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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

LIFE!

2014-05-02 07:24:46 | 映画(ら)
評価点:72点/2013年/アメリカ/114分

監督:ベン・スティラー

この映画よりももっと端的に示した故事成語がある。「案ずるより産むが易し」

雑誌「LIFE」のネガ管理担当のウォルター・ミティ(ベン・スティラー)はさえない日常を送る42歳の独身男性である。
同僚の写真部門のシェリル(クリスティン・ウィグ)に心を寄せているが、近づくきっかけがない。
そんなある日、会社が倒産し、事業再編されることになった。
人事担当としてやってきたのはひげ面のヘンドリックス(アダム・スコット)だった。
「LIFE」も休刊を余儀なくされ、その最終号の表紙に飾るべき写真が写真家のショーン・オコンネル(ショーン・ペン)から送られてきた。
しかしどこを探してもその写真のネガが見つからない。
表紙の印刷まで3週間というところで窮地に立たされたウォルターは、ショーンを探しにいくことを決意する。

映画館にいくと、何度も何度も繰り返し予告が放映されていた作品だ。
気になっていたのは、主演でも監督でも、ストーリーでもない。
なぜすべて「~ませんか?」ではなくて「~ますか?」と肯定的な疑問文で問いかけるのかということだった。
「あなたは仕事で大きな失敗をしたことはありますか?」よりも、「ありませんか?」のほうがよほど日本語としては違和感がないのに。
何度も繰り返し見ていると余計にその違和感が増大して、とうとう映画館に行くことにした。

引き込まれる音楽も、もちろんその行くきっかけを作ったのは間違いない。
あまり日本でコメディー俳優としては有名でないだろう、ベン・スティラーの売り方として上手かったのだろう。
私は「トロピック・サンダー」も「僕たちのアナ・バナナ」も大好きなのだが。

▼以下はネタバレあり▼

独身の42歳。
自分に特に誇れるものもなく、ただ日常を過ごしている。
自分の仕事には満足しているが、憧れている同僚のシェリルに声をかけることもできない。
冴えない男、ウォルターが新しい一歩を踏み出すために生まれ変わる物語。

話は単純で、それほど首をかしげるようなところはない。
空想好きだというのは既に多くの呼び情報で流れているところだし、そうでなくても最初のトッドとの駅での会話で把握できるだろう。
映画好きな人なら、この設定は共感できる人が多いのではないだろうか。
もし自分が映画の中の主人公なら、と想像する。
それは映画館まで足を運ぶ人の多くと共通しているわけだ。
そのあたりはうまい設定だった。

結論から言えば、フィルムを探して旅に出たウォルターが行き着くのは自分自身だった。
「旅に出よう」
「生まれ変わろう」というキャッチーな売り文句に対して、「主人公はあなただ」と言い切る。
旅に出て、帰ってきた自分が気付くのは、自分自身のこれまでの人生であり、自分がしてきた仕事だった。
人生という名の雑誌を支えていたのは、表紙を彩る世界中の驚きの写真ではなく、自分自身だったのだ。
しかし、それこそがこの雑誌(=映画)のメッセージそのものなのだと訴えるのだ。

ウォルターはそれまで気付いていなかった。
自分が「一歩踏み出せないからだめな男なのだ」と思っていた。
自分に自信がない、自分に誇りを持てない、自分は一生日の目を見ることがない……。
だから「想像」という世界に逃げ込み、満足していた。
そしていつの日か(そのいつの日はずっとこないわけだが)旅に出て自由に生きることを夢見ていた。
しかし、本当は自由だったのだ。
本当はしっかりと生きていたのだ。
そのことに気付かせるための物語、旅だったというわけだ。

物語はよくあるパターンの「往来」の物語になっている。
日常、非日常、日常、という例のパターンである。
非日常を経験したウォルターは、日常で自分自身に再会することになる。
おもしろいのは、彼自身が積極的な性格になったのではない。
彼自身が変化したのではなく、彼自身に気付いたのだ。
それを広い意味で変化と言えばそうなのかもしれない。
けれども、彼に訪れた変化は、単なる成長とは違う、「自覚」といったほうがよいものだ。

それは雑誌「LIFE」を作り続けてきたショーンが気付いた結論でもある。
彼はヒマラヤまで訪れたウォルターに、決定的なシャッターチャンスに対してこう言ってのける。
「本当にすばらしいシーンは写真にしないんだ」
映画にはならない、写真にはならない、雑誌にはならないシーンこそ本当にすばらしいシーンに他ならない。

ウォルターは自分が主人公になりうる存在ではないことを自認していた。
だから、空想するのだ。
妄想と言っても良い。
しかし、ショーンは教えてくれる。
映画や写真や雑誌になることが本当にすばらしい一瞬ではないのだ、と。

物語を追体験していた、私たち映画好きの観客たちにとって、このメッセージは完全に自分たちについて語られているのだと意識するはずだ。
空想好きの、映画好きの私たち自身が「主人公になる」瞬間である。

この映画は大した映画ではないと思う。
ややこしい映画でもなければ、あたらしい何かに気付かせる映画でもない。
ただ、この映画がシンプルであるが故に、私たちの何かをつかむ。

ベン・スティラー、おもしろい映画を撮るね。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まさにそれです! (絨毯リュックと爆弾おにぎり)
2014-05-03 12:53:28
均整のとれた映像の美しさと、シナリオのシンプルさが見終わった後に爽快さとして残りました。

メリーに首ったけのダメ男と同じとは思えませんでしたね 笑

返信する
日本人うけするテーマですね。 (menfith)
2014-05-04 22:02:10
管理人のmenfithです。
やっと連休らしくなってきました。
明日は映画とショッピングを楽しむ予定です。
散財の予感。

>絨毯リュックと爆弾おにぎりさん
テーマが日本人向けなのかもしれませんね。
名もない人が主人公になる。
職人と言われる人が敬われる。

ベン・スティラーはいい役者なんですが、いまいち日本ではぱっとしない印象がありますよね。
「メリー」の時は、ほんとお下品でそれはそれで良かったのですが。
返信する
ショーン・ペンの言葉 (おゆば)
2014-06-02 13:06:47
私も映画館で何度も予告編を見て(見せられて)
本編を観に行きました。

menfith氏の解説で改めてショーン・ペンの言葉の
意味深さを感じました。

また、自分が観た映画の氏の評を楽しみにしております。


お節介ながら
「易いし」→「易し」
返信する
お久しぶりです。 (menfith)
2014-06-04 21:50:24
管理人のmenfithです。
急に暑くなったり雨が降ってきたりと忙しい毎日ですね。
私はすこし体調不良気味です。
いくら眠っても眠り足りない。

そろそろ映画館が恋しい時期になってきました。

>おゆばさん
お久しぶりです。
最近の予告編はうまいですからね。
乗せられてしまうことがよくあります。
そして内容が??ということも。

これはなかなかの作品だったのでよかったです。
邦画は相変わらず見に行っていないですね。
「アイアムアヒーロー」も映画化するらしいので、……がんばります。
返信する

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