世界の移民政策、移住労働と日本

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外国人労働者受け入れは日本をダメにする

2008年06月25日 | 移民関連の本や映画
外国人労働者受け入れは日本をダメにする (Yosensha Paperbacks 34)
小野 五郎
洋泉社

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本書はそのタイトルから鎖国論の類の印象を与えるが、よく読んでみるとそう頑固でもない。日本の経済の発展のためには外国人労働者受け入れが決して最善の案ではないとする論調であるが、たとえば最貧国からの受け入れには柔軟な姿勢もみえる。また、受入れにあたり発生する社会コストを回収するために外国人税を導入すれば自然と不必要な受入れは減るとも主張する。これはつまり、社会コストの問題等の解決がなされれば、門戸を開けておいても平気だという論調とも受け取れる。

しかし、この挑発的なタイトルのほうが本の売れ行きはよいに違いない。

日本では、移民論が社会・政治論で語られることは多くても、この本のように経済や産業構造といった視点からの読み物が少ない。あったとしても経団連の主張を鵜呑みしたような議論であったりする。そういった意味でこの本は受け入れの是非を多角的に議論するための必読書であろう。受入れのコストとベネフィットの本当の受益(損)者、そして外国人労働者が産業全体に与える影響など、ノンエコノミストの私には、非常に勉強になった。淘汰されるべき、また大幅な改革が進むべき産業に外国人労働者を投入することは、ただ問題を先送りにするだけで、日本を生産性の低い国へと導くだけだという。

本書のが提示する議論はかなりの点で納得するところが多かったが、以下の点で少々より深い議論が必要であるように思った。

著者は「ウソ」とまで言い切るのが、海外出稼ぎが母国経済貢献するという命題。果たしてそうだろうか。著者はその理由として4点あげているので、ひとつひとつコメントしていきたい。①途上国に必要な頭脳の流出---母国経済に海外出稼ぎがマイナスの要因となる場合とは、単に高度人材の大量流出が起きているときではなく、人材供給が需要に追いつかない場合のみである。人材供給過剰であり、国内で雇用が創出できないのであれば、短期ベースの海外就労はむしろ更に推し進めるべきである。人口が爆発的に増えたアジア諸国では高い教育を受けた人材の国内での人あまりが深刻化している。

②働き手の喪失による産業基盤の崩壊-少なくとも人口過多のアジア諸国ではこの現象は広範囲で認められない。また最貧国の場合もともとの産業基盤も小さく問題とならない。③伝統的な社会経済秩序の急激な崩壊ーこれはグローバル化の流れをうけ、出稼ぎをしていようがいまいが、進んでいることである。またアジア諸国では国内移動が増えたことですでに社会秩序が崩壊している場所も多い。逆に中東への出稼ぎが増えたことでイスラムの伝統主義が改めて強まったコミュニティーもある。秩序崩壊を出稼ぎに主に帰納させるのは無理がある。

④送金の増加によるインフレ:送金による投資効果、生活の質の向上効果をはかり、それとインフレによる負の影響を秤にかけてみないとわからない。世銀の研究などでは送金による貧困層の削減の効果が多くの国で認められている。①-④のほかにも、不況の際の大量解雇の恐れが多いこともあげられているが、アジア通貨危機の際も労働者送金が大きな滞りなく、母国に送りつづけられたことが確認されている。

筆者は海外出稼ぎが母国の経済成長に貢献しないとする論の賛同者として、出稼ぎ者の母国で働く青年海外協力隊のコメントを引用しているがこれは過多のバイアスがかかっていると考えたほうがよい。そもそも出稼ぎ労働者はリスクテーカーであり、一攫千金を狙う彼らは、農業で一生生計を立てたいとは思っていない。例えば農村開発に従事し、、村内の協力体制を高める作業を担う隊員にとってこんなアウトローの出稼ぎ者は目障りであろう。たしかに協力隊は現地の現状を伝えることができるが、従事する業務のバイアスがかかった見方になってしまうのではないか。JICAも海外出稼ぎについては、せっかく技術研修をした人が海外に出て行ってしまうのであまり快い傾向だとは思っていないはずである。これはJICAに限らず援助機関全体に当てはまる。出稼ぎと開発の相関関係についてはもっと議論されるべきであるし、それが日本の移民政策に影響を与える日もそう遠くないのではないか。伝統的な移民受入国では、これはではすでに起きている現象である。

もうひとつ気になる記述がある。筆者は本書の中で「二国間協定」が無力でそれどころか送り出し国が労働者を送金稼ぎのツールとして使われているにすぎないと複数の箇所で述べている。確かに二国間協定(Bilateral Labour Agreement = BLA)はそれだけでは十分に労働者の保護を確約できるものではない。付随する実施要綱を定めなければただの紙切れに終わる。移住労働問題がすべてBLAで解決すると考えるのは誤りだ。しかし、世の中には非常に優秀なBLAもある。労働争議解決のための二国間協議を定期的に開催することを定めたもの,詐欺や偽装を回避するための細かな派遣プロセスを記述したものなど、既存のBLAテンプレートををそのままコピーペーストするのではなく、送り出しと受入国の抱える課題点をしっかりと捉え、それに沿った解決策を提示できるものであればその効果が期待できる。加えて述べるなら、BLAがなければまったく外国人労働者の保護を明記したよりどころ(法的根拠)がない受入国(中東など)もあり、労働者の基本的権利を明記する大切な役割を果たしているのである。そういった意味でBLAを軽視することはできない。

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