MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2384 自家用車利用の外部不経済

2023年03月22日 | 社会・経済

 若者の「車離れ」が進んでいると言われて久しいものがあります。確かに軽自動車でさえ200万円もするこのご時世、自動車税・重量税などの税金に、自賠性や任意保険の保険料、車検や点検の費用に加え、東京23区では3~5万円もするような駐車場代を考えれば、(少なくとも都市部では)例え便利だからといって若者が簡単にマイカーを維持していくことは叶いません。

 おまけに昨今では、車は環境に悪い乗り物の代名詞。電車や地下鉄も便利になったし、ようやく買った国産車を粋がって乗り回しても、女の子にモテないとしたら無理する意味がないというものです。

 しかし、一旦話を地方に振れば、その状況は一変します。例え1時間に一遍しかディーゼル車両がやって来ない無人駅だったとしても、自転車エリアに鉄道が通っていればまだましな方。ローカル線が次々と廃線となる中で、「自家用車はひとり1台」が当たり前の地域も増えているようです。

 かくして車がなくては生活が成り立たなくなった地方都市では、ロードサイドのあちこちに大型の量販店やドラッグストア、コンビニ、全国チェーンの飲食店などが並ぶおなじみの光景が続くようになり、個性のない街並みが築かれているのが現実です。

 こうした状況に対し、関西大学教授の宇都宮浄人氏は日本経済新聞に連載中のコラム『やさしい経済学』に、「自家用車の利便性は誰しも否定できません。公共交通が不便であれば、自由に移動できる自家用車を利用することは、自然な行動といえるでしょう」…と綴っています。(「暮らしを支える交通政策(4) 自家用車依存の「外部不経済」2023.1.20)

 しかし、「まちづくり」という観点から言えば、公共交通の衰退を食い止めないまま自家用車依存を加速させる交通政策には大きな問題があるというのが(地域政策の専門家としての)氏の見解です。

 第一には「環境の悪化」が挙げられる。運輸部門は日本の二酸化炭素排出量の18%を占め、その46%は自家用車が排出している(2020年度)。電気自動車への期待もあるが、置き換えには時間やコストがかかるうえ、単なる置き換えでは電力消費の増加も想定されると氏は言います。

 第二の問題は「交通事故の増加」というものです。交通事故死者数は年々減少しているものの、それでも2022年の死者数は2610人に及んでいる。日本の場合、死者のうち歩行者の割合が3分の1を超え、欧米に比べて圧倒的に高いことが特徴のひとつだということです。

 問題の三つめは「空間利用のロス」にあると氏はしています。例えばひとりで自家用車を運転し通勤すると、公共交通の何十倍もの都市空間が必要になる。今後自動運転が普及したとしてもこの状況は変わらず、(限られた)道路上には渋滞が発生し、なおかつ市街地では駐車場も不足するため、さらなる道路と駐車場が必要になるという悪循環が生じるということです。

 そして第四に、そうした(非効率な)空間利用が、都市のスプロール化と財政の悪化を加速させることが挙げられると氏はしています。結果、道路から下水道、消防サービス、ごみ収集に至るまで、郊外化が進むと行政経費が増加するということです。

 さて、一般に個々人が自家用車に乗る際に、直接財布から出ていくガソリン代は計算しても、上記のような問題を(自身の「コスト」としては)意識しないと氏はここで指摘しています。

 これは、「市場の失敗」のケースのうち、「外部不経済」と呼ばれるもの。(簡単に言ってしまえば)企業活動などにより引き起こされる環境破壊や健康被害などを解決するための費用を、社会が負担している状態だということです。

 さらに言えば、自家用車を利用できない人が社会的に排除される状態が生まれていることも、公平性という観点で問題だと氏は話しています。

 移動手段次第で、個人の就業や教育の機会が限られてしまう。「買い物弱者」も生まれ、引きこもってしまえば心身の健康を害し、医療費や介護費の増加につながることもある。例えば健康という点では、よく言われる「100メートル先のコンビニに自家用車で行く」というライフスタイルも(医療などの社会的なコストが増えるという意味で)問題だということです。

 環境問題にとどまらず、(「SDGs」へのトライアルが支持されるなど)持続可能な社会の構築が世界的規模で求められている現在、自家用車への過度な依存をいかに変えていくかについて、具体的な施策が問われていると氏はしています。

 経済路と環境負荷のバランスを取り、最適化に必要なコストをどのように負担するかについて、冷静で科学的な議論とそれに基づいた効率的な政策が必要だと考える氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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