4/9 投稿 僕の恋人は６０歳 １２話

4/9 投稿 　僕の恋人は６０歳　　１２話


それでも僕は福子さんに会いたくなった。

それでいつものように金曜日の仕事終わりに行った。

いつものようにケーキも買った。


福子さんは玄関の戸を開け、僕入ると　ひろちゃんと言って

僕を抱きしめた。

ダニエルが電話してきて話したわ。　本当にありがとう。


それから僕は手を洗ってうがいをして

台所のテーブルについた。


カツカレーだった。

そうだ、僕は福子さんのカツカレーが食べたかったんだ。

サラダもあった。

レタスも入っていたけど、いろんな野菜が入っていた。

それはカラフルな絵画みたいなサラダだった。


僕はカレーというソースをかけたカツをまず食べ、それからカレーライスを食べ

空いた皿に山盛りのサラダを置き、横にカツとカレーを並べて

交互に食べた。


僕、福子さんのカレー大好き。


福子さんは今夜はと言いかけて黙った。

僕はいたづらっぽい顔をつくって　これダニエルのレシピでしょ？と言ってみた。


福子さんはひろちゃんは本当に勘がいいんだからと笑った。


福子さんは僕の感情を察していたんだ。

あなたのこと、デニエルと話したわ。


エっと僕は福子さんを見た。

ダニエルも気がついていたわ。


僕は急に食欲が失せて、それでと聞いた。


ダニエルは私次第だって。

だって私たちすごく長いこと別れていて、シチュエーションがまったく違うわ

ダニエルが私は最近、ひろちゃんに会ったのだし、

ひろちゃんは今の私を知っているから

私がひろちゃんを選んでも怒らないって。



僕は福子さんがどうしてダニエルを愛したかわかったような気がした。

ダニエルっていいヤツ、なんていいい男なんだろう。


急にデニエルに言われたことを思いだした。

福子さん、最初に会ったとき、ダニエルに僕は福子さんの息子って聞かれたんだ。


福子は現実に引き戻された。

福子は息子みたいな男との結婚は、やっぱり間違っていると思った。


そうだったの、ひろちゃんが息子だったらよかったのにと福子は言って

手で顔をおおった。

その瞬間、僕は福子さんが僕を愛しているって感じた。


１０日後、福子はフランスに飛びたった。



２人はシャルル・ド・ゴールのターミネルにある大きなホテルに

チェックインした。


ホテルのスイーツルームで２人は互いを求め会った。


福子とダニエルは手をつないでパリの、２人で歩いた街を歩いた。

なにもかも懐かしく、ほぼ半世紀を経過しているのに

懐かしいパリだった。

ずいぶん変わったのに、何も変わっていないパリだった。



パリで二日ほど過ごしてからダニエルは福子をシャンティイの自宅に連れて行った。

デニエルの家はシャトーの広い庭の一角に建てられた、

これもちょとっした城だった。

道々ダノエルは２人の結婚の話をした。


兄はね、結婚を２回したんだけど、子供もなく今独身なんだ。

僕たちは結婚はできるけど

子供はもう無理だと思うんだ。


姉の子供の一人がド・カミラール家を継げると思うんだ。

僕たちの養子にしていいかしら？



福子は賛成しか方法はないと思ったけど

なぜか、すぐウイとは言えなかった。


福子は沈黙した。

ダニエルは砂利道の木の下に車を止めた。

それからややうつむき加減の福子のあごに手をかけて

上を向かせた。

どうしたの？

私、あなたの子がほしいと福子は言った。

ね、決定する前に医者に行かない？


今度はダニエルが沈黙した。

治療して僕に子供が作れるかしら？

と考えて、それから福子にそう言った。


私、城の相続はどうでもいいの。

あなたの子がほしい。あなたの子を産みたいの。

ずっとそう思い続けてきたの。

ダニエルは福子を抱きしめた。

思えば、若いときの福子は動物というより、メイク・ラブ中は獣だった。

ダニエルに吸い付く福子は一滴ももらすまいとでもするかように

ダニエルを抱きしめた。

そう、あの頃もあなたの子がほしいって言ってたっけ。


もうそんな力はなくなっていた福子だったけど

気持ち的には昔のままなんだ

とダニエルは思った。

福子を抱きしめたままダニエルはわかったと言った。

そして一緒に日本に行ってみるよ

と言ってから車を出した。



ド・カミラール家の人たちは福子との再会を喜んでくれた。


ダニエルの両親はダニエルのお嫁さんが戻ってきたと言った。