
『成しとげる力』(永守重信著)を読んでいる。永守氏は日本電産の創業者である。貧しい農家の6人きょうだいの末っ子として生まれ、28歳で日本電産をスタートさせ、従業員3人だった会社はいまや11万人の会社に成長した。日本電産は総合モーターメーカーである。パソコンのハードディスクにモーターが搭載され急速に業績を拡大させた。
永守氏の一番の愛読書は自著というだけあって、この著書に書かれている「永守語録」には生き方の勉強になることが多い。
「一番以外はすべてビリ」
その一つが著書の最初に出てくるこの言葉である。1973年に日本電産を創業したとき、社長である永守氏は3人の従業員を前に1時間40分の訓辞を垂れた。「目指しているのはモーター分野で世界のトップになることであり、兆円企業である」。たしかに、現代は一番が一人勝ちする時代だ。GAFAも囲碁も将棋も、みんな一番が圧勝している。だから「一番以外はみんなビリ」なのだと。
しかし、その一方でこうも言っている。仕事以外はビリでいい。仕事のストレスは趣味などに熱中しても発散しない。仕事のストレスは仕事でしか解消しない。
なるほどと、腹にストーンと落ちた。むかし大学に勤務していたころ、憲法のN先生や、刑法のO先生とよく囲碁を打った。お世辞にも強いとは言えなかった。でも、仕事は一流の仕事をしていた。そうか、これでいいのか。
「玄人はだし」という言葉がある。この言葉は、素人なのにその道の専門家(玄人)が慌てて履物も履かずにはだしで逃げ出すほどの腕前であるという誉め言葉として使われる。しかし、趣味にそれだけ情熱を注ぎ込むなら、それを本業に注ぎ込むべきではないかと永守氏は言うのである。
そう考えると、「玄人はだし」というのは決して誉められたことではないんだと合点する。囲碁は敗けてもいいし、絵もエレクトーンも下手でいい(笑)。アマチュアは楽しむことが一番大切なのだ。そんなにシャカリキになってどうする。そういえば昔、プロスキーヤーの先生が「スキーうまくなってどうするの?」と言っていたのを思い出した。