1/1 モアノー探偵事務所 ケンちゃんの友達がいじめに 第5
ハルさんは土曜日の午後店を閉めると駅前の商店街に行ってみた。
そこには中型のショッピングモールがある。
その中に岡本君のおとうさんのやっているレストランとか店があると聞いたのだ。
ハルさんは名前を知らないその店を探してみようとしたのだ。
レストランは昼食時間のピークは終わったものの、どの店内にもけっこうな客がまだ食事をしていた。
ハルさんは少し後悔していた。 昨日中学校で売店をまかせていた正子さんにこの情報を聞いたのだけど、もっと調べればよかった。
1階から2階に上がるエスカレーターに乗った。
上の階は小売店が多く、さらに奥には銀行なども入っていた。
ハルさんはエスカレーターを登りきってどちらに行こうかキョロキョロしていた。
銀行側は人気が少なかった。
手前の銀行の前には数人の若者がいた。
一人は学生服だ。 そしてその学生服が押し殺した声で何か言った。
ハルさんには聞き取れなかった。
しかし、その中の一人がハルさんの注意を引いたのだ。
岡本 隆!
ハルさんはさりげなく柱の陰に身を移すと耳を傾けた。
「岡本、お前、カード持っているんだろ?」
学生服の方が言った。
岡本は何か言ったのだが、ハルさんには理解できない。
でもハルさんはバッt前に出た。
「岡本君じゃない! 何をしているの、こんなところで?」
岡本はハルさんがパン屋のおばさんだとすぐにわかった。
「こんにちは、おばさん。兄さんに友達の西山さんと小山さん。ちょうど会ったもので。」
「まあ、お兄さんのお友達なの! こんにちは、おにいさんは高校何年生だったかしら?」
ハルさんはやさしく言ったつもりだったのだけど、ハルさんのちょっとした問いは取り調べに響いた。
高校生の二人は以居心地が悪くなった。
西山が「僕は一年ですが、彼は2年です。それでは僕たちはこれで。」
と二人はそそくさとその場を去った。
二人が視界の外に出るとハルさんは岡本の背中をそっと押した、前に歩こうと促した。
「岡本君、土曜日は学校があったのじゃない?」
「エ? あー、でも午前中だけなんです。 それに僕はきょう休んだので。」
ハルさんの心の眉がよった。
「僕、そろそろ塾に行く時間なので・・・・」
学校は休んで塾にはいくの?
「塾では何をやっているの?」
「英語の塾なんです。 ネイティブの先生がいるので、発音なんか教わるのにいいんです。」
「岡本君は英語が好きなのね。
「好きってわけでもないのだけど、発音を直したくて」
岡本の顔は複雑だった。
純平の母が学校で担任に「岡本君は勉強もできるし、」と聞いたと言ったのを思い出した。
「発音なら山田君に手伝ってもらえばいいじゃない?」
ハルさんには特別な意味はなかった。
岡本君と山田君がなにかの取っ掛かりをえれば、そんな軽い気持ちだったのだ。
ふと岡本に目をやると顔が白くなって両手のこぶしを握り締めている。
あまり強く握り締めているので、両こぶしがブルブル震えていた。
ハルさんがどうしたの?と聞く間もなく、
岡本は吐き捨てるように「誰があいつなんかに」と言うと走りさったのだ。
ハルさんは茫然と立ちすくんだ。
岡本と山田君が仲良くなるきっかけになるかもしれないと考えたハルさんの浅知恵が
もしかしたら、二人の仲をさらに裂いた?
ハルさんは対策も思いつかずにしばし歩くのも忘れていた
私はとんでもない馬鹿なことをしてしまったみたい。
ハルさんは泣きたかった。