MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2555 貧乏な国の朽ちるインフラ

2024年03月10日 | 社会・経済

 元旦の北陸地方を襲った能登半島地震の被害状況が明らかになるにつれ、橋梁やトンネル、上下水道など、高度経済成長期以降全国で整備されたインフラの老朽化が(改めて)問題視されるようになっています。

 今回被害の大きかった能登半島地域では、特に道路やダムなどの施設に大きな被害が生じたと伝えられています。全国的に老朽化が進むインフラは、適切な修繕や補修をしないと災害時のリスクがさらに高まっていくのは必然です。

 予算や人手が足りない市区町村では、将来的に維持管理が追い付かなくなる恐れが指摘されており、国土交通省の試算によれば、2048年度までの30年間で全国のインフラの維持管理や更新に最大で284兆円のコストがかかるということです。

 一方、国の令和6年度当初予算案によれば、国土の強靭化にかかる公共事業費は前年度比26億円増の6兆828億円とのこと。国民の生命財産に直接関係する問題だけに、優先順位を明確にした集中的な対応が求められるところです。

 いずれにしても、第二次大戦後の半世紀以上をかけて日本列島に整備されてきたインフラの全てを、(これから先も)ずっと維持していこうというのは所詮無理な話にも聞こえます。

 そんな折、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が1月22日の「週刊プレイボーイ」誌に『行政が崩壊しても日本社会を改革できない最大の原因』と題する一文を寄せていたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。

 1月1日に能登半島を襲った能登半島地震。人的被害と並んで大きな問題になっているのは、地震や土砂災害で寸断された道路や鉄道、上下水道など公共インフラの復旧だと、橘氏はこの論考に綴っています。

 能登半島は日本でも(特に)過疎化が進む地域。高齢化による自然減によって人口が急速に減少している中での被災であり、巨額の復興資金を投じて道路や橋、鉄道を元通りにしたとしても、復旧後には利用者がいなくなってしまうかもしれないというのが氏の懸念するところです。

 「弱者切り捨て」との誹りを受けるかもしれないが、そもそも自然災害がなくても地方のインフラは維持困難になっているという現実がある。実際、2023年末の国交省の調査では、政令指定都市を除く市区町村が管理する施設のうち、堤防・護岸などの85.9%、橋梁の60.8%、トンネルの47.4%が修繕されていないと氏は話しています。

 その理由は、必要な予算や職員を確保できないこと。総務省によれば、市町村の歳出で道路や橋などの整備に充てる土木費は2021年度に6兆5000億円程度で、ピーク時の1993年度から43%の減。高齢化で社会保障費が膨らみ、公共事業に回す余裕がなくなっているのが現実だということです。

 そして、インフラ整備にあたる技術系の職員もまた、不足したままの状況にあるとのこと。全国の市町村の25%にあたる437自治体で、1人も確保できていない状況が続いていると氏はしています。技術系職員が数十年にわたっていなければ、技術やノウハウは途絶えてしまう。ただでさえ少子高齢化で若年人口が極端に減少していく地方部が、(ひっそりと)「見捨てられた場所」になっていくというということです。

 「朽ちるインフラ」の背景にあるのは、いうまでもなく、超高齢化と人口減少に他ならない。政府は2100年に人口が半減し、6300万人程度になると見込むが、民間有識者でつくる「人口戦略会議」では、少子化対策などで人口を8000万人台で安定させなければ「完全に社会保障が破綻する」と予測している氏はしています。

 氏によれば、人口減の影響は突然現われるのではなく、徐々に地域社会を蝕んでいくものとのこと。(都会に暮らす人にはわかりにくいが)実際のところ、既に一部の町村では、医療や介護だけでなく日常のゴミ収集すら難しくなっているということです。

 これまで当たり前のものとして享受してきた行政サービスすら提供できない状況が、全国各地でますます顕在化してくる可能性が高い。少子化対策が成功して出生率が回復したとしても、いま生まれた子どもが労働市場に参入するのに20年ほどかかる状況を考えれば、打つ手は本当に限られているというのが氏の認識です。

 例えば、即効性のある対策は高い技能を持つ外国人の永住・定住に期待する声もある。しかし、国民の豊かさを示す1人あたりGDPでシンガポールや香港に大きく引き離され、韓国や台湾にも並ばれようとしている現在、「ビンボーな国」日本はもはや、優秀な外国人にとって魅力的な働き場所ではないと氏は話しています。

 この問題の最大の障害は、日本社会の中核にいる団塊の世代が、「自分が死ぬまで満額の年金を受給できさえすればそのあとのことはどうでもいい」と思っているところにあるというのが、この論考における氏の見解です。

  「逃げ切り世代」という言葉を最近しばしば耳にするようになりましたが、確かに「後のことは次の世代に任せた…」といった無責任さが、戦後の人口オーナスを存分に享受してきた昭和世代の特徴なのかもしれません。

 (結局のところ)これではどんな改革も不可能だろう。この現実を直視しないかぎり、すべての提言は空理空論になってしまうとこの一文を結ぶ橘氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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