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南英世の 「くろねこ日記」

徒然なるままに、思いついたことを投稿します。

経済学が目指すもの

2020年06月25日 | 日常の風景
 
 1年ほど前に拙著『意味がわかる経済学』(ベレ出版)に書いた文章の二次使用の許諾を求める話が凡人社からあった。
長い間忘れていたが、先日完成した本を送ってきた。
それが冒頭の写真である。
主にアジアからの留学生のための日本語テキストらしい。
定価2200円+税

私が経済学を志すようになった理由を書いたものだが、それが編集者の目に留まったらしい。
心を込めて書いた文章であっただけに、凡人社から話があった時はうれしかった。
最近の日本の情勢を見るにつけ、改めて経済学の大切さと戦争の愚かさを思う。






メルカリは現代の図書館

2020年06月25日 | 日常の風景
 手持ちの本を全部読んでしまったので、何か面白そうな本がないかと久しぶりに梅田の紀伊国屋書店に寄った。

あるある。しばらく来ないうちに結構面白そうな本が出ている。

以前なら、その場ですぐ全部購入したのだが、最近ヤフオクやメルカリで「真新しい本」が出品されていることを知り、念のため書名をメモをして書店を出る。

中央銀行(白川方明)
猫を棄てる(村上春樹)
この不寛容な時代(佐藤優)
教えるということ(出口治明)
MMTの教科書(真壁昭夫)
MMTとケインズ経済学(永濱利廣)
MMT 現代貨幣理論(L・ランダル・レイ)

総額 1万8490円

家に帰ってさっそくメルカリやヤフオクで調べてみる。
全部出品されている。
もちろん即注文。
総額 12800円
なんと3割引きで買えたことになる。

しかも、しかも
もし読んだ後これらを再出品すれば、購入価格とほぼ同額で売却できる。
手数料10%と送料がかかるが、それでも購入価格の8割くらいの元は取れる。

メルカリは現代の有料図書館である。
新刊本がますます売れない時代になってきた。







民主主義は万能ではない

2020年06月20日 | 日常の風景
たくさんの人間がいてそれぞれ異なる意見を持つ場合、最終的には多数決で決めるしかない。それが多くの人を納得させる唯一の方法だからである。しかし、多数決原理にも欠点がある。その一つの例が、まだ生まれていない人たちには選挙権がないという問題である。

たとえば、原子力発電所の問題について考えてみよう。ご承知のように原子力発電は世界各地で大きな事故を起こしている。そして、一度放射能漏れ事故を起こすと、長期にわたって自然環境や人間に影響を与え続ける。放射線に被ばくすると、DNAが傷つき、白血病、乳がん、甲状腺がんなど様々な健康障害が起きる。プルトニウムの半減期は2万4000年といわれるから、ほぼ半永久的だといってよい。言ってみれば、縄文人の活動が現在のわれわれに健康被害をもたらすようなものである。

現代の民主主義制度の下では、いま生きている人々が投票を行い、多数をとった政党が政権を獲得し政治を行う。現在、原子力政策が国策として容認されている。万が一事故を起こして将来世代に迷惑をかけることになったとしても、将来世代は現在の意思決定に参加することはできない。だから我々は、いま生きている自分たちの世代だけではなく、将来世代のことも考えて意思決定をする必要がある。

しかし、現実はどうか。多くの有権者は、自分のことを最優先にしてきわめて利己的な態度で投票しているのではないか。自分が死んでしまった後の100年後、200年後のことまで考えて、投票する人などほとんどいないのではないか。

実は、こうした問題は原子力発電の問題に限ったことではない。地球温暖化の問題や財政赤字の問題も、その本質は原子力発電の問題と同じである。共通するのは、いま生きている人々が今の豊かな生活を維持したいがために、「先のことなんか構っておられるか」と問題を将来世代に押し付けている構図である。地球の温度が3度上昇しようが4度上昇しようが、その頃には自分はもう死んでしまって存在しない。そんな先のことなど none of my business というわけである。

民主主義は決して万能ではない。「独裁よりはまし」という程度である。民主主義をうまく機能させるためにも、将来世代のことも考えて意思決定できる人を、一人でも二人でも増やしていく必要がある。

むなしい比較

2020年06月19日 | 日常の風景
東大と京大に何人合格したかというランキングが2020年6月19日号の東洋経済オンラインで発表された。
公立高校で10位以内に入っているのは大阪の北野高校と天王寺高校だけ。
しかも、この数字を見ると両校とも急速に増えている。

大阪の事情を知らない人がこれを見たらどう思うか?
両校ともすごく努力して成果が上がっている?

いえいえ全く違います。
確かに過労死ラインを超える残業をして努力しているという事実はあります。
しかし、そうした努力をしているのはほかの進学校も同じ。
正解は、大阪府の学区が2014年度から完全に撤廃され、勉強のできる生徒がほかの学校から移ってきただけの話です。

大阪府全体としての人数はどうなのか?
見たことがありません。
都合の悪いデータは出さないということでしょうか。

ちなみに、大阪の場合、学校のレベルは交通の利便性の関数です。京都線、宝塚線、神戸線が集まり、しかも特急がとまる十三に生徒が集まるのは当然のことです。カバーできるエリアの大きさが違います。

大統領令

2020年06月13日 | 日常の風景
 アメリカの大統領制は三権分立が厳格だとされている。実際、日本と違って大統領は法案提出権を持っていないし、議会に出席することも年に2~3回である。だから間違っても「私は立法府の長でもあります」などと錯覚することはない。

アメリカでは建国以来「議会に対する不信感」が強い。かつてイギリスの植民地だった頃、イギリス議会がアメリカにさまざまな税をかけたからである。だから大統領には拒否権が付与されたし、違憲立法審査権も発達した。これにより議会の暴走を防ぐことができる。

一口に行政権といっても日本とアメリカでは性格が大きく異なる。、日本の行政権は内閣に与えられており、首相個人に与えられたものではない。首相は”Prime Minister"、すなわち閣僚の中の最高位という位置づけにすぎない。これに対して、アメリカでは行政権は大統領に属するとされ、大統領個人が行政権を持つ。だから、国務長官(連邦政府の国務とは外交であり、国務長官は日本の外務大臣にあたる)は ”Secretary of State" すなわち大統領の秘書という位置づけである。

行政部内における大統領の権限は絶対である。閣僚が何を言おうと全否定する権限を持っている。また、行政部を統括しやすいように、大統領が交代すれば行政部に属する3500人の人員を全て入れ替える権限も持つ。日本では首相が交代しても公務員試験に合格した官僚が行政部を支え、政治に影響力を持っている構造とは全く異なる。

ところで、最近トランプ大統領が盛んに「大統領令」を出しているが、そもそも大統領令とはいったいどういう性格のものなのか?イメージ的には「大統領が発する強力な法令」と思われがちであるが、それは全くの誤解である。

アメリカでは立法はすべて議員立法であり、日本のように内閣法制局が事前にほかの法令と齟齬をきたさないようにチェックする仕組みがない。だから、既存法令と整合性がとれていないことも少なくない。そこで、法律の執行方針を定め行政が円滑に進むように配慮する必要が出てくる。大統領令とはそのためのものであり、決して法律を代替するものではない。

しかし、現実には大統領令は法律と同じような効力を持つこともある。大統領令に対抗する方法は基本的に二つである。
第一に、憲法違反であると司法に訴える。
第二に、議会が大統領令に反対する法律を作る。ただし、この方法については大統領に拒否権があるため、議会(両院)が3分の2以上の多数で再可決する必要がある。

この二つの方法は極めてハードルが高い。
最近、大統領の権限がますます強くなってきており心配だ。因みに不法移民対策としてメキシコとの国境に壁を作るという大統領令は、議会が予算(アメリカの予算は法律として成立する)を認めなかったため壁はまだ一部しか完成していない。



アメリカの貧困問題はなぜ解消しない?

2020年06月11日 | 日常の風景

 本を読んでいると、いくつになっても「うーん、なるほど」という新しい気付きがある。去年、木村草太さんの本を読んでいて憲法の教え方が飛躍的に変わった。 今回、『格差と分断のアメリカ』(西山隆行)を読んでいて、アメリカの貧困問題がなぜ解消の方向に向かわないのかがよく分かった。

第一の理由は、アメリカがイギリスから独立するとき13の植民地が ”State" となったことに関連する。”State"は現在では「州」と訳されるが、本来は主権を擁する「国家」を意味する。すなわちアメリカ合衆国とは元来主権国家の集まりなのである。だから、外交と防衛以外は基本的に各州の権限が今でも大きい。
もちろん福祉政策も基本的に州の仕事である。その結果どういうことが起きるのか?もし、ある州が貧困対策を充実させれば、全米から貧困者が流れ込んでくることは容易に想像できる。各州の独立性が強いとはいっても、人の移動は自由だからだ。そのため、各州は福祉政策には及び腰にならざるを得ない。

第二に、アメリカでは税の多くを中高所得者が負担しており、国民の47%は連邦所得税を支払っていないという現実がある。そのため福祉政策を実施しようとすると税の負担増加を心配する中高所得者が猛反発する。ちなみにアメリカでは「減税」は中高所得者の利益にはなっても貧困層の利益にはならない。貧困層を救済するためには、直接給付を行うしかない。

さらに第三の理由として公的保険制度の問題がある。アメリカでは民間医療保険が発達しており、公的医療保険制度を導入しようとすると、すでに民間医療保険に入っている人々が無保険者(約5000万人)を助けるためにさらに多くの税金を取られることになるとして反発が強いのだ。


アメリカは建国以来「自由」というものに最大の価値を置いてきた。だから裕福になる自由もあれば貧困になる自由もある。貧困は自己責任だ。それがアメリカ人の考え方だ。アメリカの社会保障について説明するときは、これまでそんな説明をしてきた。しかし、それだけでは不十分なことがこの本を読んで理解できた。とくに第一の理由は衝撃的だった。同時に、トランプ大統領を支持する一定のコアな層がアメリカに存在する理由と、左派の主張が容易には実現しないことがよくわかった。

今回、この本を読み終え「メルカリ」に出品しています。


QRコード

2020年06月07日 | 日常の風景
すっかり定着したQRコード。これを開発したのはDENSOの原昌宏さん。ヒントとなったのはなんと、昼休みにやっていた会社の囲碁だったという。
それまではバーコードが使われていた。しかし、バーコードでは作業能率が悪い。そこで思いついたのがQRコードだという。これだとバーコードの情報量の200倍、英数文字にして4000字以上に対応できるという。

原さんの偉いところはQRコードを普及させるために特許を取らずオープンにしたこと。おかげでQRコードは急速に広がった。

私も試しにQRコードを作ってみた。
スマホをかざして読み取ってみてください。
さてさて何が出るやら?

ベテランと若手教員の違い

2020年06月04日 | 日常の風景
 今年度も昨年に引き続き「皆さんには日本一の授業をしてあげる」と自分にプレッシャーをかけて授業をしている(笑)。
授業は毎年進化しているが、特に今年は4月5月が休校になったため、授業内容を一段と精選し、より高密度なノートに書き換えている。昨日行なった2回目の授業は、人生で最高の授業ができたと内心たいへん喜んでいる。若い教員にはまだまだ負けられない。

ところで、ベテラン教員と若手教員の違いは何か?
結論を言うと、「メリハリ」のつけ方だと思う。ベテランになればなるほど、ここで学ばなければいけない大切なことは何かが見えてくる。大切なことと、どうでもいいことの区別がつくようになるのだ。もちろん、大切なこと=入試で出ることではない。むしろ、一番大切なことは入試問題には適さないことが多い。

若いころは大切なことと、そうではないことの区別がつかない。だから、教科書に書いてあることは全部教える。ある種の責任逃れである。私もそうだった。何のメリハリもなく大量の知識を教えるものだから、生徒は「味噌」も「クソ」も同じレベルで覚える。その結果、本当に学ばなければならないことが、1年もするとすっかり抜け落ちてしまう。

かつてアインシュタインは言った。「教育の効果は学校で学んだことを全部忘れた後にあらわれる」。長い間、私も「教育とはそういうものだ」と思っていた。しかし、今はこれが間違いであると断言できる。全部忘れてしまうような教育をした先生が悪いのだ。

いい教育とは、「世の中の見方が変わり、人生の指針となるような知識が生徒の脳みそにグサッと突き刺さり、忘れようにも忘れられない」そんな授業ではないか。実は政治・経済の教科書についていえば、本当に重要なことはたったの4つしかない。それらはいずれも何のためにこの教科を教えているのかという「哲学」から導き出されたものである。その4つに徹底的に的を絞り、ほかのどうでもいい些末な知識はなるべくそぎ落とす。そうしたメリハリのきいた授業こそが理想であると思う。

そうした授業ができるようになるためには、専門書をたくさん勉強する必要がある。専門分野以外を教えるときはなおさらである。少なくとも学部レベルの専門書を何冊か読みこなすくらいの準備はしてほしいと思う。しかし、今の若い先生方を見ていると何でもかんでもインターネットで調べ、それで事足れりとしている。今の教育現場が忙しいのはわかるが、これでは生徒も先生も満足できないのではなかろうか。