MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2191 マミートラックから抜け出すには

2022年06月25日 | 社会・経済

 帝国データバンクが全国2万3,680社を対象に実施した『女性登用に対する企業の意識調査(2020年)』によると、2020年における「女性管理職(課長相当職以上)比率」は全国平均でわずかに7.8%だったとされています。

 政府は2003年に「2020年までに指導的地位の女性比率を30%にする」との目標を掲げましたが、17年の歳月を経ても、政府が目指した「30%」に達している企業は全体の1割に満たない7.5%。最も多かった回答は「女性管理職が0%(全員男性)」の46.9%、次いで「10%未満」の企業が30.3%だったということです。

 一方、政府資料で世界の企業における管理的立場にいる女性の割合を見ると、最も高いフィリピンで52.7%、次いでアメリカが40.7%、スウェーデンが38.6%などとなっており、日本がとびぬけて低いことがわかります。

 日本企業における女性の地位は、なぜこれほどまでに低いままなのか。その(制度的な)一因として指摘する声も多い「マミートラック」に関し、5月13日の日本経済新聞の投稿欄「私見卓見」に、ワークシフト研究所所長の国保祥子氏が「マミートラック脱出の意思を」と題する論考を寄せているので、ここで紹介しておきたいと思います。

 一般にマミートラックとは、出産を機に昇進ややりがいとは縁遠いキャリアコースに乗ってしまうこと。マミートラックの「トラック」は、短距離走賞などの陸上競技で走るコースを示す「トラック」から来ていて、(出産を機に)一度出世コースから外れてしまうと、昇進とはほど遠いキャリアを延々と走らされるという状況を指すということです。

 日本のマミートラックに関する調査はこれまで見当たらなかったが、今年の2月に21世紀職業財団が公表した「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」が、その先駆けとして興味深いと、国保氏はこの論考で紹介しています。

 本調査は、子どもを育てているミレニアル世代(26~40歳)の男性1912人と女性2194人を対象に実施したもの。調査の結果、対象女性全体の46.6%、総合職でも39%が、自身がマミートラックに乗っているという自覚があるとの結果が明らかになったとされています。

 確かに第1子出産後に復職した際、「しばらく」は時短制度を利用するなどしてギアを落とした働き方を選ぶ人は少なくない。そして、その「しばらく」がずっと続いてしまう現象が、まさに「時短トラップ(時短の罠)」だと氏は説明しています。

 第1子出産後の復帰の仕方が、女性のその後のキャリアに長く影響するという事実はもっと広く知られるべきである。気が付いて後からキャリアを修正しようとしても、時すでに遅く、簡単に差を縮められない場合が往々にして生まれがちだからだということです。

 ではどうしたら、この罠から抜け出すことができるのか。同調査では、マミートラックを「脱出」するきっかけとなった行動として、「必要なときには残業するようにした」を3割の人が挙げていると、国保氏はこの論考で指摘しています。

 次に、「時短をやめてフルタイムで働くようにした」や、「上司からの働きかけ」「上司に要望を伝えた」が続いている。上司からの働きかけも重要だが、(逆に気を遣って言い出せない上司も多いはずなので)まずは本人から「仕事をしたい」という意志を周囲に見せることが大事になるというのが、この問題に関する氏の見解です。

 毎日残業はしなくとも繁忙期には残業できる体制を整えてチームを支えたり、週1~2回は子どもの迎えを夫に任せてフルタイム勤務をしたりすることで、同僚からのサポートも得やすくなると氏は言います。職場の状況に合わせ、子ども絶対だった自身のペースを徐々にでも(意識して)仕事に合わせていく努力が必要だということでしょう。

 育児協業の制度は、出産を契機とした離職者を減らすための施策として有効だが、利用が増えた今は、女性がライフイベントを乗り越えながら組織の中で適切なキャリアを歩める環境づくりに課題が移っていると氏は説明しています。

 残業・転勤ができないことや育児への配慮などの理由から、育児と両立して働く女性に重要な任務を任そうとしない企業には改革を促す必要がある。そして女性の側にも、マミートラックに乗ってしまうと(肝心の)「意欲」を失いやすいこと、そうなればさらに「脱出」は簡単ではないことを知ってほしいというのが、この論考において国保氏が主張するところです。

 もとより、出産から学齢期に至る頃までの(子育て中の)従業員の就業環境への「配慮」は、企業が雇用を継続するにあたって「良かれ」と思ってやっていること。しかし、いつまでもそうした環境に夫婦して「どっぷり」浸ってしまえば、なかなかそこから抜け出しにくくなるのもよくわかります。

 もちろん、男性の立場で言えば、家事や子育てを女性に任せきりに(もしくは「偏って」分担)しているようでは、パートナーである女性のキャリアアップは望むすべもありません。そのためには、育休の取得をはじめとした男性の育児参加に加え、緊急時の保育園へのお迎えなどの柔軟な協力体制を築くこと。そしてなにより、女性のキャリアアップに対する理解が重要なカギを握っているのだろうなと、氏の論考を読んで私も改めて感じたところです。

 



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