2008年・日本・PASSION
監督:濱口竜介
自分も監督をしたりしている割には自主制作映画を見るのはあまり好きではない。
好きではないというか、苦手に近いのかもしれないし、
自分のことが見透かされているようで恥ずかしいというのも大きいのかもしれない。
だから、自主制作映画とか学生映画というものをあまり見たことがない上、
見始めたのもやっと最近になってから、それも苦しみながら見ているので、
あまり参考にはならないかもしれないが、この「PASSION」は今まで見てきた自主映画の最高傑作だと断言することができる。
今までは去年「RISE UP」が公開された中島良監督の「俺たちの世界」が一番だと思っていたが、
はるかにそれを凌駕していた。
監督は濱口竜介監督。
東京芸大の映像研究科の卒業生であり、黒沢清監督の教え子らしい。
その前には東京大学の文学部も卒業している。
申し訳ないことに全く知らなかったのだが、今年の1月に行われた
『未来の巨匠たち』という特集上映にも選ばれるほど、注目されているようだ。
この作品は濱口監督が東京芸大の修了作品として作り上げた。
結婚間近の果歩と智也を祝う席上、智也の過去の浮気が発覚し……。
男女5人が揺れ動く一夜を描いた群像劇。
ストーリーに難しさは皆無で、基本的に男女間の一夜のいざこざを描いているだけである。
全く期待せずに見たこともあってか、その面白さ、完成度に圧倒された。
序盤から、一見、地味ながらも、只者ではないオーラが感じられる。
その予想は見事に、タイトルが出るタイミングから確信へと変わり、
男たちが夜道を走り回る時の、車に据えられたカメラによる移動撮影によって、
観客は思わず、この作品を凝視するために、姿勢を正してしまうだろう。
そして、唐突に始まる教室での「暴力」とは何かという異常なまでに長い議論は
まるで何か取り付かれたかのような河井青葉の演技の素晴らしさもあって、
ともすれば、安っぽくなりがちなシーンを見事に鑑賞に堪えうる、
むしろ見るものに感銘を与えられるレベルにまで、持ち上げていることに、感動すら覚えた。
それは作品の中盤のこれまた異常なまでに長い「本音ゲーム」でも同じである。
俳優たちが本当に生き生きとしている。
さらにはこれらのシーンに見られる過剰なまでのセリフの応酬と激しいカット割とは
実に対照的な長回しもこの作品は見ることができる。
特に見るべきは終盤の港で散歩しながら語り合う10分ほどの長回しだ。
これは映画史に残るべき1ショットだと言っても過言ではない。
まさに奇跡の瞬間を目の当たりにしたのだ。
本当に感動した。
監督の「PASSION」が全てに行き届いた奇跡のような作品だ。
このような作品こそ全国の劇場で大規模に公開されるべきだろう。
日本にアメリカのような質さえ高ければ、メジャーが買い取り、大々的に公開するシステムがないのは非常に残念だ。
濱口監督の新作は「永遠に君を愛す」で、大阪では3月に「シネ・ドライブ2010」で上映の予定。
主演が「PASSION」と同じ河井青葉であることも大きな魅力で、必ず見に行きたい。
〈80点〉
監督:濱口竜介
自分も監督をしたりしている割には自主制作映画を見るのはあまり好きではない。
好きではないというか、苦手に近いのかもしれないし、
自分のことが見透かされているようで恥ずかしいというのも大きいのかもしれない。
だから、自主制作映画とか学生映画というものをあまり見たことがない上、
見始めたのもやっと最近になってから、それも苦しみながら見ているので、
あまり参考にはならないかもしれないが、この「PASSION」は今まで見てきた自主映画の最高傑作だと断言することができる。
今までは去年「RISE UP」が公開された中島良監督の「俺たちの世界」が一番だと思っていたが、
はるかにそれを凌駕していた。
監督は濱口竜介監督。
東京芸大の映像研究科の卒業生であり、黒沢清監督の教え子らしい。
その前には東京大学の文学部も卒業している。
申し訳ないことに全く知らなかったのだが、今年の1月に行われた
『未来の巨匠たち』という特集上映にも選ばれるほど、注目されているようだ。
この作品は濱口監督が東京芸大の修了作品として作り上げた。
結婚間近の果歩と智也を祝う席上、智也の過去の浮気が発覚し……。
男女5人が揺れ動く一夜を描いた群像劇。
ストーリーに難しさは皆無で、基本的に男女間の一夜のいざこざを描いているだけである。
全く期待せずに見たこともあってか、その面白さ、完成度に圧倒された。
序盤から、一見、地味ながらも、只者ではないオーラが感じられる。
その予想は見事に、タイトルが出るタイミングから確信へと変わり、
男たちが夜道を走り回る時の、車に据えられたカメラによる移動撮影によって、
観客は思わず、この作品を凝視するために、姿勢を正してしまうだろう。
そして、唐突に始まる教室での「暴力」とは何かという異常なまでに長い議論は
まるで何か取り付かれたかのような河井青葉の演技の素晴らしさもあって、
ともすれば、安っぽくなりがちなシーンを見事に鑑賞に堪えうる、
むしろ見るものに感銘を与えられるレベルにまで、持ち上げていることに、感動すら覚えた。
それは作品の中盤のこれまた異常なまでに長い「本音ゲーム」でも同じである。
俳優たちが本当に生き生きとしている。
さらにはこれらのシーンに見られる過剰なまでのセリフの応酬と激しいカット割とは
実に対照的な長回しもこの作品は見ることができる。
特に見るべきは終盤の港で散歩しながら語り合う10分ほどの長回しだ。
これは映画史に残るべき1ショットだと言っても過言ではない。
まさに奇跡の瞬間を目の当たりにしたのだ。
本当に感動した。
監督の「PASSION」が全てに行き届いた奇跡のような作品だ。
このような作品こそ全国の劇場で大規模に公開されるべきだろう。
日本にアメリカのような質さえ高ければ、メジャーが買い取り、大々的に公開するシステムがないのは非常に残念だ。
濱口監督の新作は「永遠に君を愛す」で、大阪では3月に「シネ・ドライブ2010」で上映の予定。
主演が「PASSION」と同じ河井青葉であることも大きな魅力で、必ず見に行きたい。
〈80点〉