ゴダールよりもデ・パルマが好き(別館)

ホンも書ける映画監督を目指す大学生monteによる映画批評。

マイケル・ジャクソン THIS IS IT

2009-11-25 20:44:24 | 映画(ま行)
2009年・アメリカ・This Is It
監督:ケニー・オルテガ
(IMDb:7.4 Metacritic:67 Rotten:80)
公式HP

言わずと知れた、2009年6月に急逝したマイケル・ジャクソンが、
ロンドンで開催する予定だった幻のコンサート「THIS IS IT」のリハーサルと
その舞台裏を収めた映像を同コンサートの演出を務めたケニー・オルテガが編集した作品。



映画として優れているのかと問われれば、
その画質の低さ、音響デザインがあまり良くないこと、など
急ごしらえがゆえの完成度の低さも見える。
しかし、この作品はやはりマイケル・ジャクソンは凄かったと知らしめる上で、
大きな価値がある。

僕はいわゆるカリスマとしてのマイケル世代ではない。
異常者としてのマイケル世代だ。
一年に数回、定期的にマイケルの異常な行動に関する報道を見てきた。
不思議と感じたのは違和感だけだった。
マイケルの音楽は古びない。
だからこそ、僕はマイケルの音楽が大好きだったし、今もそうだ。
マイケルが異常者扱いされている事に常に疑問を持っていたのだ。
その疑問はマイケルが亡くなった瞬間のマスコミの手のひら返しによってさらに深まる。
この映画も手のひら返しの一環なのだろう。
しかし、その手のひら返しがマイケルの凄さを証明してしまったのだ。
バッシングを浴びる中でもマイケルはマイケルだった。
マイケルの歌唱力、ダンス、そして演出力は決して衰えていなかったのだ。

コンサート用に作られていた「スムーズ・クリミナル」「スリラー」の映像のかっこよさ。
「ビリー・ジーン」「ビート・イット」での熱狂的な盛り上がり。
「アース・ソング」「マン・イン・ザ・ミラー」に込められたマイケルの想い。

リハーサル映像だけでも見られることに感謝しなければならないが、
本音を言えば、完成形を体験したかったし、マイケルもそれを望んでいただろう。

映画として、少し贅沢を言うならば、やはりマイケルの力に頼りすぎた作品であり、
映画として単体で評価してよいのか、ただマイケルを評価するべきなのか、
作品としても、それを取り巻く環境としても微妙なところであることが、本作の欠点である。

ここでは作品そのもののドキュメンタリーとしての完成度に対する点数としたい。

〈70点〉



クローズZEROⅡ

2009-11-16 10:27:01 | 映画(か行)
2009年・日本・東宝
監督:三池崇史
公式HP

クローズZERO?
そんなもの不良だけが見に行けば、いいのだ!

などと馬鹿にしていたのに、実際見てみると、思わぬ傑作で、
大興奮してしまい、数日間不良になった気分にして楽しませてくれた
「クローズZERO」の続編。

だが、前作とは比べ物にならないほど、完成度が劣っていると思う。


↑なぜか正式なポスターが見つからない

ものすごいオーラを感じた。
只者でない人間がライブハウスに入ってきたのがわかった。
「クローズZEROⅡ」のエキストラに行った時の事だ。
そう、あまりにもハマってエキストラにも行った。
もちろんスキンヘッドの不良役ではない。
ライブハウスの観客、つまり、雰囲気だ。
練習が何度も繰り返される。歌ったり、騒いだり。
助監督とエキストラだけだ。
まもなく、撮影かと思しき頃、そのオーラを背中に感じた。
振り返る。
そこにいた。
紛れもなく、三池崇史だ!



映像、画像で見る三池監督そのまんまだ。
正直、怖い。
出演者のやべきょうすけなんかよりもよっぽどオーラがある。
オーラで人に気付いたのなんか初めてかもしれない。
撮影が始まる。
大学で使っているような中型のデジタルカメラだ。
大量にある。
いたるところにカメラが置かれ、一気に撮っていく。
それを色々な所にカメラを置き換えて、何度も繰り返す。
おそらく何を撮るかなど決めていないのだろう。
大量に素材を撮って、編集で何とかすれば良いのだ。
早撮り三池スタイルに驚き、監督がブースに偉そうに座ったまま、
一言も言葉を発さないのにも驚いた。
監督などいないかのように撮影はどんどん進んでいく。
歌い、叫び、騒いだ。
体力的に最もハードだったエキストラだ。
映画は撮影から約半年で公開。
序盤からテンションが高い……
あれ?ファミマ!
中盤、どうでもいい話が長い……
あれ?映ってない!
まあ、いい、面白ければ……
あれ?黒木メイサの歌、脈絡なさすぎ!
乱闘がパワー・ダウンしてないか……
あれ?さらに盛り下がってきたぞ!
ラスト、やっと持ち直してきたか……
あれ?長い!
まだ終わらないのか……
この映画、そして、この記事……

自分が映っていなかったから言うわけでは決してない。
三池スタイルに驚いたから言うわけでは決してない。

気楽に見る分には一定の水準を超えて楽しめるが、
ストーリーの散らかりようや映像の密度の薄さなど、
前作に比べると遥かに映画としての完成度は低い。

〈60点〉

エスター

2009-11-15 09:43:17 | 映画(あ行)
2009年・アメリカ・Orphan
監督:ジャウム・コレット=セラ
(IMDb:7.2 Metacritic:42 Rotten:55)
公式HP



この映画を絶賛していると、まるで「仏陀再誕」を絶賛しているかのような目で
周囲から見られるのが悲しいが、
そんな奴ら本物の映画好きじゃないと断言できるほど素晴らしく、
過去の「オーメン」などの名作ホラーと並べても遜色ないほどの作品だと思う。
むしろ、「オーメン」ぐらいなら軽く越えているかもしれない。
ほぼ間違いなく今年のベストホラー映画だといえるし、
2000年代のベスト10には必ず入るであろう作品だ。
全く話題になっていないのが、悲しい。

監督は「蝋人形の館」のジャウム・コレット=セラで、こちらも素晴らしかった。
ホラー・マニアが好みそうな悪趣味な描写も適度に織り交ぜながら、
基本的には娯楽性重視のアトラクション感覚なのが、
実にダーク・キャッスル社らしく、この監督との相性が良い。
ジャウム・コレット=セラ、少し覚えにくいが、注目すべき監督だ。



エスターを演じるイザベル・ファーマンの演技が素晴らしすぎる。
はっきり言って、彼女に比べると、「呪怨」の俊雄くんなんかは
白塗りして突っ立っているに過ぎず、同じ怖いという基準で、
比べると申し訳ない気がするほど、怖い。
自分の腕をつぶしたり、父親を誘惑したり……
女優として、いや女の子としての将来が心配になるほどの怪演だ。

また、エスターを引き取る夫婦を演じたヴェラ・ファーミガとピーター・サースガードも
見事であり、ただのホラー映画を一級のドラマへと引き上げるのに貢献している。

2時間越えという長丁場にもかかわらず、巷にあふれている90分足らずの
お手軽ホラーよりも、はるかにスピード感にあふれており、飽きることなく、
常に適度な緊張感と恐怖心を保ちながら、見続けることができた。
演出、脚本、演技、まさに三拍子そろった見事な傑作である。

〈80点〉