2/20 二卵性双生児 1話 出会い
こうこ・虹子がそうた・宗太、どっちが先に好きになったか?
宗太は若く見えたけど、父より少し若いだけだった。
それを虹子が知ったのは付き合いだしてからだった。
一緒にいると宗太の言うことなすこと、父親っぽい。
ある日、虹子はイライラしたあげくに
なによ、お父さんみたいことばっか言ってとわめいてしまったのだ。
宗太はむっとした。
若いつもりでいたからだ。
お父さんいくつよ?
52かな?
宗太は3歳しか違わないのかよと思った。
彼自身若く見えることが自慢でもあったし、
同年代の父親を持った女の子とつきあうことなんて考えたことがなかった。
それは友人の娘と付き合っているようなものだ。
宗太の家の台所でその日虹子は料理をしていた。
それは宗太に言わせれば料理なんてものからほど遠い代物だった。
面倒だからと味噌汁に餅を入れて
雑煮風にすると虹子は彼女の案を言った。
宗太は虹子にアイディアはいいっと確かに言ってしまった。
宗太は味噌汁の味見をした。
出し使った?
出し? いる?
虹子は水に野菜を突っ込んで煮て、煮えてきたようだったので
沸騰している中に味噌を入れたのだ。
それだけでも宗太はウンザリした。
味噌を煮ては駄目だよと後ろから言った。
しかも餅は焼いてもいなかったから、鍋のそこにくっついていた。
そしてちょっと汁の味見をした結果が出し使った?なのだった。
餅はまだ煮えてなくて、味噌は餅が煮えるまでさらに煮ることになった。
ここで作り直したら、あいつをすごく傷つけるだろうなと思うと
俺が作ると今更言えなかった。
虹子には俺の年を言うのはやめよう。
そういうことになった。
虹子のいう雑煮を食べた。
虹子は、うん 美味しいとすごく自慢気だった。
宗太は黙って食べるしかなかった。
これから食事の準備は俺がやろうっと、宗太はそう決意した。
それでも虹子といるのは楽しかった。
家が明るくなった。
もし虹子が望むなら結婚してもいいと思っていた。
でも虹子は急いでなくて、それどころか、もっと他の男性とも
お付き合いしたかった。
だから宗太とのデイトのドタキャンなんてよくあることだった。
そういう時はもっと同じ年代の人をさがそうかと思った。
虹子というのは楽しかったけど妻として家庭をまかせるのは・・・・
宗太自身、迷った。
金遣いが荒いというか、金銭感覚がなくて、あればあるだけ使ってしまう虹子。
お金が無くなればもらえばいいと思っている虹子。
2人だけの住まいと言えど、風呂から出てスッポンポンで歩きまわる虹子。
虹子、いくらなんでもそれは止めなさいよと宗太が言う。
幼児に服を着せるように追いかけまわしてパンツをはかせ、大きなバスタオルでくるんだ。
その虹子がばっちりメイクをし、ビシっとスーツを着込み
さっき出て行った。もう夕方だった。
こんな時間に? 宗太は少し何をしにいったんだろうと
いぶかしく思った。
虹子は夜中の2時過ぎに帰宅した。
部屋で虹子が帰ってきたのを知って、宗太は涙が出るほど安心した。
叱っては駄目だと自分に言い聞かせ、玄関に出た。
まだ距離があるのに酒の臭いがした。
玄関先に座り、ああ、疲れたと言った。
飲み会? と聞くとそんなものかもしれないが返事だった。
虹子の靴をぬがし、肩をかして寝室に連れて行った。
何か聞くまもなく、虹子はそのまま寝入ってしまった。
翌朝、そろそろ仕事を始めようかと思っているころ
虹子が起きてきた。
宗太は自宅で仕事をしている。
新聞や雑誌にコラムを書いている。
宗太はどうせ邪魔されるからと仕事は後にまわした。
宗太、私のハンドバッグどうした?
ハンドバッグ? 知らない。宗太は思い出してみた。
それから彼女が帰宅したとき、靴はぬがせたけど
ハンドバッグはなかったと思った。
夕べもってなかったけど、タクシーかに忘れたんじゃない?
虹子が考えている。
夕べは誰かがおくって行くって言ったけど
その後、タクシーだ、タクシーに乗った。
お金を払ったのを思い出したのだった。
それからタクシーを降りたとき、ハンドバッグは持っていた。
その後、どうしただろう?
虹子は自分の記憶を声に出しながらトレイスする癖があった。
じゃ、宗太は急いで玄関に行き、ドアを開けた。
ハンドバッグはドアの外のドアノブにかかっていた。
若い女の子が記憶をなくすほど飲むんじゃないよと
宗太は言った。
虹子はチラと宗太を見た。
そしてウザっと口の中で言った。
虹子は宗太の年齢を聞いたことはなかったけど
せいぜい、最悪、32歳くらいに思っていた。
2人の出会いだけど、
虹子が家の前を通った。
紙を持って、住所を見ながら。
それから30分もしないうちにまた通った。
キョロキョロしている。
何かお探しですか? 宗太が声をかけた。
虹子はどこか部屋を貸してくれるとことないかしら?
今1軒見て来たけど古すぎ。
部屋なら貸せないことないけどと宗太が言った。
虹子は見ていいと聞いた。
中に入れた。
広い玄関、吹き抜けのような高い天井。
幅の広い廊下があって、突き当りが台所とダイニング。
その横にテレビのある居間。
反対側に風呂場とトイレ。
その廊下をはさんで、部屋があった。
右に畳とフローリングの部屋。
窓はあるから明るかったけど、日差しはなかった。
左は窓があり、日差しの降り注ぐ部屋が3つ。
外は庭だ。
そっちの畳の部屋とフローリングの部屋。
光熱費込で月12000円でどう?
虹子はいいと思ったけど、朝ご飯はと聞いてみた。
朝ごはん?
どんな朝ごはんならいいの? と宗太。
パンでもご飯でも。おかずはなんでもいい。
それじゃ、朝ご飯もつけるよ。
学生さん?
うんまあ、留年した。
親御さんは?
いるよ、世田谷区。
どうして親のうちから通わないの?
うるさいのよ。
門限まで、私をいくつと思ってるのよ。
家賃は誰が払うの?
親。
親御さんと話せるかしら?
まあ、話してもいいけどとスマホを出して呼び出した。
ワタシ、今部屋を見つけた。 家主さんが話したいって。
もしもし、わたくし、藤村宗太と申しますが
ああ、あんた名前は? 電話口をふさぎ聞いた。
部屋を借りたいってお嬢さんが言ってますが、ご承知ですか?
母親だった。
まあまあ 御世話になっております。
家からでたいと申しておりまして、いい部屋ならということで許可したんですが
それから延々30分、いやもっと話した。
こうして虹子は宗太の家に下宿することになった。
宗太は引越しについて来たので虹子の両親にも会った。
虹子の父親が宗太の書いたものを読んだことがあった。
宗太と父親は話しているうちに、早慶のようにスポーツで対校している
関係の大学出だったことがわかった。
両親の前で宗太はごく常識的だった。
それが虹子の両親を安心させた。