ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

安来市加納美術館での「みるみると見てみる?」レポート②をお届けします!

2018-05-06 13:48:12 | 対話型鑑賞
みるみるの会の金谷です。4月22日に安来市加納美術館にて、特別展「名品と出会う」の鑑賞ワークショップ「みるみると見てみる?」のナビゲーター(ナビ)をしました。その様子をレポートします。

日時:平成30年4月22日(日) 14:05~14:25
場所:安来市加納美術館
作品名:「上海」野口弥太郎 1941年(昭和16年) 公益社団法人糖業協会蔵
ナビゲーター:金谷直美  参加者:12名(内みるみる会員2名)

<はじめに>
 実は安来市加納美術館には、今回初めておじゃましました。「安来駅から車で30分かかりますよ」と聞いていたのですが、新緑が美しい山々を見ながらのドライブで美術館まであっという間でした。
 美術館に着くと、年代順に構成された展示室を2階から順にみていき、「あっこれは、あのポスターの作品だ!」「これ、かわいいなぁ」など、わくわくしながらナビをする作品を考えていたとき、「上海」の前でふと足が止まりました。風景を描いた作品なのですが、人々のにぎわいや街の活気が伝わってくるような感じがして心惹かれました。展示場所や作品の大きさも含めて、人数が少し多くてもみやすく、楽しく対話をすることができそうだな、そう思って「上海」のナビに挑戦しました。

<鑑賞会から>
 「海が白い」という発言から、対話がスタートしました。確かに、言われてみると画面向かって右側の船や波が描かれているところは白っぽいのです(私自身、発言を聴いて気が付きました)。その発言を受けて、「海などの水辺は、青や緑などで描かれるという既成概念に気が付いた」という発言がありました。確かに「みていた」けれども、言語化する(される)ことで「意識してみる」ことができるんだということを改めて感じました。
 その後も、船に国旗らしいものがあるところから、海外との交流が考えられたり、筆でさっと描いたような線なのだけど人というのがわかる等々、描かれているものやお互いの話から発見や想像が広がっていきました。作品が描かれたのが1941年(昭和16年)ということから、この作品の前にみた「朝」でも話題にあがった戦争の影響についても語られました。はじめは、まだ街に行きかう人も多く戦争の影響はあまりないという感じだったのですが、よくみると軍艦らしきものが描かれていたり、画面中ほどにある木が強い風に吹かれているようみえたり、その木のようなものが怪獣にもみえたりすることなどから、戦争という時代の強い風や得体のしれない不気味なものが、この街にも忍び寄ってきているのではという解釈もうまれました。この作品は、高い場所から街を俯瞰するような構図で描かれているのですが、もしかすると作者は時代の流れも俯瞰していたのかもしれないと対話を重ねる中で考えることができました。実際に目で見える世界(風景)と、目には見えないけれどもその時の時代の流れが、重なり合い溶け合ってこの「上海」という作品を作り上げているように思いました。

<ナビへのコメント① みるみるの会 春日さん>
 和やかな雰囲気で話しやすさを感じた。
 のっけから、絵画に関する専門的な発言だったが、次の人が話しやすいように、パラフレーズしていた。人の描き方についての発言で、生き生きとした躍動感のある街の様子が語られて、一気に作品の核心に迫っていったように思う。
 手前の大きな船の旗(細かいが)から国籍を発見し、時代と重ねて、自国に戦禍を逃れるために帰国しようとしているという読み取りができたのも秀逸だった。1作品目より、より詳細にみようとしていたように思う。
 戦争に差し掛かっている時期であることの手掛かりを作品の中に探そうとする意欲もあり、軍艦のような灰色の鉄?船を見つけることもできた。
 タイトルや描かれた年代、そういう情報も手掛かりにしながら作品を多角的にみようとする意識が鑑賞者の中に芽生えていたと思う。
 何度も子どもの鑑賞者に発言を促していたが、かなわなかった。しかし、それは次作の、発言につながる働きかけだったと思う。子どもたちも、「何か話そう。」という意識を持っていたと思う。
 最後に切り上げ時についてどうだったかについて助言を求めていたが、確かに終わるタイミングはあったと思う。そこで、切り上げるとしたら、どんな風に締めくくったのか?が、イメージできているか?切り上げなかったのは、時間がまだ来ていないという理由だけだったのか?もっと話したいと思う仕掛けができたか?そのあたりを整理してみるとよいのでは?

<ナビへのコメント② みるみるの会 房野さん>
 にぎやかな湾岸都市の風景画が、じっくり見るにつけ、だんだん戦争の足跡が忍び寄っているような、不穏な空気を感じる作品だと感じるようになったのは鑑賞していて刺激的でした。人物がはっきり描かれていない風景画を選択することは、鑑賞者が初心者の場合にはハードルが高いように感じますが、こんなにも深く、世界情勢や、その当時の空気感などを感じることができたことにワクワクしました。金谷さんの選択眼に感心です!金谷さんの笑顔や明るい語り口が鑑賞者の気持ちをほぐして、語りやすい雰囲気を醸していたと思います。金谷ナビの素敵なところだと思います。素朴な意見から、専門的な意見、歴史を踏まえた意見、突拍子もない意見、様々でバラエティー豊かな鑑賞会でした。それを交通整理するのは大変だったと思いますが、脱線しすぎることなく一気に短時間で深まったという印象でした。
 偶然ではありましたが、春日さんに続き、「上海」でリンクしていたのも当時の日本とアジアの関係も感じることができて、より鑑賞に役立ったのでは??今回は近代の絵画ばかりなので、どうしても戦争が影響しているということがいやおうなしに感じられ、それが私にとって発見となりました。時代から先入観を持って鑑賞したわけではなかったのですが、年代という情報と、作品中のモチーフや描かれ方からは、よく見れば見るほど、戦争の影を感じてしまいました。画家が生きた時代の空気は、作品に多かれ少なかれ影響するものなのですね。

<自身のふり返りから>
 「えっ!まだ、15分!?」この作品をみなさんと対話を重ねながら鑑賞する中で、自分の想像を超える作品の面白さや深さにたいへん驚きながらも、そろそろ終了かなと、時計をちらっと見たときのこころの声が、冒頭の言葉です。「今回は、3作品で90分だからナビ一人当たり30分!短すぎるんじゃないかい!?」と、瞬間的に慌てました。後で、冷静になって考えれば、短時間でも対話が充実し作品について語り合えたので、思い切ってそこで終わればよかったように思えます。ふり返ると、作品の部分部分をもう少し丁寧にみていけばよかったところもありました。しかし、いくつもの支流が集まりひとつの大きな流れができたところで、また支流をさかのぼろうとすることは、今回の対話の流れに合っていないように思いました。時間を意識しすぎたため、鑑賞の終わりの見極めがぶれてしまいました。
 今までの(他美術館等での)自分のナビを振り返ったとき、あっという間に30分が経っていたということはあったのですが、短時間で一気に話が深まったということはなかったように思います。だからこそ、慌ててしまったのですが、ほんとうに貴重な経験をさせていただきました。今更ですが、一緒に鑑賞してくださったみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。「みなさんが、積極的に作品をよくみて、考え、お互いの話を聴きながら、たくさん発言してくださったので、この作品について一緒に深く考えることができました。でも、実は始めてから、たった15分しか経っていないのです!対話の力、みなさんがもっておられる力って素晴らしいですね!」と、その場で言えるようにチャレンジを続け、経験値をあげていきたいです。
 すてきな作品と出会えたこと、そして美術館に来てくださったみなさんとの一期一会の出会いに感謝します。まさに「名品(人)と出会う」でした。ありがとうございました。


安来市加納美術館 特別展「名品と出会う」鑑賞ワークショップ「みるみると見てみる?」
日時:5月27日(日)13:30~15:00
すてきな作品が、あなたとの出会いを待っています。安来市加納美術館へ、会いにきてみませんか?
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