ゴダールよりもデ・パルマが好き(別館)

ホンも書ける映画監督を目指す大学生monteによる映画批評。

一覧(数字・アルファベット)

2010-04-27 23:44:20 | 映画(数字・アルファベット)
(数字)
007/慰めの報酬
13日の金曜日(2009)
1408号室
20世紀少年<第2章>最後の希望
20世紀少年<最終章>ぼくらの旗
96時間

(アルファベット)
HERO(2007)
Jew Suss - Rise and Fall
Love Letter
NINE
On The Path
PASSION
Puzzle
Shahada
The Hunter
The Robber

NINE

2010-04-27 23:42:53 | 映画(数字・アルファベット)
2009年・アメリカ/イタリア・Nine
監督:ロブ・マーシャル
(IMDb:6.3 Metacritic:49 Rotten:37)
公式HP



昨年の中頃にはアカデミー賞ノミネートほぼ確定などと前評判がやたらと高かった割に、
公開されると、悪評ばかりが目に付いていた。
上のようにRottenTomatoesではわずか37点で、もちろんトマトは腐っている。
期待していただけに残念だった。

日本で公開され、各サイトを見回ってみても、あまり評判が良くないので、パスしかけていた。
だが、一度見ようと思ったものを見ないでおいて、後にDVDで見た時、
やはり見ればよかったと後悔したくもないので、見に行ってみることにした。
終了真近なこともあってか、驚くほど人が少なかった。
それに、僕以外揃いも揃って、後ろの方の端っこになぜか座っていて、
真ん中に座ったので、さらに空席が目立つ結果になり、
自分以外にはこの劇場には誰もいないのではないかと錯覚してしまうほどだった。
そして、実際の作品だが、全く期待していなかったことが功を奏して、かなりの傑作であるように思えた。



ミュージカルは大好きで、同じくロブ・マーシャル監督の「シカゴ」をミュージカルの中で
5本の指に入る傑作だと思っているのだが、この作品もその中に入れても良いかもしれない。
少なくとも10本の指には入るだろう。

ただ、劇場で見ないとこの作品の良さは半減してしまう。
そして、前よりの真ん中でスクリーンに包まれるようにして見るとなお良い。
後ろの方の端っこの席ではこの映画の持つテンションについていけなくなって、冷めてしまうかもしれない。

そして、この作品は映画というよりもむしろ壮大なミュージック・ビデオやサントラだと認識するべきで、
映画を見るというよりも、体感すると言った方が正しいだろう。
だから、物語を楽しもうなどとは間違えても考えてはいけない。物語などないのだから。
これに早くに気付き、目線を変え、物語よりも映像と音の洪水を楽しむべきだ。



数ある楽曲の中でも「Be Italian」と「Cinema Italiano」は圧巻。
数日間、頭の中でこの二曲が交互に響いていたのは言うまでもない。
曲自体もさることながら、映像的にも他の曲の追随を許さない迫力だった。
舞台版だと、ミュージカルシーンは歌っているその場だけしか見ることはできないが当然だが、
別のシーンの映像(例えば、「Be Italian」だと、砂浜で走り回る子どもたち)が
間に挿入されていて、映画版らしさが強調されている。
アカデミー助演女優優勝にノミネートされたペネロペ・クルスの歌う「A Call from the Vatican」も中々だが、
ノミネートされるほどの演技なのかは疑問だ。アカデミー賞の選出基準がエロさだったとは初めて知った。
日本では一番い取り上げられている気がするニコール・キッドマンの役は実の所、小さく、
楽曲もあまり盛り上がらない。一番、地味で損な役どころだったのは残念。



「アクション」が最後のセリフというのもニクイ演出で、映画好きにはたまらない。
そして、その後の長いエンド・ロールが終わり立ち上がると、なぜか観客は自分ひとりに。
正直、神隠しにあったのかと思った。
あれだけの名曲がガンガン流れる大興奮のエンド・ロールを聞かずに立ち去るなんて、
よっぽど皆さん退屈したんでしょうか。

〈80点〉

The Robber

2010-04-04 17:26:15 | 映画(数字・アルファベット)
2010年・オーストリア/ドイツ・Der Rauber
監督:Benjamin Heisenberg
(IMDb:7.7 Metacritic:× Rotten:×)

ベルリン映画祭にて鑑賞。
監督は新進のBenjamin Heisenberg。



これまたタイトルどおり「強盗」の話だ。
銀行強盗のヨハンは刑務所の中でも日々、トレーニングを積んでいた。
仮釈放された彼は早速、マラソンのトレーニングを始める。
元恋人のエリカとも再会し、人生をやり直そうとするヨハンだったが、
彼にまた銀行強盗というスリルへの欲求が襲ってくる。
ヨハンはマラソンランナーとして、大会に優勝していくと同時に、
数多くの銀行強盗をこなしていく。時には、銀行を3軒ハシゴする。
また、ヨハンは彼の保護監察官を怒りのあまり殺してしまう。
銀行強盗を続けていることを知ったエリカの通報により彼は捕らえられるが、
持ち前の運動神経で警察署から逃げ出し、警察から追われる身となる。



この作品で一番印象に残ったのが、丁寧な“音”の使い方だ。
特にこの作品のタイトル前に印象的に使われるルームランナーを走る音の使い方が見事だ。
このルームランナーのドンドンドンドンというリズムがヨハンの銀行強盗でのスリルに重ねられている。
彼が窮地に立たされると、ルームランナーの音がまるで彼の心臓音あるかのように響きだす。
また、その音が劇伴の音楽と絡み合い、観客の緊張感をさらに高めるのだ。
中盤にあるヨハネが公園を越え、森を越え、この音楽に合わせて全力疾走するシーンでは、
小さいながらも拍手が起きていた。
日本では決して見ることができない光景に感動した。
ヨハンが逃亡する時にも車のラジオからの軽快な音楽がバックに流れていて、音楽への気遣いが見られる。

後半の逃亡シークエンスは少し長く感じた。
それまでテンポの良さが光っていたので、少し失速した感が否めない。
映画のラストでの車のワイパーの使い方もルームランナーと通じるところがあり、
終幕へのリズムを刻んでいた。



非常に良くできた映画で、高い評価を受けそうだが、全体的にあっさりしているし、
高尚な主張やドラマも見当たらないため、映画祭向けではないように思う。
ただし、サスペンスの上手さによって、一級のスリラーに仕上がっているので、
興業的に成功するのではないか。
映画祭での上映はそのためのお披露目としての位置づけなのだろう。

ベルリン映画祭でコンペティション部門の作品を見て来て思ったのは、
作品の持つ現代的なテーマを比較的シンプルな構成かつ短く(90分程度)で、描いた作品が多く、
これでは到底、日本映画が選ばれないだろうし、その中でも「キャタピラー」が
選出されたのは当然だろうということだ。
テーマを明確にできるほどシンプルな構成を持った日本映画は残念ながら少ない。
90分程度にまとめられた作品もほとんど見ない。
どんなに内容がなくても2時間弱あるのが当たり前になっているのだ。
日本にも映画祭を狙っている監督が多いと聞くが、狙うなら狙うなりに傾向と対策を
しっかりと調べ上げてから出品するべきでないかと勝手ながら思った。
トルコ、ルーマニア、ボスニア、アルゼンチンといった映画後進国がもうすでにその技を
身につけ始めているというのに、映画先進国であるはずの日本がこれでは面目が立たない。

〈75点〉


Puzzle

2010-03-30 13:06:57 | 映画(数字・アルファベット)
2010年・アルゼンチン/フランス・Rompecabezas
監督:Natalia Smirnoff
(IMDb:6.1 Metacritic:× Rotten:×)

ベルリン映画祭にて鑑賞。
「パズル」というタイトル通り、ジグソーパズルについての映画であることは間違いないのだが、
パズルそのものよりも、やはりこの作品も「家族」に焦点を当てた作品だ。

主人公マリアは誕生日に家族からパズルをもらう。それをきっかけにマリアは
パズルが得意なことに気付き、のめり込んで行く。マリアは有名なパズル専門店へ行き、
そこで、パズル・トーナメントのパートナー募集の張り紙を見つける。
募集をしていたのは金持ちのパズルコレクターの男性で、マリアは家族の反対を押し切り、
家族には内緒で彼とドイツで開かれる世界大会を目指していくことにする。



あらすじだけ見ると、日本で言ういわゆるスポコンものだといえる。
パズルの大会があることにまず驚かされるが、パズルを一般的じゃないスポーツだと捉えると、
「ウォーターボーイズ」などの系譜にあることことがわかる。
しかし、それはあくまでも、あらすじだけの事で、実際、この作品は日本で作られている
スポコンものとは全く違った様相を呈している。

まず、この作品において、パズルはあくまでも手段であって、目的ではない。
一般的なスポコンものでは、その競技の大会で優勝することが目的であり、
それに向かって作品は構成されている。
だが、この作品ではドイツの世界大会の前に作品が終わること、その前の地方大会においても、
パズル大会の様子や戦略などがほとんど描写されないことからもわかるように、
あくまでもパズルという競技は目的ではなく、この作品のテーマを表面化させるための手段でしかない。
視点を変えてみれば、この作品を凡庸なスポコンものとは一線を画した作品へと仕上げるために、
あえて、パズルとは別のところに目的を置き換えたのだともいえる。



そこで、この作品のテーマが「家族」なのだ。パズルに打ち込むマリアとそれによって変化していく
マリアと家族、夫と息子、娘の関係を表す食事のシーンが平行して描かれていく。
また、パズルのパートナーとなる富豪はマリアに気があり、それによって、夫婦関係はもつれる。
パズルによって明らかになる家族の分裂とそして、その家族関係の修復が描かれている。
冒頭の鳥肌が立つほど秀逸な誕生日シークエンスから、家族の形骸化が提示されるのは見事だ。
望遠レンズのクロースアップだけでほぼ構成されていることも、この作品がただのスポコンものではなく、
人間へと関心が向けられていることも感じさせる。

ただ、もう少しパズルに関して、観客が興味を示すことができるようなシーンや伏線があれば、
中盤、たるんでいたストーリーの原動力となり、見やすくなったのではないかと思う。
主演のMaria Onettoの見事な演技、軽快な会話によって、会場には終始、笑いが耐えなかったが、
スポコンものとしてのカタルシスは肩透かしに終わり、家族のドラマとしてはコメディ色が強すぎたせいか、
見終わった後に中途半端な印象だけが残ったのは残念だ。

〈70点〉


The Hunter

2010-03-25 11:44:07 | 映画(数字・アルファベット)
2010年・ドイツ/イラン・Shekarchi
監督: Rafi Pitts
(IMDb:6.3 Metacritic:× Rotten:×)



ベルリン映画祭にて鑑賞。
監督のRafi Pittsは前作「It's Winter」でもコンペティションに選ばれた。
今、ベルリンから最も愛される新進監督の一人である。

この作品はどう評価すれば良いのか、判断に困るようなところがある。
一言で表すならば、映画祭映画であり、映画祭以外での上映などありえないことのように思える。

映画祭好みの“スタイル”の映画である。
“物語”を丁寧に伝えようとすることが放棄されているのはもちろんのこと、
アート系の映画に見られる“画面”での遊びもほとんど見られない。
ただ、いかに少ない描写で、いかに物語を伝えることができるのか。
そして、既存の映画文法を破壊し、新たな映画の構成方法を目の肥えた観客に見せ付けるか。
という非常にマニアックな、映画を見すぎた人にしか分からない姿勢のため、非常にわかりにくかったし、
結局、何がしたいんだの一言で、済まされてしまいそうでもある。
映画祭だからこそ受け入れられ、成り立つ作品のように思った。

しっかりと見ていたはずなのだが、なかなかストーリーの細部を理解できず、
上映後にカタログを読んで、ようやく完全に理解した。
簡単なストーリーなので、普通の映画どおりに作られていたら、容易に理解できただろう。
ある意味で、このスタイルでなければ、ストーリーは単純すぎただろうし、
逆に、このスタイルを提示するために、ストーリーが簡単なものになっているともいえる。



主人公アリは、監督自身が演じている、前科はあるが、家族と平穏に暮らしている。
ある日、アリが仕事から帰ると、妻のサラと娘のサバがいない。
警察に行くと妻のサラがデモに巻き込まれて死んでしまったことがわかる。
アリは娘の生存を願うが、結局、娘も遺体となって発見される。
彼は怒りのあまりパトカーに乗った警官二人を射殺してしまう。

ここまでが前半で、静の描写が徹底されているパートだ。
物語に即して考えるならば、描写するべき描写をあえてせず、
物語を進める上では描写する必要のない描写を長廻しする。
そのため、上記の物語はわかりにくく、物語の軸となる妻と娘がなぜ死んだのかがわからない。
そのため、アリが警官殺しをしてしまう動機もわかりにくい。
カタログによると妻と娘は警官の誤射のため亡くなった、とあるが、そのような説明がなされていた記憶は全くない。
一緒に見ていた友人もわからなかったと言っていたので、見逃したわけではないと思う。



警官の射殺からは先程とは打って変わって、動の演出が見られるようになってくる。
突然のカーアクションには驚かされた。
そして、アリと追ってきた二人の警官が森で迷い、雨が降りしきる森の中を彷徨うパートになる。
ここに来て、ようやくこの作品の言わんとしていることがかすかに見えてくる。
イランにおける体制の批判である。

警官の一人が偉そうなもう一人の警官を殺そうと企む。
だが、アリが脱出のため、その偉そうな警官の制服を奪い、着ていたために、
制服で判断され、警官によって“誤射”されてしまう。

このラストの展開はあまりにも遠回しでわかりにくいが、考えれば考えるほど、
皮肉で、見事な体制批判のように思えてくる。

〈70点〉


On The Path

2010-03-25 11:43:47 | 映画(数字・アルファベット)
2010年・ボスニア・ヘルツゴビナ・オーストリア・ドイツ・クロアチア・Na putu
監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
(IMDb:7.5 Metacritic:× Rotten:×)



ベルリン映画祭にて鑑賞。
監督は前作「サラエボの花」で、同じベルリン映画祭の金熊賞を受賞したヤスミラ・ジュバニッチ。
前作では自身の出身国であるボスニア・ヘルツェゴビナにおける「戦争」と「家族」についてを描いていた。
本作では前回紹介した「Shahada」と同じく、「宗教」と「家族」について、
ボスニア・ヘルツェゴビナの今を描いている。
この監督、ベルリン映画祭の傾向と対策はバッチリのようだ。

劇場公開されるかわからないが、以下、ネタバレしまくってます。
「Shahada」よりは遥かに公開の可能性が高いので、
公開まで何年でも待ちます!という方はご注意を。



「Shahada」と同じく、この作品もイスラム教についての物語だ。

CAのルナと空港の管制塔で働くアマールは恋人同士で、結婚も視野に入れ、同棲している。
ある日、アマールは仕事をクビになってしまう、同時期にイスラム教徒の友人に仕事を頼まれたアマールは、
ルナの反対にもかかわらず、厳格なイスラム教徒たちが集団で暮らすコミュニティへ出稼ぎに行くことになる。

しばらくして、ルナはアマールの事を心配に思い、そのコミュニティを訪れる。
すると、そこにはイスラム教にすっかりと感化され、まるで別人のようになったアマールがいた。
家に帰ってきてからも、イスラムの厳格な教えを守り続け、モスクへと通うアマール。

そして、ルナが妊娠していることが判明する。
イスラム教では婚前の性行為が禁じられているため、アマールはルナに子どもをおろすように命じる。
さて、ルナは「宗教」をとるのか、それとも新しく生まれる「家族」をとるのか、決断を迫られる。



あまりにも主題が「Shahada」と似ていたことに驚かされた。
それだけ、宗教問題は世界的に重要なファクターなのだろう。
やはり、この手のテーマは日本人にはわかりにくいのが、難点であるが、
イスラム教にのめり込んで行くアマールと現代的に生きようとするルナとの対立を
軸に描いているので、比較的見やすかった。

さらに驚かされたのが、似た主題を持つ「Shahada」と「On The Path」の描く結末が全くの正反対であることだ。
それぞれ、マリアムとルナはイスラムの教えに反し、未婚の男性の子どもを妊娠してしまう。
「Shahada」でのマリアムは妊娠した子どもを中絶し、最終的にはイスラム教へと入信していく。
一方の「On The Path」でのルナは全く逆の行動をとる。
つまり、イスラムへと進んだアマールを見捨て、妊娠した子どもを一人で育てていくことを決断する。

両者共に決断をする場所がモスクであり、その結果が異なることが面白い。
また、キリスト教徒中心のドイツで作られた作品がイスラム教への歩み寄りを描くのに対して、
イスラム教中心のボスニア・ヘルツェゴビナで作られた作品がイスラムからの脱却を描いているというのも興味深い。



また、これは「On The Path」のヤスミラ・ジュバニッチ監督が、女性であることも大きいと思う。
アマールのような男性は弱い存在であるからこそ、宗教に依存してしまい、
一方のルナは母であると言う強さのために宗教などなくても生きていける。
作品内でも多く描写され、ルナがそれに対して反発するように、女性軽視が一部に見られるイスラム教から脱却し、
自立して生きていく強い女性を描こうという姿勢がこの作品からは強く感じられるのだ。

〈70点〉


Shahada

2010-03-22 18:00:30 | 映画(数字・アルファベット)
2009年・ドイツ・Shahada
監督:Burhan Qurbani
(IMDb:6.0 Metacritic:× Rotten:×)

ベルリン映画祭にて鑑賞。
コンペティション部門に出品され、ドイツ・アートハウスシネマ組合賞を受賞した。
監督は新人のBurhan Qurbaniという人。
おそらく日本では公開されない。



今年のベルリン映画祭のテーマはずばり「家族」そして「宗教」であったように思う。
また、ベルリン映画祭といえば、新人発掘に力を入れていることでも有名だ。
それらの全ての要素を兼ね備えた作品がこの「Shahanda」だと言える。
逆に言えば、ベルリン映画祭、しかも、2010年でないと、
コンペティション部門に入る事はできなかった作品なのだろう。



「Shahada」とはイスラム教における「信仰の告白」のことであり、
つまり、今日から私はイスラム教だけを信仰していきますと宣言することである。

主人公はベルリンに住むマリアム、サミール、イスマイルという3人の若者。
彼らはイスラム教徒の家に生まれながら、決して敬虔な信者とはいえない。
まさに今の日本における仏教のような形だけの信者なのだ。

マリアムはイスラムの導師でもある厳しい父に反発し、酒を飲み、ジーパンを履き、
夜遊びにふけている。そんなマリアムの妊娠が判明し、彼女は中絶と言う決断を迫られる。

サミールは友人であるダニエルに友人以上の感情を抱く。
もちろん、イスラム教では同性愛は硬く禁じられている。

警官のイスマイルは自分が銃の暴発で、怪我を負わせた女性と再会し、
家族がいるにもかかわらず、関係を持ってしまう。

3人の物語が交錯しながら、彼らが信仰をとるか、自分らしさをとるか、の決断を迫られるというのが大筋だ。
日本人から見れば、イスラム教への目覚めの話であるようにしか見えないが。



この作品の持つテーマははっきり言って日本人には非常にわかりにくいのだが、
宗教の問題、特にイスラム教、は世界中で巻き起こっているので、今、作られたことの意義は大きいのだろう。
そして、宗教について考えたことなどなかったので、良い機会になった。

しかし、作品が持つテーマの割には全体的に軽すぎるような気がした。
物語も三者三様とはいかず、三人とも同じような同じような話だ。
同じような話でもあるし、それぞれの構成の仕方も非常に似ていて、3つのエピソードが
上手く絡まるわけでもないので、それぞれの起承転結があまりにも見え透いていた。

映像もアップやバスト・ショットぐらいのテレビ的なもので、
フルからロングの映画的なショットは皆無だったように思う。
マリアム、サミール、イスマイルを演じた俳優たちの演技が良かっただけに、
悲劇的なシーンでのワン・パターンな音楽を大音量で流す演出はやめて欲しかった。

〈65点〉


PASSION

2010-03-07 23:51:11 | 映画(数字・アルファベット)
2008年・日本・PASSION
監督:濱口竜介



自分も監督をしたりしている割には自主制作映画を見るのはあまり好きではない。
好きではないというか、苦手に近いのかもしれないし、
自分のことが見透かされているようで恥ずかしいというのも大きいのかもしれない。

だから、自主制作映画とか学生映画というものをあまり見たことがない上、
見始めたのもやっと最近になってから、それも苦しみながら見ているので、
あまり参考にはならないかもしれないが、この「PASSION」は今まで見てきた自主映画の最高傑作だと断言することができる。
今までは去年「RISE UP」が公開された中島良監督の「俺たちの世界」が一番だと思っていたが、
はるかにそれを凌駕していた。

監督は濱口竜介監督。
東京芸大の映像研究科の卒業生であり、黒沢清監督の教え子らしい。
その前には東京大学の文学部も卒業している。
申し訳ないことに全く知らなかったのだが、今年の1月に行われた
『未来の巨匠たち』という特集上映にも選ばれるほど、注目されているようだ。
この作品は濱口監督が東京芸大の修了作品として作り上げた。



結婚間近の果歩と智也を祝う席上、智也の過去の浮気が発覚し……。
男女5人が揺れ動く一夜を描いた群像劇。

ストーリーに難しさは皆無で、基本的に男女間の一夜のいざこざを描いているだけである。

全く期待せずに見たこともあってか、その面白さ、完成度に圧倒された。
序盤から、一見、地味ながらも、只者ではないオーラが感じられる。
その予想は見事に、タイトルが出るタイミングから確信へと変わり、
男たちが夜道を走り回る時の、車に据えられたカメラによる移動撮影によって、
観客は思わず、この作品を凝視するために、姿勢を正してしまうだろう。

そして、唐突に始まる教室での「暴力」とは何かという異常なまでに長い議論は
まるで何か取り付かれたかのような河井青葉の演技の素晴らしさもあって、
ともすれば、安っぽくなりがちなシーンを見事に鑑賞に堪えうる、
むしろ見るものに感銘を与えられるレベルにまで、持ち上げていることに、感動すら覚えた。
それは作品の中盤のこれまた異常なまでに長い「本音ゲーム」でも同じである。
俳優たちが本当に生き生きとしている。



さらにはこれらのシーンに見られる過剰なまでのセリフの応酬と激しいカット割とは
実に対照的な長回しもこの作品は見ることができる。

特に見るべきは終盤の港で散歩しながら語り合う10分ほどの長回しだ。
これは映画史に残るべき1ショットだと言っても過言ではない。
まさに奇跡の瞬間を目の当たりにしたのだ。
本当に感動した。

監督の「PASSION」が全てに行き届いた奇跡のような作品だ。
このような作品こそ全国の劇場で大規模に公開されるべきだろう。
日本にアメリカのような質さえ高ければ、メジャーが買い取り、大々的に公開するシステムがないのは非常に残念だ。

濱口監督の新作は「永遠に君を愛す」で、大阪では3月に「シネ・ドライブ2010」で上映の予定。
主演が「PASSION」と同じ河井青葉であることも大きな魅力で、必ず見に行きたい。

〈80点〉

Jew Suss - Rise and Fall

2010-02-28 22:03:40 | 映画(数字・アルファベット)
2010年・オーストリア、ドイツ・Jud Süß - Film ohne Gewissen
監督:オスカー・レーラー
(IMDb:4.0 Metacritic:× Rotten:×)

第60回ベルリン国際映画祭にて鑑賞。



「壁のあと」「アグネスと彼の兄弟」「素粒子」という作品(いずれも未見)の高評価により、
今、ドイツで最も注目を集めている映画監督の一人らしいオスカー・レーラーの新作。
本作の前評判と注目度は高く、前日にはテレビで特集が組まれているほどだったし、
かく言う僕もその番組を見て、見に行こうと決めた一人である。
当日の館内も僕が見たコンペ作品の中で一番の混雑だった。

しかし、残念ながら、「Jew Suss」はコンペティション部門の中で、最低の評価を得てしまった。
翌日の新聞の星取表でも見事、最下段にタイトルが刻まれていた。

確かに欠点は多いが、僕は嫌いではない。
少なくともブーイングを浴びせるほどの酷さではなかったと思う。
かといって、拍手をするほどでもなく、良い要素と悪い要素が半々ぐらいで混在している作品だ。



ストーリーは、ナチスのプロパガンダ映画「Jud Süß」(ユダヤ人ズュース)に出演せざるをえなくなった主演俳優の苦悩を描く。
1940年のドイツ。フェルディナンド・マリアンは、ファイト・ハーマン監督の
プロパガンダ映画「Jud Sus」(ユダヤ人ジュース)の主役に抜擢される。
彼の栄光は、この映画がベネチア国際映画祭でプレミア上映されるまで続くが、
その頃になって、彼もようやくこの映画の持っている社会的な意味や危険性を認識し始める。
彼の友人のユダヤ人たちは移民を始め、彼も、家族をユダヤ人の友人の別荘に隠すが、
家族はメイドの密告で見つかってしまう。彼は、自棄になって酒に溺れる。
しかし、その行為がまた非難の対象となり、ゲッペルスの不興を買って、妻が国外追放になってしまう。
チェコ人の愛人ブラスタももう彼を守ることはできない……。

というもの、成功していれば間違いなく大傑作になったであろう魅力的なプロットである。



この作品の評価するべきところはまず、その映像のクラシック映画のような様式的な美しさにあるだろう。
セット撮影を基調とした(実際、ロケ撮影が出てくるのは終幕15分前ほどになってからである)
モノクロ映画のような抑えた色調の映像は時代の雰囲気をよく表しており、見事だ。

また、主人公マリアン役のトビアス・モレッティとゲッペルスを演じたモーリッツ・ブライプトロイの演技が
素晴らしく、序盤から中盤にかけては、ほとんどこの二人の会話だけで構成されているので、
その演技合戦に圧倒される。

非常に舞台的な要素が強い作品だ。



しかし、この作品の欠点は上記のストーリーがほとんど語られていないという点にある。
観客が期待するマリアンのプロパガンダ映画「Jud Sus」に出演したことによって、兵士や国民の
戦意を向上させ、多くのユダヤ人犠牲者を出していることへの苦悩は劇中、ほとんど描かれない。
代わりに、マリアンが「Jud Sus」に出演するかどうかで悩み、ゲッペルスに説得されるシーンが延々と続く。
はっきり言って、“逃げ”だと受け取られても仕方がない。
また、マリアンの恋愛事情もどうでもいい割に、比較的丁寧に描かれており、
2度も登場するベッドシーンはあまりの演出過多ぶりに失笑が漏れるほどであった。

マリアンの苦悩はカメラがセット撮影から始めて開放されたドイツ軍キャンプでの
「Jud Sus」の上映会のシーンで、ほとんど初めてしっかりと描かれ、その約15分後、
映画はマリアンの突然の自殺を持って、終幕する。
マリアンの葛藤がほとんど見出せないために、マリアンの自殺があまりにも突然に感じられ、唖然とさせられる。
もっと早い段階から、マリアンの映画出演後の葛藤を丁寧に描写していれば、
登場人物の感情に観客が寄り添うことのできる傑作にもなりえただけに、非常にもったいない。
監督がマリアンの描き方を見誤ったとしか言いようがない。

〈65点〉

Love Letter

2009-10-21 21:15:31 | 映画(数字・アルファベット)
1995・日本・日本ヘラルド映画
監督:岩井俊二



岩井俊二という名前は日本映画にはかかせない。
監督作品の減った最近でも同じだ。
「虹の女神」「ハルフウェイ」などのプロデュース作品から
次々と岩井チルドレンと呼ぶべき監督が輩出されている。
「天使の恋」で監督デビューする寒竹ゆりも岩井俊二の助監督であり、この中に含まれるだろう。
学生映画においてもその影響力はいまだ大きい。
西川美和や横浜聡子ら女性の名が大きく叫ばれようとも多くの
映画を志す大学生(多くは女性)の憧れは岩井俊二であり、篠田昇の撮影なのだ。

にもかかわらず、岩井俊二の作品をほとんど見たことがない。
見たつもりになっていたが、よく考えてみるとほとんど見ていない。
慌てて大学の近くのレンタルビデオ店に行くと、驚くべきことに
ほとんどの作品が借りられている。
残っていた1本。それが「Love Letter」だった。

正直言ってそれほどの作品ではない気がした。
一種の流行みたいな映画でその新しさゆえに評価されたのであり、
今、公開されたとしてもそれほど絶賛されないように思う。
調べてみると、恐ろしいほどの賞を獲得しており、韓国でも大ヒットを収めたらしい。
知らない状態で見て良かった。
知っていればハードルの高さゆえに映画の出来に満足できなかったかもしれない。

もちろん映像面で不満はない。
篠田昇の撮影はソフト・フォーカスが美しく、
固定されたカメラと手持ちのカメラ、
ロングとクロースアップなどのリズムが心地よい。
編集も少し奇をてらいすぎた感はあるが、撮影を邪魔しない程度には抑えられており、良い。

俳優も中山美穂が一人二役(見事に演じ分けているとはいえないが)を美しく演じている。
ラストの山に向かって叫ぶシーンでは限界が見えたが。
豊川悦司の大阪弁は大阪人から見ると論外。
中でも主人公の少女時代のシーンで登場する酒井美紀、柏原崇、鈴木蘭々が素晴らしかった。

ただ、総合して良い映画であるとは思うが、
ロケ地を聖地と呼び、その聖地を旅することを聖地巡礼と呼ぶほどの
熱狂的なファンが生まれているほどに傑作かと言われれば疑問だ。

〈70点〉