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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

パール・ハーバー(V)

2008-07-15 18:08:05 | 映画(は)
評価点:37点/2001年/アメリカ

監督:マイケル・ベイ

映像の完成度の高さにより、たんなる恋物語から一線を画す作品。
そして、これはひどい映画だ、とけなすために存在する作品。

レイフ(ベン・アフレック)とダニー(ジョシュ・ハートネット)は、ともにパイロットを目指す幼馴染。
優れたパイロットであるレイフは、ドイツの激しい軍事侵攻に対抗するために、イギリスの空軍特殊部隊に志願する。
その後恋人イヴリン(ケイト・ベッキンセル)と出会い別れ惜しくも、レイフはイギリスで目覚しい活躍を見せる。
一方、ハワイのパールハーバーに派遣されたダニーと看護婦のイヴリンは、あまりの平和さに拍子抜けするといった状況だった。
やがてレイフは作戦に失敗、行方不明という知らせがハワイにもたらされた。
親友と恋人を失ったダニーとイヴリンはやがて惹かれあっていくのだった。

真珠湾攻撃のシーンはすさまじい映像の連続で圧巻の一言だった。
DVDのメイキングの話によると、45分間連続でゼロ戦での攻撃シーンを見せたとのことだ。
数多く戦争映画はあるが、ここまで複雑な爆撃シーンを描いたのは珍しいのではないか。
この45分間を見るだけでも十分価値がある。

▼以下はネタバレあり▼

しかし肝心のドラマの部分がいただけない。
前半の展開が、
恋人ができる。
レイフがイギリスの空軍部隊に志願する。
レイフが行方不明になる。
ダニーとイヴリンが恋仲になる。
レイフが戻ってくる。
というありきなりなドラマを見せるだけのためだけにあるので、冗長気味になり「タイタニック」のようにだれた感じになる。
途中「パール・ハーバー」という映画のタイトルを忘れそうになった。

そもそもイヴリンの二転三転する恋模様には正直うんざりする。
もっとイヴリンの心の葛藤を描かないと感情移入しにくい。
こっちが駄目ならこっちという彼女の態度では、二人の男があまりに可哀想過ぎる。

しかもその展開がかなり読めるので退屈してしまう。
ありきたりなドラマだけで前半をみせようとするのはかなり無理があるだろう。

しかし問題はそれだけではない。
日本の描かれ方が、まったくいいかげんなのだ。
英語をしゃべる日本人に口パクの日本語をあてていたのには閉口した。
一瞬、大塚(声優名)さんの声が出てきたとき混乱してしまったほどだ。
けれど日本人の台詞にまったく英語字幕が出ないので、やはり原作では英語をペラペラ喋っていたのだろう。
そもそもこの映画全体が日本の存在を無視したものになっている。
アメリカのための映画であり、この映画になんの疑問も抱かずに感動できた日本人がいるという事実は、僕を憂鬱にさせる。

吹き替え日本人以外にも、日本軍が会議を開いているシーンが三度四度あるが
これもかなりお寒く、そして憤慨ものだ。
青空の下でしかも変な旗で囲っただけの場所で、国家機密の真珠湾攻撃の会議を開いているのだ!
ありえない。
一方のアメリカはなんかお金がかかってそうな、重厚な会議室で議論しているのにだ。

メイキングの最後のほうで、製作者ならびに俳優たちが、アメリカにおけるパールハーバーの歴史的意義について熱く語ってくれるが、そのなかに「japan」という単語が全く出てこないことがこの映画の方向性を示している。
攻撃を受けたあと東京に報復爆撃を敢えて挿入したのには、こうした「強いアメリカ」を象徴したかったのだろう。

この映画を見る限り、パレスチナ―イスラエルやインド―パキスタンなどの問題が、
アメリカの手では解決しえない事がうかがえる。
あの東京への攻撃によってこの映画が民主主義を鼓舞しようとする、アメリカの「意志」が具体化したようで恐い。

前半部のドイツ軍、イギリス軍の描き方も日本同様かなり適当で自己中心的な印象を受けた。
彼らアメリカ人にとっては他人の文化などどうでもいいようだ。

ドラマの話に戻すと、最後、ダニーは死んでしまうがこれも紋切り型だ。
あの展開でダニーを殺す以外に映画を終らせる方法がない。
彼が生きていてはハッピー・エンドにならないからだ。
製作者側の一方的な意図によって、とりあえず殺した、という印象しか持てない。

そもそも彼ら二人の物語を描くのに、真珠湾攻撃というシチュエーションは必要だったのか。
ドラマと真珠湾攻撃が妙にミスマッチなような印象がある。
ドラマと真珠湾攻撃が別個に考えられていて、それを無理やりくっつけたのであれほど長い映画になったのだ。

映画は商業的にも短いほうがいい。
表現方法としても受け取りやすいものでないと、受け手には伝わらないことが多い。そういうことも考えて欲しかった。

全体的な印象は「タイタニック」に酷似している。
けれどタイタニックには対戦国などいない。
パール・ハーバーにはドイツ、日本という対戦国がいる。
それらをまったく漂白して描けるほど歴史は甘くない。
この映画を見て、ふと思ったのは、こうした映画はおそらくアメリカに溢れている。
テロを題材にしたアクション映画は、ほぼ相手国を無視したような展開や設定が多い。
日本が「相手国」になって漸くそのことに気づいたような気がする。

(2002/08/31執筆)

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