はと@杭州便り

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中国の漢字教育

2012-06-25 17:54:25 | その他
中国の学校では、漢字をどのように教えているのだろう?

日本なら小学校に入学するとまずひらがな、カタカナから勉強を始めて、徐々に漢字も教えるようになるのだが、中国では小学校に入るとすぐ、日本人の感覚ではとにかくハンパでない数の漢字を教え、ひたすら暗記させるらしい。
(中国語にもピンインがあるじゃないかと言われるかもしれないが、残念ながらピンインはあくまで漢字の振り仮名で、ひらがなカタカナのように単独または漢字と混ぜて使うことができない)。

「ハンパでない数」というのはどの程度なのか、気になったので調べてみた。

中国の教育部の定める『義務教育語文課程標準(2011年版)』によると、漢字の学習は低学年、中学年、高学年の三段階に分けて学習のめやすが定められていて、

1~2年 読める漢字約1600字、書ける漢字約800字。 
3~4年 読める漢字累計約2500字(新出漢字約900字)、書ける漢字累計約1600字(新出漢字約800字)。
5~6年 読める漢字累計約3000字(新出漢字約500字)、書ける漢字累計約2500字(新出漢字約900字)。
となっている。

これを日本と比較するために日本の『小学校学習指導要領』の付録『学年別漢字配当表』から漢字学習量を計算すると、

1~2年 240字
3~4年 400字
5~6年 366字の計1006字 となっている。

日本の場合はすべて読んで書けることを前提としているし、中国語が基本的に一つの漢字に対して一つの読みしかないのに対し、日本の漢字は音読み・訓読みなど複数の読み方を覚えなければならないため単純比較はできないが、中国の小学生の漢字学習の負担は少なくとも日本の2倍以上はあると言えるのではないか。

しかも日本では低学年の負担が小さいのに対し、中国では逆に低学年の負担が最も大きく、書ける漢字は日本の約4倍、読める漢字に至っては日本の約6倍になっている。低学年の負担が大きいことについて中国でも批判的な学者もいるようだが、中国は漢字の国。
とにかく漢字を覚えないことには、数学や他の教科の教えられる内容もものすごく限られてしまうため、漢字学習を優先せざるを得ないのだと思う。

これが日本だったら低学年の間は漢字学習はひとまずゆっくりでも、とりあえずひらがな、カタカナをマスターすれば、他の教科もひらがな、カタカナを使って教えることができる。
さらに日本語の場合、「漢字かな混じり文」をうまく使うことによって、例えば同じ文章でも低学年から高学年まで、学習済みの漢字の量に応じて文章の難度を容易に調節できるので、子供達も無理なく段階的に漢字学習量を増やしていくことができる。そう考えるとひらがな、カタカナの存在は大きい。

ユキは中国で育って、話し言葉では中国語の方が日本語より上なのに、ひらがなを覚えたため日本の絵本はもう「読む」ことができる。3歳児でもこの「読む」感覚が味わえるということが、今後の読書や言語の学習にとってどれだけ有難く助けになる事かと思う。中国の子供たちも早い子では3歳からピンインや漢字を習い始めるが、ピンインはひらがなよりずっと覚えにくく、しかも漢字あってのピンインなのでピンインだけ覚えても中国語の絵本を「読む」感覚はなかなか味わえないと思う。

ちなみに、日本の識字率の高さや中国の文盲の多さについての話題でも、このひらがなカタカナの効用がよく取り上げられている。
日本では平安時代にひらがなカタカナが発明(?)され、鎌倉時代には漢字かな混じり文が普及し始め、室町時代には上流階層だけでなく一般の人々も多くが字を書けたと言う。一般の人々にとっての「字」とは漢字ではなくひらがなであったが、とりあえずひらがなさえマスターすれば最低限の知識を得ることができ、そこからステップアップして漢字を学習することも容易だった。
しかしひらがなカタカナを持たなかった中国では、一般の人々に漢字をマスターさせることはできず、新中国誕生当時の1950年代でも識字率は低く、文盲が多かったという。

話はそれたが中国の漢字教育について、興味深い文章を見つけたのでご紹介します。
(以下引用)

中国の学校教育では、小学校の授業の大半がこの漢字の暗記に費やされます。何せまず漢字を覚えてしまわなければ、上級の学校に進んでも教科書を読むことすらできないのですから。そしてこの漢字を暗記するという修行に早道はありません。5000年の昔から、単純な反復練習で“書いて覚えていく”という方法しかないのです。

これが幼い子供たちにどれだけ苦痛であるかは、同じ漢字圏と言われる日本の皆さんにも想像していただけるでしょう。

そのため中国人は子供に限らず大人でも、『人間の知能というのは、記憶力のことだ』と誤解している傾向が強いように思えます。確かに彼らは子供の頃からの訓練によって、高い記憶力をもっています。他人の電話番号やカードの番号など、一度見ただけですぐに覚えてしまう中国人がおおいことに、対中ビジネスなどであの国に関わっている人たちは驚いたことが多いのではないのでしょうか。

しかしその代わり中国人は、日本や欧米の国民のような“柔軟な発想”や“論理的な思考”が苦手です。これは何千年にも渡って続けられた漢字教育と、そこから生まれた文化観によるものではないか、と言ってしまったら言い過ぎになるのでしょうか。

ともかくそれくらい中国の子供たちは毎日、机に向かってその日の課題の文字を繰り返し繰り返し書いては覚えています。そしてやってくる漢字テストの日・・・・・・。
 
この結果はすぐに教室に張り出され、記憶力の悪い子は“低能児”として教師や同級生の嘲笑に耐えなければなりません。これが中国の小学生たちの普通の学校生活です。

このため中国では、小学校を卒業もしないうちに学校を離れていってしまう“離学児童”が深刻な問題になっています。もちろん貧困など他にも理由があるのですが、毎日繰り返される漢字の反復練習のために、すっかり学校に通うのが嫌になってしまうのですね。

中国ではエジソンのような天才的な発明家も、ピカソやモーツァルトのような素晴らしい芸術家も、野口英世やシュバイツアーのような献身的な医者も、そして西郷隆盛のような英雄も、子供の頃に暗記能力が弱かったら、ただの“低能児”の扱いを受けてしまいます。決して世に出ることはありません。

出典:『7.5ウイグル虐殺の真実』(イリハム・マハムティ著 宝島社 2010年)

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