走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

信頼と盲目

2020年01月30日 | 仕事

昨日の続き。

客観的に証明されるまで患者の言うことを信じるな、は診断治療において重要な事です。しかし客観的な証明ができない時が厄介なんです。

先日書いた薬物依存コンサルチームの医師からの助言でこの事についてひしひしと感じました。

薬物依存医療をしている時に尿検査をして、処方している薬を服薬しているか?違法薬を服用していないか?確かめなければなりません。最低でも年に10回は抜き打ちで確認を課せられています。麻薬依存の治療薬は麻薬なので、処方薬を他人に転売する可能性があるので、毎日薬局へ通い、薬剤師の前で服用をしなければなりません。これにより処方薬は悪用されていない事を証明します。

麻薬依存の治療は1日1回の服用ですが、この彼は長年の麻薬依存の上に慢性疼痛を併せ持った難しいケースです。一般的に慢性疼痛にメサドンを使う場合は1日3回の服用です。私は彼の処方を分三して処方しました。疼痛コントロールは上手くいき、違法の麻薬使用は少しだけ減りました。患者に1日3回も薬局へ通わせては、日常生活に影響が出るため1日1回は薬局で服用。残りの2回分を持ち帰りにしたのです。

依存医療医はこれが危険なプラクティスだと言います。
まず彼のメサドンは高容量。そして今も違法薬物を使用しているため不安定。そんな患者に持ち帰りのメサドンを出している、と。どうしたら、彼が持ち帰りの2回分を転売していないと確信できるのか?と医師は言う。

この彼を6年も診察している。いろいろあったが、ホームレスから抜け出し、ボランティア活動を始め、公共の場で薬物依存の生の経験談を語るほどになったし、薬物依存のコミティーメンバーにもなり、定例会議にだって出席する人になった。

処方麻薬を増量しても増量しても痛みが酷く、退薬症状も酷く、違法麻薬の使用も減らなかった彼を毎週診ていたから、分三にした時の変化は驚く程だった。あの過程を間近で見ていれば分三で服用していると私は確信していた。診察の度に人に分けていませんよね、と確認はしている(しかしこれは気休め。嘘をつき続ける人は大勢いる)。

しかし、医師に指摘されたように、転売していないとどう証明するの?と迫られれば、状況説明しかないのだ。「プライマリーだから専門医の僕たちより患者の事を知っているんだよね」とも言われた。そうなのだプライマリーだから、、、、患者を信じれる?いやいや情が入って客観的状況が判断できていない?

続く


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。