走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

薬物中毒 その5

2016年09月30日 | 仕事
一度出来てしまった痛みのパスウエイは、痛みの原因が取り除かれた後も痛みを感じる。
しかしこの作用機序は痛みの原因がある痛みの作用機序とは違うので、痛みのミットもあるようでない。これを専門用語を避けて簡単に説明するには非常に難しい。

1つだけ言えるのは、痛みの機序は機械的な痛みだけでなく心の状態も大きく反映していること。

例えば初恋や叶わぬ恋。胸がキュンとして食欲がなくなったり。病気なんじゃないかと思った人がいるはず。しかし心臓も胃も悪いところはないのだ。心の状態が身体症状として反映する良い例だ。

虐待やトラウマの経験の有無も心の状態に影響を与える。辛いことがあった時どう対処してきたかも影響を与える。無視して嫌なことが過ぎ去るのをじっと耐えるのか、解決しようと前向きになるのか、それともお酒やタバコで紛らわそうとするのか、反応はそれぞれだ。これらの行動をコーピングスキルと言う。子供から大人へ。人間は問題解決ができるように社会で生きていくサバイバルの技術を身につけていく。家庭崩壊や戦争や社会環境でそういうチャンスを失っても体は大人になっていく。依存になりやすい人はこのコーピングスキルが乏しい人が多い。

麻薬はもう出しませんよ、と言うと、こんなに痛がっているのがわからないのか?!と怒る人が殆ど。

貴方が嘘をついているとは一言も言っていません。痛みを体験しているのは貴方です。痛みがあると十分伝わってきます。しかしその痛みは痛みの機械的原因よりも心やコーピングスキルが多く影響しています。薬ばかりに解決を求めると依存になってしまうので、薬以外の治療も始めましょう、と持って行きます。

薬以外の治療はトラウマカウンセリング、薬物依存カウンセリング、コーピングスキルのワークショップ、そして慢性疼痛のワークショップなどなど、多々あります。つまり痛い事実だけを治療する事より全人的に過去と現在の情報を捉え、全人的なアプローチでケアを行っていくのです。ケミカルコーピングと言う言葉はレッテルを貼りそれに問題の解決を求めるものではありません。全人的アプローチでその人の痛みの作用機序を理解できるよう、しっかり問診をして何が必要なのか適切な治療を導くことのほうがずっと大切なのです。成功には医師一人よりは多種職が参加して様々な角度からアプローチすることが重要です。

薬物依存なんて対岸の火事と思っている方が殆どだと思います。しかし術後や怪我をした後に麻薬を離せなくなる人は以外と多いのです。違法薬によるオーバードースの報告は私が働いる地域で確実に増えています。しかし、それは全体の60%ぐらいに留まります。その他は処方薬によるもの。処方薬による依存は軽視出来る問題ではありません。

シリーズ終わり。



秋になると朝靄に包まれる我が家周辺。朝靄で蜘蛛の巣がはっきり綺麗に見えるのです。こんなにはっきりわかったら商売あがったりですね蜘蛛さん。

蜘蛛の巣ついでにこの写真は結構ショッキング。蜘蛛に違法薬物を投与するとどうなるか?






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