2月20日(木)、日本プレスセンターで開催された「末松誠AMED理事長・緊急講演会」のまとめを数回に分けて書き留めておきます。
この内容は理事長の話をもとに筆者が編集し直したものです(カッコ内は筆者が言葉を補った部分)。
◯当日の動画は、以下の場所に無期限で公開されております。
・ニコニコ動画
・Youtube
◯当日の講演と質疑応答を文字化したものが、堀江優美子氏(ポッセ・ニッポン代表、元読売新聞記者)のブログで公開されています(ごく一部を除き網羅されています)。
・講演内容
・質疑応答
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2020年2月20日 末松誠AMED理事長緊急講演会 〜理事長の発言から〜
第2回は「新型コロナウイルス感染症への対応」について。
緊急講演会では、FAの自律性と同じぐらい多くの時間を割いて、新型コロナウイルスへの対応についての言及がありました。
「感染症のアウトブレイクは戦争と同じである。国が一致団結してありとあらゆる知恵を集結する。普段は「自分は関係ない」と考える科学者にどんどん入ってきてもらって、消化不良を覚悟で、どうやってアイデアをまとめるか、それがAMEDの役割。そういう覚悟でやる。」
という言葉に、理事長がAMEDの役割をどう考えているかが集約されています。
1月31日、AMEDはWHO会議で「新興感染症対策のデータシェアリングポリシー」に調印した
先週、WHOの新型コロナの会議が2日間ジュネーブ本部であった。非常に重要なのは、ちゃんとしたデータをどこかの国、といっても日本と中国とか-日本は圧倒的に英文の数が少ないが-、そういったデータを論文に投稿する前にWHOにシェアして、論文のピアレビューは後回しにするということを皆で約束しようということについて、AMEDは1月31日、データシェアリングポリシーに調印した。
これによって何が変わるかというと、まずスピードが違う。研究者にとっては論文が命。ピアレビューをやって結果を待っていると、その分遅れる。また、ピアレビューは完璧な仕組みではない。中にコンペティターがいたら、足の引っ張り合いが始まる。
そういうピアレビューのプロセスを除いて、データが出た時点でWHOにオープンにしようと。非常に強い約束で、WHOにデータを出したかどうかジャーナルがチェックする。
WHOに行ってびっくりしたのは、中国からWHOに行っているデータに年齢階層別のデータがない。あるのに出さないのか、それとも無いのか分からなかった。妊婦への影響、胎児への影響はどうなのかというスタディがほとんどない。
日本は、中国以外では患者がたくさん出ている。医療従事者も国民の皆さんにも協力してもらって、信頼のおけるデータを科学の力でしっかり取って、基礎的にも臨床的にも、世界に使ってもらえるデータをもっと発信していく必要がある。我々自身にはその力はないが、叡智を結集すればできる。
この枠組みを作ったのが、ウェルカムトラストのジェレミー・ファーラー、Heads of International Research Organization (HIROs)のトップ。AMEDも5年前にメンバーになった。サインをしたのは、ほとんどすべてのFAと、ネイチャー、セル、サイエンス、ニューイングランドはもちろんのこと、ほかのメジャーなジャーナルは皆入っている。
これは実は今回が初めてではなく、2016年の2月に、ジカ熱の克服ということでもジェレミー・ファーラーが提案し、その後エボラで2018年のときにも調印した。
今年度中に新興感染症流行に即応できる研究開発プラットフォームをつくる
新興感染症流行に即応できる研究開発プラットフォームを構築していこうということが、きのう(19日)決まった。渡海(紀三朗)先生、古川(俊治)先生、丸川(珠代)先生、竹本(直一)大臣にもお話しがいったようだが、以下のようなプラットフォームを作ろうという案がある。
具体的には、我々のところで検討しなければいけないところは、
①病原体および感染臨床検体等の解析基盤の整備
②感染症ゲノムデータ解析と統合型データの共有。データの共有と維持、蓄積。これが次のウイルスがサージした時に必ず役に立つはず。
③新興感染症に対する研究開発に係る新規基盤技術の開発。公募になるだろう。
④感染症分野の臨床学的創薬基盤の充実。ルーンショット(以下に説明)にあたるもので、こういったものを若手の人たちにできるだけアイデアを出してもらい、どれとどれを組み合わせたら役に立つものができるかということをやってみようと考えている。
具体的なところは詰める必要があるが、今年度に動かせるお金が(令和元年度第2回調整費から)25億円ほど確保できた。これは政治家の皆さんのおかげだ。
厚労省も当然、補助費というお金を出していて、いくらかはわからないのだが、鈴木康裕医務技監とも連絡を取って、貴重なお金なのでそこはデマケーションである。AMEDがやっていることと厚労省がやっていることが重ならないように。厚労省だとやりにくいけれどAMEDのお金だとやりやすいことと、その逆。研究よりも行政に近いところは厚労省のお金を使おうと。
厚労省が行政の力で解決しないといけないことが、コロナだけでもたくさんある。その部分の研究開発を我々の予算で補完するということを、厚労省とよく相談しながらやっていこうと考えている。
AMEDは感染症以外の分野でもデータシェアリングを重視してきた
先のダボス会議では、これから20年30年大事なことが4つあると示された。① Global Data sharing & linkage、② Silver marketの構築、③ ethics & equity(③は感染症では特に重要)、④ 労働人口を増やす。
データシェアリングはこのなかの重要課題の一つとして位置づけられており、AMEDでは第1期に「画像兄弟」(JEDI)と「難病未診断疾患プロジェクト」(IRUD)を構築した。
AMED第1期からの挑戦として、広域連携と分散統合を実際に特定の医学領域でやってみる
コロナウイルスの問題に対処する時に、これは日本の強みなのか弱みなのかわからないが、あす(21日)京都大学で公衆衛生・疫学系の4学会が初めて集まって合同シンポジウムがある。
彼らが力を結集すれば日本全国からいろいろなデータを集めて研究対象にできる。しかし残念ながら、疫学の領域は感染症の専門家が多くはないが、ネットワーキングがおそらくうまくできていないのではないか。日本がもし、アウトブレイクがもっとひどい状態になったことを考えると、彼ら(感染症の専門家)の力も欲しい。
「自分は専門家でないから何もできない」ではなくて、専門家でないからこそ思いつくことがあるはずである。AMEDは触媒機関であるので、そういう人たちの力をどう結集させるかが課題になっている。
未知の課題にヘテロな専門家集団で競争と協創で挑む
未知の課題にヘテロな専門家集団で、ここが大事なのだが、競争と協創で挑む。未知のものに対しては、有識者や専門家はいない。今回のコロナウイルスも、ウイルスの専門家はいるかもしれないが、「他にもっと必要なものがないだろうか」というのが、非常に重要な切り口となる。
ムーンショットよりも「loonshot」
ムーンショットというのがいま流行っているそうだが、コロナの対策は「ルーンショット」が必要なのではないかと思う。
ルーンとは、「クレイジーで小さいが、面白いアイデア」という意味。そういうアイデアを感染症領域以外の人から集める。パラボラアンテナを何千個も地球に据えて、ブラックホールの画像をためて作ったそうですね、こういうやり方もいいんじゃないか。特定の1人に大きなお金を配るよりも、ルーンショットというやり方も未知の敵を倒す上で必要なのではないか。
国民に大きな被害を与えうる新興感染症に的確に対応するには、感染症の専門家だけでなく、それ以外のいろいろな専門をもつ科学者のアイデアを募り、統合することが必要。
臨床研究は臨床研究治験基盤事業部で厚労省と協調して進める
国際医療センターを中心に一部の臨床研究が始まりつつある。薬のチョイスのほか、既存の抗ウイルス薬にインターフェロンγを併用するとどうなるかとか、あるいは重症肺炎に対してステロイドホルモンを使用すると、いい場合と悪い場合があるが、本当に生命の危機に瀕した際にステロイドホルモンが有効だった場合がSARSの時にあったので、今回はそれがどうなのか等。そういったことを見極める臨床研究が、今後必要になるだろうと思う。
今のところ、国際医療センター、厚労省が主導で動いている。今回、コロナに転用できる金額が渡海先生、古川先生のおかげで、相当なお金が出たので、新しい臨床研究が組める。臨床研究治験基盤事業部で、それを厚労省と協調してやっていく、プラットフォームの中に含めていこうと検討が始まっている。
国会での政治的な動きとの関連
野党の皆さんからも厳しい質問をいただいているが、絶対に足を取られない。なぜならば、安倍総理はおそらく、この新型コロナをどうにかしないと大変だと一番考えておられる。僕らのスタンスは、そこをずらしてはならないからだ。
昨日、国会で与党と野党のやり合いを見ていた。国会を軽視するわけではないが、感染症のアウトブレイクは戦争と同じである。国が一致団結してありとあらゆる知恵を集結する。普段は「自分は関係ない」と考える科学者にどんどん入ってきてもらって、アイデアをどうやって、消化不良を覚悟でまとめるか、aggregate(集合)するか、それがAMEDの役割だと思っている。そういう覚悟でやっている。
(「カナリア」として安倍首相のことを信じているか、という問いに対して)
首相のコメントはだんだん変わっている。非常に緊迫した変化のしかたに。総理を信じないで、誰を信じるのか。そこがイエスと言わないと動かない訳でしょう。そんな時に、桜の会とか、おかしいでしょそれ。ウイルスは野党も与党も襲うし、年度切れとか越えとか関係ない。やれることをベストでやって、その思いがトップに伝わればきちんとした方向に動くはずだ。日本にはまだ挽回するチャンスがある。
戦略室には緊急時にも即応できるフラットな組織体制をお願いしたい
AMEDがいま一番困っているのは、やはり、決定プロセスの遅さ。我々は、戦略室がきちんと了解するということは必要だと思う。政府がやることになるから。
戦略室には30人ぐらいいると思うが、サイエンスのわかる人がもう少し入ってきてもらって、我々が提案させて頂いたことをちゃんと吟味してもらう。これがいけない、あれがいけないというマイクロマネジメントが多すぎると、それだけスピードが遅くなる。我々の職員も疲弊する。今はそれがルールなので、やむを得ないなと思っている。
しかし、今回のような緊急対応が必要な場合に、同じようなことをやっていたのでは、決まるまでに時間がかかりすぎる。
例えば、国際交流で自分が行って、相手の国の代表と会って、データシェアリングなどはその場で「OK! やろう!」といえば終わり。それを、「ちょっと、あの、東京に帰って訊いてみる」なんて…。絶対にやってはいけない。行った人間が、その場で決めなきゃいけない。そこは未だに、戦略室とは見解が違う。
私の下で働いている皆さん素晴らしくて、フラットな組織。同じように戦略室もトップがいてもフラットな組織であっていてほしい。
感染症は今後、地政学と医学の関係を重視すべき
感染症において我々は今後、地政学と医学の関係を重視していかないといけない。リトアニアがなぜAMEDに協力を要請したか。地政学的な視点に立つと、リトアニアは歴史上、周囲国から侵略を受けてきた国である。そのようなところで、周りの国と信頼関係が成立するか。信頼がなければ、データのシェアもできない。
これと同じことが、今の新型コロナでどうなのかという点も真剣に考える必要がある。日本でも、備蓄で持っているある薬について、国際医療センターの先生が一生懸命、臨床研究を始めている。たとえば厚労省とか政府の強力なイニシアチブで中国に使ってもらうとか。中国は薬のコピーを作る上で天才的だ。悪い意味ではなく。緊急時は特許に関係なくコピーを作って構わない。そうとわかっているのなら、備蓄を使ってどういうデータが出るのか一緒に取ろうじゃないかと。やっていいように思う。SARSの時も、東大医科研や国立感染研の先生たちが中国で大きな貢献をして感謝されている。