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橋下徹の慰安婦発言:TPOを弁えてはどうか

2013-05-14 23:55:11 | 政治
橋下氏の慰安婦発言が話題になっている。どのようなコンテキストで発せられたのか詳しくは知らないのだが、要旨は次の3点に集約できそうだ。

1.第二次大戦中、慰安婦としての従事を強制させられた韓国女性には謝罪するべきである。
2.高度のストレスの中、軍務に従事する兵士にとって慰安施設は必要である。
3.沖縄駐留米軍は、日本の合法的な風俗産業を利用してはどうか。

仮に慰安行為の強制が事実なのであれば、1.に関しては基本的に同意である。ただし金銭を含む補償という点については、日韓基本条約との整合性が求められるのは言うまでもない。

2.に関しても、基本的に共感できる。一般論として、若い健康な男性が強い性欲を抱いていることは否定のしようがない(その結果として我々人類は営々として子孫を紡いで来たのである)。戦争という異常な状態の下、抑圧され続ける中で、健康な男性が、理性に反して性欲を暴発させてしまう可能性は容易に想像し得る。実例はいくらでもある。歴史を紐解けば、洋の東西を問わず、兵士による強姦は枚挙に暇がないのだ。戦争という無秩序状態においても、少しでも一般市民への損害を軽減するためには慰安施設により性欲の充足を図ることは理にかなった対策といえる。

3.に関しても、同じく共感できる。本国を遠く離れた兵士達には欲求の捌け口が必要である。相手の合意の上に成り立つ合法行為であれば、それを否定する理由はない。特に日本のマスメディアは米兵による性犯罪を含む犯罪行為については敏感である。ともすれば、このような犯罪行為を繰り返す米軍の駐留は許せないと言った論調で、日本のNational Securityの根幹である日米安保条約に否定的な論陣を張る。日本の国益を擁護するうえでも、性犯罪未然防止のため、合法的風俗産業を活用するという考え方は、あり、だと思う。

つまり、私は橋下氏のこれらの発言に共感できるのであるが、それであっても、彼は今このタイミングでこのようなことは言うべきでは無かったと考える。

その理由として、特に2.と3.に関しては、論争を巻き起こしかねない(controversial)、微妙な話題であること。そして今それを口にすることで、我が国(あるいは日本維新の会)にとっての恩恵は期待できないことである。

容易に想像できたことではあるが、福島瑞穂等女性議員は、2.に関して、女性の人権を否定した発言である、として、橋下氏を強く非難している。慰安行為、すなわち売春は人類最古のビジネスの一つとも言われており、今も多くの国で合法的ビジネスである。慰安行為全般を女性人権の否定と断ずることは、合法的売春行為に従事する女性の存在を無視、ないしは否定するもので、取るに足りない浅はかな発言である。しかし、国内ですら慰安婦問題については国論が二分されている上に、海外では、慰安婦強制連行を認めない恥知らずな日本という感情論も根強い。このような状況下で、いきなりこのような発言をしても、慰安婦問題を正当化するための見苦しい言訳と、受け止められるのが関の山であろう。

また、3.に関して米軍の立場から言えば、余計なお世話である。それどころか米軍を侮辱する発言として捉えられてもおかしくない。軍という組織を維持していくうえで規律遵守は絶対である。規律違反を許していたら軍隊は成り立たない。そして彼らは買春を禁止しているのである。そんな彼らに、性犯罪を抑止するために買春するべきである、と言っているのだ、橋下氏は。軍組織の(犯罪抑止の)ガバナンスを疑い、規律の改悪を一方的に放言しているのである。これでは、軍関係者のみならず米国政府の面目丸つぶれである。正論かもしれないが、これでは誰も耳を傾けない。

では、どうすれば良かったのか。

まず第一に、このような発言は慎むべきであった。日本は国際社会に対して、このような発言(特に2.)を発信する準備をしてこなかったし、相手方にも受け止める土壌はない。

二点目として、慰安婦問題を徹底的に調査し、事実関係を明確にするべきである。その上で、国民に対し、日本国の立場を開示し、啓蒙する。

そして、最後に、海外諸国(政府、議員、メディア)に対して慰安婦問題に対する日本の立場の理解に努める。ここまでしてようやく、今回の橋下氏の発言に公平に耳を傾けようという準備が整ったといえる。

橋下氏は、米国はずるい等々、お得意のTwitterで情報発信しているようだが、残念ながら子供っぽいという印象を抱かざるを得ない。ある種やんちゃ坊主的なキャラでこれまで売ってきた訳だが、複雑な利害関係が絡みあうこの種の問題については、マネジする能力が不足していると言わざるを得ない。国会議員の一人が、橋下氏には国政に参加する資格は無いと非難していた。資格は無いというのは言い過ぎであるが、少なくとも国政を担うためには、自身の発言や行動に先を見据えた戦略が求められると考える。