ゴダールよりもデ・パルマが好き(別館)

ホンも書ける映画監督を目指す大学生monteによる映画批評。

バッド・ルーテナント

2010-03-20 12:52:08 | 映画(は行)
2009年・アメリカ・The Bad Lieutenant: Port of Call New Orleans
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
(IMDb:7.1 Metacritic:69 Rotten:86)
公式HP

劇場で見ている間はそうでもなかったのだが、見終わってしばらく経って、
妙にこの映画のことが気になってきた。
もう一度、見たら、評価がものすごく上がりそうな予感もするので、
そのことも踏まえて、感想を書いていきたい。



ヴェルナー・ヘルツォーク監督。名前は聞いたことあったが、作品を見るのは正直に言って、これが初めてだ。
ドイツ映画界の巨匠らしく、前回のベルリン映画祭で、審査委員長を務めた。
生で見たが、なかなかの存在感だった。
ざっと調べただけで、強烈そうなその作品群に圧倒される。



「バッド・ルーテナント」は非常に不思議な映画だった。
違和感を常に感じるといえば、もっと正確かもしれない。
ヨーロッパの感覚、どういうものなのかを言葉で表現するのは難しいが、
見ていて感じるものはアメリカ映画のそれではなかった。

例を挙げるなら、それは事件の解決のカタルシスがあっさりと処理されていることである。
ラグビーの賭けやトラブルを起こした客との関係など事件解決の伏線の回収も極めて事務的にそして、奇跡的に行われる。
しかも、事務的であることを自覚して、わざとコメディ仕立てにしているように見えるぐらいだ。



事件そのものよりもこの作品の見るべきところ、見せようとしているところは、俳優の演技だろう。
そして、それはニコラス・ケイジ演じるテレンス刑事の悪徳刑事ぶりだ。

ベルトに挟んで銃を見せびらかしている序盤から只者ではない予感はするが、
しだいにそれは狂気というべき域にまで達していく。
とにかくドラッグ、明けてもくれてもドラッグ、ドラッグが登場しないシーンを見つけるほうが難しい。
そして、ドラッグのせいで、行くところ行くところで、問題を起こし始める。
町に溢れるギャングや娼婦、麻薬ディーラーいった社会の敵とそれに立ち向かうべき存在で
あるはずの刑事が結びついていく。

しかし、ただ狂っていくだけでは、見る方も呆れてしまって、どうでも良くなりそうだが、
その狂いから生まれるおかしみとのバランスが非常に上手くとられているし、
事実、テレンス本人はいたってまじめなのに、そのせいで思わず笑ってしまうようなシーンがいくつもある。
ニコラス・ケイジも今までで最高と言っても差し支えない演技でテレンスの人間味を見せている。
テレンスの恋人、娼婦のフランキーを演じるエヴァ・メンデスもよく役にはまっていて、見事なキャスティングだ。



少し疑問符を投げかけたいのが、ドラッグによる幻覚の描写である。
ワニ、イグアナを接写したショットははっきり言って、安っぽい。
その安っぽさも込みで、あの演出なのかもしれないが、そのほかのショットに比べると、
突然、素人くさくなったので、驚いた。
殺したはずのギャングの魂が踊っている描写は大好きだったので、このような幻覚描写がもう少しあれば、
テレンスの狂いぶりもより面白くなったのではないかとは思った。



そして、ラスト・シークエンス。狂った刑事を更生した犯罪者が諭すという作劇的なシーンでの、
立場の逆転がこの映画の不思議な違和感を強調すると同時に、
この映画のスタイル、世の中の不条理を、不条理のままに描く姿勢を如実に表しているように感じた。

〈75点〉