goo blog サービス終了のお知らせ 

ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

島根県造形教育研究会夏季研修会 鑑賞教育ワークショップ レポート①(2018,8,6開催)

2018-09-12 22:20:36 | 対話型鑑賞

鑑賞教育ワークショップ「アートカードで鑑賞しよう!」①
日時:2018.8.6(月)15:50~17:00 
場所:島根県立美術館 工作室
主催:島根県造形教育研究会   
共催:Art Communication in Shimane みるみるの会
講師:島根県立石見美術館 主任学芸員 廣田理紗
レポーター:房野伸枝

福先生の講演後に、アートカードを使った鑑賞授業のワークショップが開催されました。

使用したアートカードは2012年に島根県立石見美術館が作製した『しまね美術鑑賞学習セット じろじろみてね』の一部です。これは島根県立石見美術館と島根県立美術館の2館が所蔵する作品64点がカードになったものと、それを使った授業を展開しやすくするための授業案付きのワークシートがセットになっているものです。授業に直結するという授業者にとって大変ありがたいアートカードなのです。作製当時にも県内の小中学校に配布されましたが、昨年、この学習セットが本来グループワークを想定したものであることから、島根県造形教育研究会がアートカードを増刷し、島根県の全小中学校に必要数を再配布しました。その使い方を周知しようと昨年に引き続き企画されたのがこのワークショップです。

講師の廣田さんは、2012年にこのアートカードを作製する際に中心となって尽力された方です。当時、文部科学省教育課程調査官だった奧村高明先生の監修のもと作製されました。今回は廣田さんのワークショップ①の様子を紹介します。

この授業の「肝(きも)」の一つは、授業前の「目合わせ」にありました。それは、この時間は「言葉」に注意をはらい過ごしましょう、というものです。この授業の前にあった福のり子先生のご講演を踏まえたもので、福先生が唱える「対話を用いた美術鑑賞とは、美術作品を間においた言語活動である」という立場にたつものでした。確かに私たちは何かを考え、それを表現し、伝えるときにはいつも言葉を使います。言葉に注意深くなることでより豊かなコミュニケーションを目指そうとするこの「目合わせ」により、この授業を受講する先生方の意識が、同じ方向に向いたように思います。

アートカードゲーム「5つの言葉」
これは「親」となる人が選んだ1枚のカードをそれに関する5つの言葉(ヒント)で当てる、というゲームです。まず始めに廣田さんが5つの言葉を出して、4グループに分かれた小中学校の先生方にアートゲームを体験してもらいました。廣田さんは、最初はできるだけ作品を限定しないような言葉から始めました。ここで出される言葉はすべて、作品を構成する「要素」です。描かれた場所が「外である」、あるいは「屋外である(=作品のベースとなる空間を捉えた言葉)」、とか、「人がいる(=作品に描かれたモチーフを捉えた言葉)」、「寒い感じがする(=作品の雰囲気を捉えた言葉)」、などといった言葉が出されていきます。順番に出される5つの言葉を頼りに、先生方はカードを隅々まで見つめ、言葉(要素)に合致する作品を探します。活動中は、大人も子どもも夢中になって、それぞれの力を最大限に発揮しながらカードを探していきます。作品をよ~くみることは、作品を鑑賞する最も大切な基本的行為だと実感できます。2つ目、3つ目とヒントが進むにつれて、グループ内で相談しながら一つの作品に絞り込んでいきます。最後に「選んだのはこのカードです」と答え合わせをした時には参加者から「おお~」「やっぱり!」と声が上がり、皆さん達成感を得ておられるようでした。みんなで話し合った結果を共有することができた瞬間です。


ひと通りやってみた後、今度は先生方が「5つの言葉」を出す側を経験してみることになりました。廣田さんがその課題として選んだ作品は、植田正治の写真作品「パパとママとコドモたち」です。砂丘を舞台に植田正治(パパ)とその妻(ママ)、そしてコドモたち四人が並んでいる写真で、手に花を持つ少女や横向きの少年、子を肩車するパパと、パパの肩の上で嬉しそうに手を広げる子、正面を向いて立つ着物のママ、自転車に乗った少年、の6人が薄曇りの砂丘をバックに色々の様子であるのが楽しい一枚です。以下にその時に発表された回答事例二つを記します。また、それぞれに対する廣田さんからのアドバイスは(  )内に示しています。

<回答例1>
①丸があります。(①②③はどれも状態を表す言葉。人のことを言っているのだけれど物のことを言っているようにも聞こえる。)
②まっすぐです。(「何が」まっすぐなのか、並んでいるのか、カードを見ていない人に出すのだから、そこはもう少し具体的に伝えるとよい。)
③並んでいます。
④笑っています。(笑っている人もいます。というほうが、笑っていない人もいるという開いたヒントになり、2つの意味を表せる。)
⑤しましまを着ています。(着ている人もいます。と全員ではないことを伝えるとよい。)

<回答例2>
①横向きの人がいます。
②人が立っています。
③男も女もいます。
④帽子があります。
⑤家族です。(このように決定打となることを5つ目に持ってくるとよい。)
(5つ中4つが人の様子なので印象や色調などのヒントがあってもよい。)

参加者の感想に「同じものを見ていても人によって全然違うことを考えているんだな、ということがわかった。」「広い意味のことを考えるのが難しい。」というものがありました。廣田さんからは次のようなアドバイスがありました。
・こうした活動を続けることで自分と人との違いを意識し、認識の違いを共有することができる。
・言葉に注意を払うことで、力がつく。例えば、『笑っている人がいる。』のか、「笑っている人もいる。」のか。後者だと、笑っていない人の存在も暗示されている。助詞の使い方ひとつで考えられる範囲が変わってくる。
・ヒントを出す人はカードをみながら視覚で得た情報を前提に言葉を補完してしまうことが多い。聞く側は言葉だけを手がかりに想像するので、そこを考えて言葉を選ぶようにするとよい。
・ヒントを出すときには作品をみて分かる客観的な事実と、そこから自分が想像・解釈したこととを分けて考え、伝える必要がある。

どのアドバイスもなるほど!と感じ入るものばかりでした。さっそく2学期から授業に取り入れたいという先生の感想もありました。『しまね美術鑑賞学習セット じろじろみてね』のワークシートは、島根県造形教育研究会のHPからダウンロードすることができます。島根県立石見美術館へ問い合わせをすれば、貸し出しも可能だそうです。ぜひ授業での利用を通して、子どもたちの観察眼、言語能力を育み、「主体的・対話的で深い学び」を実践していきましょう!

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。