MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2617 夫婦二馬力…共稼ぎの現実

2024年07月31日 | 社会・経済

 仕事を持つ子育て中のお母さんたちが、(特に女性が多い職場などで)同僚女性から「子持ち様」などと揶揄されている状況が、SNSなどにおいてクローズアップされているようです。

 「子持ち様」とは、職場における子育て女性への配慮によって(「割を食っている」と)不公平感・負担感を感じている同僚の不満からくるネットスラング。「子持ち様が『お子様が高熱』とか言ってまた急に仕事休んでる」とか、「子持ち様は優遇されて日勤帯で帰れていいですね」とか、「大変な仕事は、『うちは子供がいるんで無理です』で終了」とか…。

 「なんで私があんたの子どもの犠牲にならなくちゃいけないの」といった同僚の皆さんの不満は判りますが、本来、従業員の育児も前提に仕事の配分をするのは会社の責任のはず。夫婦共稼ぎの子育て世代の増加が指摘される中、職場任せの小手先の支援では摩擦が生じて当然でしょう。

 共稼ぎの子育てとは、かくもストレスフルなものなのか。厚生労働省の「国民生活基礎調査」における「児童のいる世帯における母の仕事の状況の年次推移」によれば、子育て中の母親の75.7%が「仕事あり」と回答しているとのこと。これをいわゆる「共働き率」とすれば、2004年では56.7%、2013年で63.1%、2023年で75.7%と年々増加傾向にあることが見て取れます。

 そしてその内訳(2023)を見ると、「仕事あり」と回答したお母さんの仕事内容は、「正規の職員・従業員」が29.6%、「非正規の職員・従業員」が37.3%、「その他」が8.9%であり、正規雇用の従業員として働いている母親は全体の3割に満たないというのが現実です。

 さて、育児休業の充実にしろ保育園の増設にしろ、昨今の子育て支援策で対象となっているのが原則「正規雇用同士の共働き夫婦」であることは否めません。しかしその一方で、そうした(ある意味少しは恵まれた)「子持ち様」の割合が全体の30%にも満たない状況では、同年代の未婚者も含めれば、政策の対象となっているのは全体の僅かに4分の1といったところでしょう。

 こうして、子育て世代の過半を占めている「正規雇用の夫+非正規やフリーランスの妻」の組み合わせが(ここ30年ほどの間)ほとんど手つかのまま放置されてきた現状に関連し、昨年(2024年)4月のYahoo newsに、コラムニストでマーケティングディレクターの荒川和久氏が「専業主婦夫婦が減っている分だけ婚姻数が減っているという事実」と題する論考を掲載していたので、参考までにその一部を小欄に残しておきたいと思います。

 共稼ぎ世帯が増加しているというデータが一般化している。実際、専業主婦夫婦は(統計上)全体の28%程度であり、その2倍以上が共稼ぎ夫婦ということになる。しかし、多くの人が考える「共稼ぎ」のイメージからすれば、この見方は決して正確とは言えないと荒川氏はこの論考で指摘しています。

 なぜなら、この共稼ぎの中には、週1回1時間でもパートで働いた場合も含まれているから。もちろん、パートも立派な労働であるが、基本的には家計の収入の助けとして補助的にやっているもので、それはフルタイムで就業している妻とは別物だと考えるべきだというのが氏の見解です。

 さらに、(過去のデータを精査すると)実は、妻がフルタイムで就業している世帯は1985年から2021年にかけての35年以上の間ほぼ3割で、実数割合ともに変化がない。もちろん、完全専業主婦の割合は減っているのだが、その減っている専業主婦の3割とほぼ同等だと氏は言います。

 それが意味するのは、(詰まるところ)この間に増えたのは妻パート就業夫婦だけだという話。昨今、女性の就業率が増えているというデータが話題に上るが、それはほぼパート就業者の増加によるものだというのが氏の指摘するところです。

 政府が(前述のように)正規雇用同士の子育て世帯を支援する背景には、そうした(夫婦ともにバリバリと仕事をしながら子育てをする)パワーカップルを応援したいという思いがあるのかもしれません。

 しかしその一方で、2015年国勢調査ベースで、0歳児をもつ母親の実に61%が専業主婦になっている(育休なども含む)現実から目を背けるわけにはいかない。恋愛から結婚するまでは、個人年収300万円同士の「二馬力で世帯600万円」のカップルは成立するが、実際は結婚後の妊娠出産子育てへの移行にあたって、夫の一馬力にならざるを得ない場合が多いということです。

 さらに言えば、誰もがバリバリと仕事を続けたい人ばかりではない。仕事より育児を優先したい人も勿論多いと荒川氏はこの論考に綴っています。最近では、「会社の仕事なんて誰がやってもいい仕事。うちの子にとって親は自分たちだけなのだから、子どもと過ごすかけがえのない時間を削ってまでやりたい仕事なんてない。」と言い切る人も増えてきているということです。

 こうして、望むと望まないとにかかわらず、多くの子育て夫婦の年収構造は、結果として妻側の経済力上方婚(妻の年収より夫の年収が高い状態)になっている。これは是非の問題ではなく、現実の話だと荒川氏はこの論考を結論付けています。

 (全く世知辛い話ではあるけれど)結局のところ、「一馬力でも二馬力でも、ある程度の年収が確保されなければ結婚できない」「一馬力になってもしばらくは子育てできるようでなくては子供は作れない」ということなのでしょう。

 政府を挙げて進められている少子化対策だげ、その根本にあるのは「金がないから結婚できない」問題なのだとこの論考を結ぶ荒川氏の指摘を、私も「さもありなん」と大変興味深く読んだところです。