MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1927 ストリート系競技がオリンピックにもたらすもの

2021年08月06日 | スポーツ


 今回の東京オリンピックで初めて採用された新競技のスケートボード。日本の10代の若者が早くも三つの金メダルを獲得したことで、子供たちを中心にこのスポーツの人気が沸騰しているという報道がありました。

 行政などには体験会や教室の問い合わせが殺到する一方で、ボードや関連グッズを買い求める親や若い世代も急増しており、スポーツ業界、ファッション業界などでは新しいマーケット爆発的な拡大に期待が集まっているようです。

 東京都渋谷区の(スケートボードの「老舗」として知られる)「ムラサキスポーツ原宿明治通り店」には、「スケボーを始めたい」「久々に再開しようと思う」と来店する若者らが相次ぎ、ボードの売り上げも倍増したと報じられています。

 一方、日本国内では「スケボー禁止」をうたっている公園がほとんどで、もちろんストリートでの滑走も禁じられていることから、今後のトラブルの増加も懸念されているところです。

 練習場の普及を進めるNPO法人「日本スケートパーク協会」によると、国内では多くの公園で手すりや階段などの破損、騒音が発生し、安全面への配慮もあって禁止されているということ。このため人通りが多い道路上でスケボーを走らせる人もおり、迷惑行為とみられることが多いということです。

 全国の練習場は今年5月末現在で418か所あるということですが、こと「練習場所」という意味では、アメリカやオーストラリアなど海外とは比較にならないほど少ないのが実態と言えるでしょう。今後、競技人口が急速に増加した場合、環境整備や住民の理解が大きく進まなければ、事故や苦情などのトラブルの続出が懸念されるところです。

 こうした状況対し、既に日本におけるスケートボード競技の「聖地」と化している(オリンピックの競技会場の)「有明アーバンスポーツパーク」を有する東京都江東区の山崎孝明区長は、8月3日の記者会見で、同施設を恒久施設として残す方向で都と調整していることを明らかにしました。

 東京都は大会終了後、同パークの施設の一部を有明地区に移転し、都市型スポーツを楽しめる拠点とする構想を示していました。一方、今回の若者たちの活躍はさらにその計画を発展させ、湾岸エリア全体を(東京五輪大会のレガシーとして)こうした競技の『スポーツゾーン』に位置づける方向で動き始めているようです。

 確かに、アメリカ西海岸を発祥とするスケートボードのような都市型のスポーツが、一つの「若者文化」としてこれからの日本に根付いていく可能性はかなり高いような気がします。

 スケートボードのような初期投資があまり必要でない(いわゆる)「ストリート系」の競技は、他のスポーツに比べ(場所さえあれば)体験・参加のハードルが極めて低いのが特徴です。低所得の家庭の子供達でも手が届く手軽さがあり、若者らしいビジュアルなカッコ良さも追求できる。そこでスター性が認められれば、メディアもきっと放っておかないことでしょう。

 それにしても、中学生や高校生の(ある意味フツーの、どこにでもいそうな)子供たちが世界を舞台にやすやすとオリンピックのメダルを手にしていく姿は、これまでになかった新鮮な感覚を、テレビの前にいるコロナで自粛生活を続ける日本人に与えていることでしょう。

 この子たちは一体どういう日常生活を送っているのか、学校にはちゃんと通っているのかなど、(中には)こうしたちょっとおせっかいな思いが頭をよぎっている大人もいるに違いありません。

 思い思いのファッションに身を包み、口にする言葉やひとつひとつの仕草も含め、それぞれのやり方で自らが感じるクールさを表現する子供たち。競技の合間や表彰式ではしゃぐ彼らの(ある意味「子供らしい」)姿を見ていると、「オリンピック」というものの世代交代と、それに伴う意義の変化を改めて痛感せざるを得ません。

 球技や陸上競技ばかりでなく、格闘技や体操、馬術やフェンシングなど、歴史と伝統に培われた様々な競技が粛々と進む中、今回から新たに採用されたサーフィンやスポーツクライミング、そしてこのスケートボードなどは、オリンピックという(カビの生えかけた)存在に確実に新しい風をもたらしてくれているような気がします。

 子供の遊びを商売にしてしまう「あざとさ」もオリンピックの一つの姿であるとすれば、それを文化として世界中の様々な世代に紹介し、共感につなげていくのもオリンピックを続ける意味の一つといえるでしょう。

 「ストリート系」のスポーツは、ラップやタトゥーやだらしないファッションなどの、大人が顔をしかめるような(くだけた)文化と親和性が高いという指摘もあるようです。しかし、そういったセンスも含めて、彼らと大人の世界とを繋げるのもオリンピックの力と言えるかもしれません。

 願わくば、こうした(総合力としての)若者文化の多様性やフラットな感覚が多くの人に共有され、オリンピックとともに青空の下で健全に育ってほしいと願ってやまないところです。



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