていたはずなのだが、なかなかストーリーの細部を理解できず、
上映後にカタログを読んで、ようやく完全に理解した。
簡単なストーリーなので、普通の映画どおりに作られていたら、容易に理解できただろう。
ある意味で、このスタイルでなければ、ストーリーは単純すぎただろうし、
逆に、このスタイルを提示するために、ストーリーが簡単なものになっているともいえる。



主人公アリは、監督自身が演じている、前科はあるが、家族と平穏に暮らしている。
ある日、アリが仕事から帰ると、妻のサラと娘のサバがいない。
警察に行くと妻のサラがデモに巻き込まれて死んでしまったことがわかる。
アリは娘の生存を願うが、結局、娘も遺体となって発見される。
彼は怒りのあまりパトカーに乗った警官二人を射殺してしまう。

ここまでが前半で、静の描写が徹底されているパートだ。
物語に即して考えるならば、描写するべき描写をあえてせず、
物語を進める上では描写する必要のない描写を長廻しする。
そのため、上記の物語はわかりにくく、物語の軸となる妻と娘がなぜ死んだのかがわからない。
そのため、アリが警官殺しをしてしまう動機もわかりにくい。
カタログによると妻と娘は警官の誤射のため亡くなった、とあるが、そのような説明がなされていた記憶は全くない。
一緒に見ていた友人もわからなかったと言っていたので、見逃したわけではないと思う。



警官の射殺からは先程とは打って変わって、動の演出が見られるようになってくる。
突然のカーアクションには驚かされた。
そして、アリと追ってきた二人の警官が森で迷い、雨が降りしきる森の中を彷徨うパートになる。
ここに来て、ようやくこの作品の言わんとしていることがかすかに見えてくる。
イランにおける体制の批判である。

警官の一人が偉そうなもう一人の警官を殺そうと企む。
だが、アリが脱出のため、その偉そうな警官の制服を奪い、着ていたために、
制服で判断され、警官によって“誤射”されてしまう。

このラストの展開はあまりにも遠回しでわかりにくいが、考えれば考えるほど、
皮肉で、見事な体制批判のように思えてくる。

〈70点〉


On The Path

2010-03-25 11:43:47 | 映画(数字・アルファベット)
2010年・ボスニア・ヘルツゴビナ・オーストリア・ドイツ・クロアチア・Na putu
監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
(IMDb:7.5 Metacritic:× Rotten:×)



ベルリン映画祭にて鑑賞。
監督は前作「サラエボの花」で、同じベルリン映画祭の金熊賞を受賞したヤスミラ・ジュバニッチ。
前作では自身の出身国であるボスニア・ヘルツェゴビナにおける「戦争」と「家族」についてを描いていた。
本作では前回紹介した「Shahada」と同じく、「宗教」と「家族」について、
ボスニア・ヘルツェゴビナの今を描いている。
この監督、ベルリン映画祭の傾向と対策はバッチリのようだ。

劇場公開されるかわからないが、以下、ネタバレしまくってます。
「Shahada」よりは遥かに公開の可能性が高いので、
公開まで何年でも待ちます!という方はご注意を。



「Shahada」と同じく、この作品もイスラム教についての物語だ。

CAのルナと空港の管制塔で働くアマールは恋人同士で、結婚も視野に入れ、同棲している。
ある日、アマールは仕事をクビになってしまう、同時期にイスラム教徒の友人に仕事を頼まれたアマールは、
ルナの反対にもかかわらず、厳格なイスラム教徒たちが集団で暮らすコミュニティへ出稼ぎに行くことになる。

しばらくして、ルナはアマールの事を心配に思い、そのコミュニティを訪れる。
すると、そこにはイスラム教にすっかりと感化され、まるで別人のようになったアマールがいた。
家に帰ってきてからも、イスラムの厳格な教えを守り続け、モスクへと通うアマール。

そして、ルナが妊娠していることが判明する。
イスラム教では婚前の性行為が禁じられているため、アマールはルナに子どもをおろすように命じる。
さて、ルナは「宗教」をとるのか、それとも新しく生まれる「家族」をとるのか、決断を迫られる。



あまりにも主題が「Shahada」と似ていたことに驚かされた。
それだけ、宗教問題は世界的に重要なファクターなのだろう。
やはり、この手のテーマは日本人にはわかりにくいのが、難点であるが、
イスラム教にのめり込んで行くアマールと現代的に生きようとするルナとの対立を
軸に描いているので、比較的見やすかった。

さらに驚かされたのが、似た主題を持つ「Shahada」と「On The Path」の描く結末が全くの正反対であることだ。
それぞれ、マリアムとルナはイスラムの教えに反し、未婚の男性の子どもを妊娠してしまう。
「Shahada」でのマリアムは妊娠した子どもを中絶し、最終的にはイスラム教へと入信していく。
一方の「On The Path」でのルナは全く逆の行動をとる。
つまり、イスラムへと進んだアマールを見捨て、妊娠した子どもを一人で育てていくことを決断する。

両者共に決断をする場所がモスクであり、その結果が異なることが面白い。
また、キリスト教徒中心のドイツで作られた作品がイスラム教への歩み寄りを描くのに対して、
イスラム教中心のボスニア・ヘルツェゴビナで作られた作品がイスラムからの脱却を描いているというのも興味深い。



また、これは「On The Path」のヤスミラ・ジュバニッチ監督が、女性であることも大きいと思う。
アマールのような男性は弱い存在であるからこそ、宗教に依存してしまい、
一方のルナは母であると言う強さのために宗教などなくても生きていける。
作品内でも多く描写され、ルナがそれに対して反発するように、女性軽視が一部に見られるイスラム教から脱却し、
自立して生きていく強い女性を描こうという姿勢がこの作品からは強く感じられるのだ。

〈70点〉