goo blog サービス終了のお知らせ 

ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

目の見えない白鳥さんと島根でアートを見る

2023-01-17 10:20:31 | 対話型鑑賞

「白鳥さんと島根でアートをみる」会レポート

2022/12/24~25

レポート:津室 和彦

1 はじめに

 イブとクリスマスの2日間,島根県立石見美術館のある島根県芸術文化センター「グラントワ」に,ピンクのシャツを着たスマートなサンタさんがやってきました。目の見えない美術鑑賞者,白鳥建二さんです。本レポートは,グラントワとみるみるの会で共同開催したクローズドの研修会についてのものです。

 白鳥建二さんは,本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した,川内有緒著「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」でも知られている,全盲の美術鑑賞者・写真家です。全国の美術館やアートイベントで,また在住の水戸地域の学校で,誰かと一緒に絵についての話をするというのが,白鳥さんの鑑賞スタイルです。

このたびの鑑賞会は,島根県立石見美術館で開催中の「没後100年記念 森鷗外とゆかりの画家たち」「追悼 森英恵」の2つの展示室で行いました。2日間で4つのグループに分かれ,白鳥さんも各グループの一人として一緒にみるというやり方をし,鑑賞と別室でのふり返り座談会をする,というものです。

 今回は個々のやりとりではなく,研修会全体を通しての様子をレポートします。

 

2 白鳥さん語録

 鑑賞会や座談会で語られた,白鳥さんならではの珠玉の言葉の数々を,まずは紹介します。

~ 鑑賞会のやりとりの中での言葉 ~

□「うん,うん。」「ふぅん・・」「へぇ!」(感嘆)

□「そりゃあ,○○れる。」「ワザですね。」「(みんなの)満足感高いね。」(同意)

□「~~そうだね。」(推量)

□「へえ,○○じゃないんだ?」(否定でよいか確認)

□「次元が違う?」「しかけ?」「それ,手法って言っていいのかな?」(パラフレーズ)

~ 座談会での鑑賞会のふり返りやQ&Aの中から ~

□例えば,虎の毛皮を触っても「(オレの)触ったイメージと,ビジュアルは絶対違うと思う。」(白鳥さんはほぼ視覚体験がないので,そもそもビジュアルでイメージすることはない)

□「雰囲気重視。ノリが大切。」

□「一緒のタイミングで笑うっていう,空気感を共有したい。」

□参加者の「沈黙を,敢えて作っています。」

□「沈黙も意味がある。」

□「オレがやりたい鑑賞会は,鑑賞教育でもなければ,トレーニングでもない。」

□「(美術館に行くのは,)作品をみるというよりも,学芸員さんなど楽しんでくれる人がいるから。馴染みの大将や友達がよくいる,“好きな居酒屋”に行くみたいなもん。」

□「オレも楽しむけど,みんなも楽しんでねって感じ。」

□「自由度をどれだけ拡げられるか。(鑑賞者の)枠をなくすのが自分の役どころ。」

 □「好き勝手に言ってくれる人たちとみるのは,好き。嬉しい。」

 □「(鑑賞者の発言の)気になったワードを覚えておいて,後からつなぐ。言葉のマッピングみたいなことをしている。」

 

3 白鳥さんと鑑賞すると楽しいのは,ナゼか?

   本にまとめた川内さんをはじめ,白鳥さんと鑑賞した人が異口同音に言うのが,「楽しい!」ということです。今回グラントワでの参加者も,全員実感しているところではないでしょうか。白鳥さんと鑑賞すると楽しいのはナゼなのか,考えてみました。

○白鳥さんは,リアクション王

とにかく「うん,うん。」「ふぅん・・」「へぇ!」と感心してくれる,「あはは。」と笑ってくれるので心地よい。安心して,どんどんしゃべりたい気持ちになる。白鳥さんは,ずっとにこにこ笑って,見守ってくれている。

 ○言葉を慎重に選んだり,ゆっくり丁寧にしゃべったりしてしまう

   白鳥さんと鑑賞者仲間に,同時に自分の考えをしっかり伝えたいと思うと,自然とこうなる。白鳥さんに伝わりやすい言葉を選ぶ。『この言葉の選択で,白鳥さんはどんな感じをもってくれるんだろうか・・・』と,鑑賞者の意識や言葉に対する感覚が研ぎ澄まされる。

 ○ゆるやかなファシリ

   白鳥さんをハブに,みんながゆるやかに繋がる感じがする。白鳥さんには言葉で伝える,鑑賞者仲間にはビジュアル(作品のどこから)と言葉で伝える。言葉に鋭敏で,その場の空気感を大切にする白鳥さんならでは,独特のパラフレーズや問い返しが心地よい。

自転車の車輪に例えると,白鳥さんがハブでみんながリム。やりとりがスポーク。スポークが増えると,鑑賞者同士がつながりリムになる。やがて,全体でまるくてしっかりした車輪が完成!なめらかに走っていくイメージ。全員がだんだんノッてくる。

   

4 白鳥さんと鑑賞して楽しいことから,考えたこと

 2で述べた,白鳥さんと鑑賞して楽しいという感覚をもとにして考えると,実は誰と鑑賞するときでも応用できる大前提のようなものに行き(返り?)着きます。

好奇心の塊のような白鳥さんは,一緒に鑑賞している人たちのやりとりにも深く関心をもち,人の話を聴くことに集中し,言葉から作品そのものや鑑賞者の気持ちをイメージし続けているように見受けられます。すごいことです。視覚情報を使うか使わないかという違いはあるにせよ,目が見えている(つもりの)私たちも,ぜひ参考にしたいと思いました。

 白鳥さんは,この度の会ではファシリテータとしての立場ではなく,6~7人のグループの鑑賞者の一員としての参加でした。でも,私は,白鳥さんと一緒に鑑賞したり座談会でお話を伺ったりすることを通して,鑑賞者・ファシリ両方の在り方や振る舞いについて学ばせてもらったと思います。

~鑑賞者として~

・とにかく興味をもって人の話をよく聴く

・先入観をもたず(もたないように注意して)人の話を聴く

・どんな発言も受け入れる

・人の話のキーワードを覚えておいて,頭の中でマッピングする

~ファシリテータとして~

・鑑賞者それぞれの枠を取り払い,フラットな関係で自由に言いたいことを言える雰囲気作りに努める

・どの発言も受け入れること,なにより面白がって発言者に勇気を与えると同時に,よい場の雰囲気を醸成する

・適度なパラフレーズや問い返しにより,発言者自身が今一度考えたり自身が使う言葉を選んだりするきっかけをつくる

 

5 最後に

  白鳥さんとは,ぼくは研修会も含めて3日間ご一緒させてもらいました。グラントワでの研修会の翌日は,春日さんと一緒に津和野を案内しました。安野光雅美術館での鑑賞や散策,食事などの場面でも,白鳥さんの好奇心は尽きません。例えば,津和野の街角に設置してある伝統行事「鷺舞」のブロンズ像は,等身大以上の大きなものですが,手で全体を触りながらじっくり鑑賞していました。

  私が個人的に注目していたのが,白鳥さんの姿勢のよさと繊細な行動です。立っていても座っていても,常に「スッ」とまっすぐに背筋を伸ばしています。これは,人の話をニュートラルに聴く白鳥さんの,まさに姿勢そのものだと思いました。パソコンや身の周りの道具,食事のときの箸の扱いなど,繊細で慎重な体の動きも,センサーのように身の周りのあらゆるものをキャッチしようとすることが感じられ,美しい姿勢に通ずるものを感じました。

  「白鳥さんとアートを鑑賞すると楽しい」という評判は,まさにその通り。今回の研修会では,アートを介して人と人が繋がることの良さや楽しさを,また強く感じることができました。それに加えて,白鳥さんと出会えたことで,みてるってどういうことだろう,伝え合うってどういうことだろう,ひとりひとりの違いってなんだろう,など,更に多くのことを考えさせてもらいました。この会に参加した全ての人が幸せを感じたであろう,にこやかなサンタさんとの豊かな2日間でした。

 

 


オンライン鑑賞会を開催しました

2023-01-11 18:55:38 | 対話型鑑賞

 

淺井裕介「physis」-photo-Kioku-Keizo-2

オンライン鑑賞会

2022.11.7(月)20:00~

ファシリテーター : 春日美由紀

参加者 : 4名

みるみる会員 3名

計8名

 

春日さんの企画で大学の研究者、芸術家、みるみる会員という様々な職種の方々による鑑賞会でした。

作品2つはどちらも抽象度の高いものなので、多岐にわたる意見が出るのですが、ファシリテーターがコネクトしながらまとめていくと、そこには”生命“に関わるような要素が浮かび上がっていき、鑑賞が進むにつれ、初見とは全く違うものに見え方が変化するというわくわくするような鑑賞会となりました。

 

<鑑賞の流れ>※以下のF:下線はファシリテーターの発言。

 

作品1「科学雑誌の表紙の絵」(マクロファージがバクテリアを捕食する場面)

 

・デザインのようにも、繊毛のある微生物を拡大した写真のようにも見える。形は生物的だが、色のコントラストが強すぎて、自然界にないよう感じがして、人工的に染色しているようにも見えるから

F:形と色によって見え方の違いがある。

・色からは情熱的、原始的な感じがする。繊毛の流れから集団で右下に進んでいるような力強さを感じる。

・線ものある生き物っぽいものが3ついるように見えるが、右の2つはつながっているのかもしれない。ピンクの部分や、黒い大きな丸い部分があり、同種の生き物であるとすると、真ん中の塊の中には同様のものがないから。画面の外でつながっているのかもしれない。

F:特徴的な部位に注目して、個体数について語ってくれました。生き物と感じるのはどこから?

・細胞膜やゾウリムシなど、水中にいる生き物だと思う。直線の部分がなく、丸とか、カーブの形から生き物と感じる。

F:空中ではなく、水中にいると感じるのはどこから?

・繊毛の流れや、緑の部分が重なっている部分から。繊毛の不均一な流れあるように見えるから。

・ちっちゃい子が書いたイグアナにも見える。爬虫類の表皮の鱗や、黒い黄な丸はう穴の耳、周りにある、毛のように見えるものはイグアナの背中のとげようにも見える。また、蛇の頭にも見える。色はイグアナっぽくないが、仮面ライダーに出てくる敵のキャラクターのように、ちっちゃい子は、印象に残るイメージを描くから、強烈な怖い印象の強い色にしている。

F:すごく微細なものと、強面の動物とに見分けているようです。これらを聞いてほかに?

・顕微鏡写真に見えていたが、やはり手で描いたものに見える。細胞に見える黒い線が均一ではなく、描いた痕のような、描いた順番がわかるような部分があり、色の重なりにも手で描いた痕が見える。

F:そのことからどう思う?

・有機的なおどろおどろしい模様を強烈な色彩と形で強い印象を与えるような作品を描きたかったのでは?

F:おどろおどろしさとは?

・生き物なんだけど、毒があるような、爬虫類的な感じもするし、繊毛がクラゲの触手のような毒々しいイメージ

F:生き物が原初的に持っているようなおどろおどろしさということ

・生命のエネルギー的な感じを形から感じる。

F:機械的な人工的なものではないということは感じている。命、生きているという感じ。

・もし、ひとつひとつが細胞だとすると、大きな黒いのは核で、ピンクはほどけた染色体にも見える。

・細胞に見えるところは黄色やオレンジだが、ひとつひとつが塗り分けられているわけではなく、色の部分は中にある部分で、黒い部分は表面でスケルトンに見える。写真ではないと感じる。

・色が強烈で毒々しいということは、猛毒は生き抜くための戦略なわけで、生命力が強いということで、力強さにも思える。イグアナもクラゲもすぐにやられそうにない強さがあるという共通点がある。

・「何匹いるか問題」があるが、全部つながっているかもしれない、全体像がどうなっているかわからない。緑の点々は周りを飛んでるのかなと感じる。

F:飛んでいるとしたら、別の生き物ということ?関係がある??それともたまたま?

・共存している。緑のほうが動きが速そう。線がぶれているから。

F:緑の部分について他に?

・緑の下にオレンジが透けて見えるので、同じ空間か液体の中で、それぞれ違う動きをしている。オレンジが緑を食べているか、金魚の糞のように排泄している。

F:皆さん、生き物や、命が宿っているということ、緑の存在も、共存関係や排泄物などを感じ、生き物の営みを感じたようです。

 

2 壁画 

・とても長い。双頭のドラゴン。水色の頭と茶色い頭。途中で一体化している。丸いひれがあり、青い花のようなしっぽがある。陰陽や、雌雄のような、対になっている。麒麟のような頭で、想像上の生き物に見える。

F:分かれているのではなくて、合体している?

・体のいろんな部分に茶色や空色があるので、分かれてのではなく、合体している。

・生き物の周りに種のような胞子のようなものがある。この生き物がうねうねとしながら生き物の種を蒔いているように見える。大きいので、地球規模の大きな環境に種まきをして大きな仕事をしているように感じる。

F:どんな種まき?

・空色は空や水、茶色は大地に見え、山海のあらゆる場所に蒔いていると感じる。

F:地球を飛び回っている感じですか?→はい。

・対になっていると感じるが、青い部分は中心を通っているので、青がメインで生命の進化を感じる。しっぽの青い部分に花が描かれていて、そこが源っぽい。が、しっぽの根元が急に色が変わっているのはどうしてだろう?

・羽根のところのちょうちょや魚が青で描かれている。

・しっぽの花がぐるっと成長している。花開いたものが右に伸びている。

・青いものは精神的なものを表現している。青い頭は目を見開いているが、茶色い頭は目を閉じていて、沈黙している、物思いにふける。青いほうは何かに注目している。環境問題や社会を見ている。下の十字架に何か意味があるのでは。下にだけあるので、下を見ていて願いをかけている。成長や進化。環境や生命に関すること。環境保護、生物多様性など。

・好きな絵だなと思った。しっぽは花があり、顔はバンビに見え、動物的。青は水を象徴していて、茶色は大地かな。生命は海から生まれたので、左の青い部分から生まれ、右へ進むにつれて分化して生命の歴史を表現している。

・自分は対話型鑑賞が初めてで、皆さん細かい部分もキャッチして言葉で表現していることに感心している。一人ひとりの発言に「そうかもしれない」と影響されると感じた。花と言われた部分が地球に見え、頭が分裂しているのは現状では環境が悪くなり、水と大地が分裂していてるのかなと感じた。

・皆さんの発言に影響されると同時に意外と受け入れられるんだなあと感じた。 共通言語ではない作者が生み出した特殊な言語である作品を、共通言語で語り合うという面白さを感じた。それは質問でそれを引き出していくということにかかっていると感じた。

この建物は一体何なのだ。コンクリートに作品が描かれていることの意味。 実際その場に行かないと分からないという写真の撮り方も印象的。

F:2つの作品から生命を感じ、それが2つ目の作品では大きな広がりになっていき、生命の進化や現在抱えている環境問題なども感じられる鑑賞会となりました。


ファシリテーター初体験のレポートです!

2022-11-26 18:46:26 | 対話型鑑賞

今回はみるみる会員にとっても、AIによる作品を鑑賞するという、初体験の内容でした!

2022.10.20(木)20:00~ オンライン開催

作品:AIに作家の名前を3名入力し生成された画像データ

入力した作家:エルグレコ・ボッティチェリ・マティス

↑有名な作家20名を選出した名簿を作成,そこからランダムに3名が抽出されるようにし,そこで出された3名をAIに入力した。

○鑑賞の流れ 「文字起こし後,流れを要約」

 

  • 人物に関わる造形要素について

・女の人がいる

・無表情というか悲しい表情

・男性に見える→胸元が貧相,骨張っている

 なぜ化粧をしているかわからない

・若い男性,女性の手ではない

・口紅や細い眉は自然なままではない

 

  • 人物に関わる役職について

・歌舞伎役者とか役者さんとか女方

 意図的に女性のようなメイクをしている男性

・聖職者,宗教に関わる人

↑紫の服装から宗教への連想・背景からも教会のイメージ

 

  • 色調について

・黒が印象的

 目がすごく黒々としていて虹彩に光がない→不気味

 

  • 人物に関わる雰囲気について

・目のハイライトがない→視点が定まってないように見える。

 外に開かれた目ではなくうちに向かっている

・ミステリアス

 ↑人物の存在も・場所についても

 

  • 画面の手について

・真ん中の三本指は実際にやるとしんどい

・瞑想や祈りのポーズ

 ↑宗教や半眼に見える目から

・他人ではなく自分の手

□なぜ他人の手ではない?

・手が置かれる場所が他人であれば不自然

・宗教的な意味合い・ある特定の民族の中で信仰されている,あるいは伝承されたポーズ

・指が美しいから描いた

 

  • 人物について

・どっちつかず・読み取れないから問いが生まれる

・鏡に映っている・人物は絵でその絵に触れようとしている手なのでは

・男性か女性か話を聞くたびに見え方が揺らぐ

 

  • 再び人物に関わる役職について

・聖人であっても演じることはあるのでは

・3本の指は三位一体のことかも

・一般庶民には布教活動をしている伝道師も役を演じているように見える

・ショービジネスとか飲み屋街の人にも見える

↑シミが描かれている,くたびれた感じのする人間っぽさ

・生まれながらに聖人はいないから世俗的な容貌であってもおかしくない

 

鑑賞者からの講評

・質問の仕方が限定的,触れられてないのに次に進めるのは唐突

・もう少し全体から第一印象を拾ってからでもいいのでは

・どっちだと思う?という二極化すると,選択肢が縛られてしまう

・初めてやるファシリテーターでAIを選ばなくてもよかったのでは

・AIが生成するということはプログラミングする人の作意があるのではないか

・もっと基礎基本を抑えてもよかったのではないか,いっぺんにチャレンジしすぎた

・AIを最後まで開示しないのはフェアではない

 ↑AIの生成であるのを知っているのはファシリテーターだけで,鑑賞者は試されているように感じてしまう。

・途中でAIの生成であることを開示してもよかった

・AIであることの開示やまとめが肝になる鑑賞では

・フレーミング・パラフレーズはできていた,コネクト・リンキングができていない

・人は”作品”というものは、作者が意図をもって創作したものであってほしいと思いたがるということを再認識した

→だからこそAIが生成したものだと知ると、そこに”意図”が存在しないことを知って少しがっかりした感じがした

・初めてAIの生成した画像を鑑賞したので、興味深かった

・AIを取り入れるねらいやコンセプトをファシリがしっかり持って臨むと、AIであることを開示してからの鑑賞が深まることもできるのでは

自評

今回,初めてのファシリテーターを行った。鑑賞の場として鑑賞者はみるみるの会の方々なので,ファシリとして詰まってしまう部分では助けていただきながらの鑑賞になったのではないかと思う。今まで鑑賞者として行っていたものが,いざ自分がやってみるということになると改めて自分の経験が充分でないことを痛感し,「女の人がいます」という意見に対し,「どこからそう思いますか?」と聞かなければいけない場面でそれを聞きそびれてしまうなど,反省点も多いので今後回数を重ねる中で経験としてできるようになってくればスムーズに進めていくことができるのではないかと思う。また,スキルについて言えば,課題として鑑賞者からの講評にもあったように出てきた意見同士を繋げていくことに困難さがあるように思う。その時出た意見だけに注意がいくのではなく,今までに出た意見全体に目を向ける意識や,キーワードが何かを端的にするなど対応していかなければならないと感じた。今回のファシリテーターの経験では多くの課題を含むものになってしまったが,自分自身にとっての課題が明確化されたので,今後ここで出た課題の解決に向け経験を積んでいきたい。

 

 

 

 

 

 


加納美術館において土門拳の写真展で「アートdeトーク」を開催しました

2022-10-10 18:24:41 | 対話型鑑賞

アートdeトーク:2022年9月25日(日)安来市加納美術館

参加者 10:30~11:30 5名(内みるみるメンバー1名)

    13:00~14:00 10名(内みるみるメンバー2名)

ファシリテーター 春日美由紀

※土門拳氏については、文中「土門」と記すことをご容赦願います。

展覧会情報 

土門拳記念館コレクション展 土門拳―肉眼を超えたレンズ― - 安来市加納美術館|島根県安来市 (art-kano.jp)

 

1作品目 土門拳「肉眼を超えたレンズ」展 ポスターメインヴィジュアル作品

2作品目 同上 中宮寺 観音菩薩半跏像

午前の部も午後の部も同じ作品を鑑賞しました。

みるみるメンバーの一人は、同じ作品でも鑑賞者が異なると、鑑賞も異なるという体験ができたのではないかと思います。

作品は、9月10日のオープニングに参加した時に決めておきました。時間的に2作品の鑑賞が可能と考え、2作品を関連付けて鑑賞することもできるように構成しました。

1作品目は日本が太平洋戦争に向かう時期に日本赤十字で看護を学んだ「若い看護婦」のポートレートです。2作品目は、中宮寺の観音菩薩座像(国宝)の頭部がメインとなるアップ画像です。

鑑賞者の皆さんが、それぞれをそれぞれに鑑賞するのか、2作品目をみるときに1作品目の作品を思い起こしながら、引き合いに出して鑑賞するのかもファシリテーターとしては興味の湧くところです。比較することを促すようなファシリテーションは避け、鑑賞の流れに委ねようと決めていました。

また、地元の写真愛好家の男性が複数参加されたので、写真の専門的なお話になりそうな気配がしました。併せて、写真にまつわる情報を与えてもらえるのではないかという期待も抱かれているのではないかと推察されたので、ことを、鑑賞を通して伝えることができるように配慮しました。

 

鑑賞会の様子

【午前】鑑賞の流れ 

①ヒロシマで戦争被害にあった人を看護している看護婦←赤十字が帽子の真ん中

②眉と目しか見えないので、性別が判然としない。タイトルが「看護婦」とあるので女性と思うが、まだ、性別が歴然としない年頃か。

③悲しい目。戦場で負傷した人たちを前にして不安、戸惑い、のようなものも感じられる。

④戦地には立っていない。これから立つ。看護学校の卒業式(戴帽式)か何か。戦地に立っていたら、こんな風に前を向けないのでは?悲惨な戦場、私なら目をそむけたくなる。

⑤マスクをして救護にあたるということが最新鋭なのでは?もしかしたらエリートかも?

⑥看護婦であることは自明。決心や強い気持ちは目の中にある白い点から感じる。制帽やマスクを身につけ、第1歩を踏み出そうとしている。

⑦こんな居住まいの人だと安心して看護してもらえる。人からどう見られるかも考えて、身だしなみを整えているところが、若いのにすごいと思う。写真に撮られていてもぶれない芯の強さを感じる。

⑧目線の先が黒い背景になっているので、写真を見る人の見方で如何様な見方もできる。強さも、悲しさも、決意も・・・。

【午後】

①白を強調したくて黒い背景にした。白い人物が浮かび上がる。

②瞳を光らせる、従軍看護婦、鋭さ、自分の命もなくなるかも知れない。

③どんな状況で撮影したのか?今から、戦地に赴く前。覚悟や決意が目から感じられる。

④汚れのない、まっさらな帽子とマスクを身につけ、看護婦としてのスタートを切る。

⑤マスクの下の口元は口角が上がっているようにみえて微笑んでいる?しかし、目には緊張感がうかがえる。

⑥口元は優しい、目は厳しい。

⑦目に白い点(キャッチ)が入っていて、自然にみる人の目線がそこに行くように写真に撮られている。

⑧左目が二重で温かみを感じる。右目は一重で不安や鋭さ、厳しさを感じる。この目がこれからを物語っている。

⑨若さ、化粧っ気がない。

⑩帽子やマスクがどう変化していくのか、戦地に赴いて、そういうことを想像、連想する。

⑪ほっぺが子どもらしい、ゴツゴツしていない。まだ幼さが残っている年頃。

⑫マスクの柔らかさと帽子の立ち上がり、質感の違い、人物が立体的にみえる。

⑬知的で賢そう。帽子や衣服やマスクを時間をかけて隙なく身につけている。そのことから、見た目からも整ってみえるように身支度ができる、そういうことが気遣える、若くしてできるので、賢そうだと思う。

⑭軍がモデルを使って撮影し、看護婦の募集用に使ったのではないか。

⑮リアリズムの写真家の土門だからそれはない。ただ、時期から考えても戦争に赴く前である。※キャプションに制作年が記されていて、その時代が若干話題となる。

⑯戦争を宣伝するもの。

⑰若者たちを奮起させるためのもの。

⑱リアル。結団式。多くの同士がいる。その中の一人。代表する姿、目線の先には壇上で語る人がいて、その人をみている。

⑲緊張感と共に、共感もある。こんな風に決意をもって仕事に行きたい。若い人が頑張っているなら、私も頑張らないと、という、気持ちにさせる。

ファシリテーターの1作品目の鑑賞会の感想

 戦争が背景にある作品なので、そのことが後半話題になるのかと思っていましたが、参加者の皆さんは、作品そのものをよくみて、そこから考えられることを話してくださいました。従軍するために訓練を受けた看護婦の像ですが、その目に宿る光(白い点)に職に対する決意や高邁な理想、信念といったものを多くの方が感じておられたように思います。それが、戦意高揚や国威啓発につながっていく見方もあったかも知れませんが、今回の鑑賞では、この成人ともつかない女の子自身のパーソナルな部分が話題の中心でした。一部、プロパガンダ的な見方も出ましたが、それに追従する発言は無く、土門のリアリズム描写が一人の女の子の新たな一歩を踏み出す、その時の精神性に光を当てたものとして参加者の皆さんはとらえられたように思います。

 

2作品目

【午前】鑑賞の流れ

①美しさ、妖しさ。指のしぐさや唇の様子から。一般の仏像のイメージと違う。

②色っぽい。舞妓さんのように指を曲げるしぐさ、柔らかい。さっきの作品は目を上げていたけど、こっちは目を下げている。★2作品の比較発言

③しなやかな指。仏像は神々しい、キラキラしいものだが、これは神様もリラックスして考え事をしているよう。モデルは女性なのかな。誰かを写し取っていると思う。

④1作品目は「婦」がなかったらどちらか分からない感じだったけど、こちらは中性のはずなのに女性性を感じる。

⑤すべてを包み込んでくれる、口角が上がっている、何でもやっていいよ、穏やか、怒ることもなく、微笑んで、受け止めてくれるイメージ。

⑥静かな、怒らない、なで肩、いかつくない、あの手に叩かれても痛くない気がする。

⑦このポーズ、グラビアアイドルのポーズ。それを土門が82年前に撮っている。

⑧普通だと仏像は見上げるけど、これは、見下ろしている感じで、だから人っぽい。仏様というより普通の女の人っぽい。

⑨両性具有ではなくて女性性。包み込んでくれる、相手を否定しない処断しない。そこがグラビアアイドル的。この切り取り方を80年前に土門がやり、それが現在のカメラマンに刷り込まれているかも?初代グラビアアイドルかも?

【午後】鑑賞の流れ

①有名な仏像。笑っている。黒と白の対比。指や鼻梁が金属質に見えて、冷たさや涼やかさを感じる一方、笑っているので優し気で温かみもある。

②仏像、優しく凡人に話しかけてくれているよう。目元や口元、手の感じから。仏師の彫った作品のすばらしさを土門が引き出した。素晴らしさに気づかせた土門。

③色っぽさ。金属なの?冷ややかだけど艶めかしくて色っぽい。手や指の様子から。

④化粧中?指で口紅を塗り終わった瞬間。

⑤芸者、芸妓 伏し目がち。

⑥中性的

⑦完全な立体感、手が語りかけている。

⑧色っぽさ、口元。女性とは分からないが、色っぽさや艶めかしさを感じる

★どんなことを語りかけてくれていると思うか?

⑨平和を訴えている。優しい気持ちで人と争わず、平和な世界を・・・。

⑩男の仏像かも知れない。隣と比べると指が太い。スマートではないかもしれない。

⑪土門の撮り方。小料理屋の女将さん。たおやか、包んでくれて、芯の強さもある。愚痴を聞いてくれそう・・・。

⑫顔の切り取り方。光背を排することで仏像であることを排して対話している土門。私たちも同じようにこの像と会話している。1作品目は帽子やマスク、赤十字のマークなどで属性を伴った看護婦をみていた。★2作品の比較発言

⑬女性的と感じたのはなぜなのかと考えて、唇や冷たそうに見える指のしぐさが女性らしさが際立っていると感じた。普段は近づきにくい、遠い存在の仏像に近づけた気がする。

⑭わざと線を減らして表情を作る。シンプル。

⑮無駄がない。眉頭に鼻梁のライン。男性だとゴツゴツしている。おでこに縦皺もないので、何でも聞いてもらえそう、優しい印象。

ファシリテーターの2作品目の鑑賞会の感想

 1作品目より、より土門の写真の構図(切り取り方)が際立つ作品だと思いましたが、そこにはあまり焦点を当てず、作品そのものを「みて・考える」ことに注力しました。参加者の多くは対話型鑑賞の経験者なので「みる・考える・話す・聴く」を各自がグルグル回してお話してくださったように思います。ただ、作品鑑賞が積みあがったり深まったりしたかというと、そこは今一歩だったように思います。しかし、初参加の地元の写真愛好家の男性陣が2作品目にも参加してくださり、鑑賞を通して、少しずつ思考の枠を広げて考えておられる様子がみられたのがうれしかったです。

 

Dさん(みるみるメンバー:午前午後とも参加)

・午前と午後で、同じ作品を違うメンバーで鑑賞する楽しさを味わえました。

・作品をいろんな角度から鑑賞する面白さを、参加者の皆さんも感じていただけたのではないかと思います。

・ひとつの作品を観ながら思うことを伝えあっているだけなのですが、心の中で様々なことが起きているのが面白いなと思います。

・私自身の変化は、仏像彫刻を観る目が変わったことです。今までは苦手でしたが、県美の仏像展に行こうかと思っています。

Sさん(みるみるメンバー:午後の部のみ)

・今回、対話型鑑賞経験者と未経験者、また年代もバラバラかつ、一般参加の人はそこで人間関係ができていたりと、今までにない、色んなところに引っ張られる要素が多い鑑賞だった。引っ張られつつも、ファシリテーターが逆に「どう思われますか?」と聞き返すなどして、対話をフラットな雰囲気に保っていたのが非常に勉強になりました。

・2作目は仏像を思い切りトリミングしたもので1作目と対照的だったこともあり、2作目は実際のモチーフにとらわれない、かなり自由な見方ができたと思いました。他者の発言からの発見や、思ったことを膨らませるという発言ができたことで、大人数でみるという醍醐味を味わえた鑑賞になりました。

 

参加者の感想

Kさん(写真愛好家):午前の部参加:グラビアアイドルの発言をされた方

・とても面白い企画で、なるほどそういうふうにのも楽しいものと改めて思いました。

Nさん

・写真は「看護師」「菩薩」と分かっているので、深―く考えていくのが私には難しかったです。ただ、菩薩さまと分かっているのに色っぽい女の人(日本髪の人)にみえたのは、流石写真家の腕かなあと。

・言いそびれたけど、菩薩さまは誰かに質問されて「うーん、そうよねえ」と考えているようにもみえたのでした。

Iさん

・今回も自分の感じたことを自由に発言したり、他の方の意見をきくことで見方がどんどん変わるというより広がっていくのが面白かったです。

・写真作品は2回目でした。新しい発見があって被写体が美術作品だと、まずその被写体そのものの芸術性をみて感じること、それを踏まえてその被写体を写し撮ったカメラマンの意図や技量を感じ取ること、この二つが鑑賞の要素となっているなと思いました。

芸術作品でないリアルな看護師さんが被写体の作品では感じなかった視点でした。

・なので、今日の二つの作品を比較すると、芸術作品が被写体の写真の鑑賞の方がハードルが高いなと思いました。

・あと、正解を導こうとする傾向の参加者の発言をファシリテーターが上手に汲み取って鑑賞の視点を広げておられて流石だと思いました。

 

全体を通してのファシリテーターのふりかえり

 対話型鑑賞体験の異なる方たちがともに作品を鑑賞していく時、どのような配慮が必要なのか、今回、色々と気づくことがありました。

 初参加の方は、鑑賞法に興味があるというより、展覧会に付随する活動なので、何か新たな情報や知識がもらえるのではないかという期待を抱いて参加しているように思われました。そこを、そうではなくて、自分たちが能動的に鑑賞をしていくのだということに気づいてもらいながら、発言を促し、作品の見方に何か「正解」があるのではないかと考えていることから解放できればよいと思いました。

 どんな作品でも制作されたものなので技術的なことが話題になることがありますが、写真作品はその側面が強いように思います。また写真愛好家の方も多いので、そのような方の参加もあったのですが、技術的な話ではなく、作品そのものを「みる」ことができるように働きかけました。

そのために「どこからそう思ったのか」を繰り返し問い、そのことについて「あなたはどう考えるのか」と、自分が鑑賞の主体であることが、何となくでもいいので感じられたらよいなと思いました。

1作品目はタイトルと制作年しか記されていないキャプションだったため、手元にある資料やパンフレットを何度も繰りながら情報を探している参加者の姿がみられたので、「資料に頼らず、まずはご自分の目で、作品をじっくりみてください。」と声をかけました。

初めの頃はみえたことについて話す時も断定的な言い方でしたが、徐々に、「~~だと思う」や「言われた通りに~~~」など、他者の意見を聞きながら考えている様子が発言からもうかがえました。それは、多くの対話型鑑賞経験者の皆さんに依るところが大きかったです。

初体験の方が2作品目にも参加し、発言をされ、終わった後にも、作品について談笑する姿が見られたときに、目標のいくらかは達成できたのではないかなと思いました。

ただし、録音を聴き返した時に、ファシリテーター自身の応答の声にやや問題があることに気づきました。それは、情報や知識にもとづいた話をされている参加者の発言に対して、若干緊張した硬い声音で応答しているというファシリテーターの姿勢です。今後はどんな時もオープンでフラットな対応を心がけたいと思います。

 

対話型鑑賞の貴重な実践の場を提供してくださった安来市加納美術館様に感謝します。

 

 

 

 

 

 


安来市加納美術館「へいわってどんなこと?」展 あーとdeトーク

2022-09-25 18:46:52 | 対話型鑑賞

2022.8.7(日)11:00~11:40 安来市加納美術館 鑑賞会 

「へいわってどんなこと? 浜田桂子 絵本原画展(2022年7月16日~9月4日)」にて

参加者:美術館職員2名、 みるみるメンバー4名、 一般1名 計7名

ファシリテーター:房野

鑑賞作品: 「ちいさな島のおおきなまつり」 浜田桂子 新日本出版社 2017年

安来市加納美術館での鑑賞会2回目は浜田桂子さんの絵本の原画展でした。

展示室の壁にぐるりと、絵本の1ページ目から文章のついていない原画の状態で展示されています。絵本ですので、ひとつの物語の中でお話の一場面として見る、という見方もできますし、 浜田さんの絵は具象で、シンプルではあっても1枚から多くの物語が想起されるような見ごたえのある作品ばかりでした。その中から私は心惹かれる1枚を選び、「絵画作品」として鑑賞しました。

選んだ作品は沖縄県の小さな島、竹富島に伝わる種子取祭をテーマにした絵本の1ページ目。まだ、「祭り」につながる要素はない絵でしたが、島の何気ない日常の、人々のつましい生活という基盤があるからこそ、非日常の「祭り」がより際立つのでしょう。そんな島の人々の暮らしを、たくさんのモチーフが物語っていました。 「平和」をテーマにした浜田さんの絵本には、悲惨な「戦争」について描かれた絵本もありますが、みんなの笑顔や日々の幸せが持続することこそが、「平和」なのだと、この絵本から感じました。また、私は以前オンラインみるみる鑑賞会でファシリテートした安野光雅作「旅の絵本 日本編」が心に浮かび、似たテーマを含むこの作品で、あの時のリベンジを果たしたいとも思いました。前回の反省から「しっかりディスクリプションすること」「たくさんあるモチーフが並立するだけにならないように、焦点化していくこと」「そこからどう思う?」と解釈へつなげることを心がけようと思いました。

 

<鑑賞の流れ>

(1)たくさんのモチーフのディスクリプションからフレーミング、フォーカシングへ

(①~フレーミング、パラフレイズ、ファシリの投げかけなど)

①物や建物から風土や土地柄について

屋根にシーサーの置物が乗っており、赤い屋根で白漆喰、低い平屋の家屋の様子から、すぐに沖縄ということに気づき、皆さんがたくさんの「沖縄」らしさを見つけました。水牛、色や日差し。道の白さから未舗装でも、きれいなのは、掃除をしている住民がいるから。

②人々の様子について

ランドセルを背負った子どもたち、陰の濃さや長さから朝の登校の様子。草刈りをしている男性、花の手入れをしている女性、涼しい朝方に一仕事している様子、バイクは何かの朝の配達かも? 朝の活動が見えるから一日の始まり。

③「人の様子から何か気づくことは?」

朝の挨拶など声を掛け合っている。 人々の目線があっている。作業を止めて顔を上げて笑顔で声をかけている。近所の知り合い同士。

④「あったかい関係性ということですね。」

地域の温かさを感じる。同じような帽子をかぶっている人がいることから、同じ地域の関係ある人々。地域の民芸品なのかも。

⑤「地域という言葉が出ましたが、コミュニティがあると感じたのでしょうか。」

ここでは子どもと年配の方が多い。時代は近代で父母は仕事に出ているのかもしれない。いろんな世代が一緒に暮らしている。そんな朝の始まりを描いているのでは。

 

(2)ディスクリプションから作品の解釈へ

⑥「たくさんのモチーフを発見しましたが、それからどんなことを考えましたか?」

右上にぼんやりした空間があるのはどんな意味があるのか?と考えている。温かい雰囲気を感じるとともに、緑から黄色にかけての色は季節の芽吹きを感じる。

⑦「全体を見て、描かれ方に気付いたことは?」

道は絵の外へ続いているので、この先はどのように想像しますか?という作者のメッセージなのでは。この先もきっと明るい、プラスの印象を見る人に考えてほしいのでは。

沖縄独特の鮮やかな赤もあるが、緑の優しい感じをぼんやり描いている。はっきり描くところと、あえてあいまいに描くことで、この道の先や生活をイメージさせる描き方をしている。

右角の黄色の色から、こちらから朝日がさしていて、あえて説明的に描かず、見えていないところも想像させている。

左下は暑い感じ、右上は少し涼しい感じがする。

⑧「人工的なものというよりは、自然とか、空気、温度を感じるということですが、その描き方から感じることは?」

最新の文明が潤沢ではないが、この暮らしはかけがえのないもので、ここにいる人がそれを大切にしていて、これからも大切にしていきたいということが丁寧に描かれている。つましい暮らしだが、豊かで牧歌的な感じ。文明に侵されていない。癒されに行きたいな、と感じる。

心の豊かな人々のふれあいが描かれている。

⑨「自然や動物が豊かに暮らしている、現代的なテクノロジーはないが、つましく豊かで幸せな、そういう空間がここに満ちている。見ているだけで癒される、行ってみたいと思わせるような空間だと私も感じました。ヤギや蝶々など、リアルに鮮やかに描かれているけれども、あいまいで温かい緑の空間が描かれていて、この先もみる人に考えてほしい、というメッセージを感じ、いくらでも見続けていたい作品でした。」

<振り返り>

・フレーミングとフォーカシングからサマライズと進めるとよい。

・鑑賞が進むと沖縄特有の色の鮮やかさから地元愛や柔らかさに解釈が変化していった。

・朝か、夕方か、という反対の意見が出たが、対話を進めるうちに朝という解釈になっていった。朝か夕方で絵の見方が変わった。

・ファシリが⑥で解釈に進もうとシフトチェンジしたが、そのタイミングは早すぎた。右上の余白の空間の描かれ方など、気づいている鑑賞者もいたので、もっとしっかりディスクリプションをするとよかった。

・右上の空間についての意見から見方が変わったという意見が多数あった。

・音や会話も感じる良い作品であった。

  この作品からは、「共生」「持続可能な豊かな暮らし」を感じました。発展や拡大を求めてきた私たちの生活は本当に豊かで幸せなのか?ウクライナで戦争が続く今、自分たちの生活にも思いを巡らせ、「幸せ」について考えることができた鑑賞会になったと思います。

コロナ禍以降、私にとっては3年ぶりの美術館でのリアル鑑賞会でした。やっぱり参会しての対話はいいなあ・・・今回この作品に出会えて、この空間を共有することができて幸せなひと時でした。 この機会を与えてくださった加納美術館の皆様、ご一緒できた皆様、本当にありがとうございました。