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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

村上龍「愛と幻想のファシズム」

2016-03-23 17:22:32 | 読書のススメ
長い。
文庫本500ページの上下巻は、小品も多い昨今の小説では長い部類に入る。
それでも、コミックスを読んでいるような流れるような展開に、寝る間を惜しんで没頭してしまう。

どぎつい表現も多く、多くの人に、広く勧めることはできないのかもしれない。
でも敢えて言おう。
読んでみろ、と。

▼以下はすこしネタバレあり▼

この作品に限らず、村上龍の作品は日本の戦後史を考える上で重要な視座を与えてくれるようだ。
その時に「あり得たかも知れない」もう一つの歴史を紐解くその展開は、「あり得ない」と一蹴することを難しくする。

この作品で言うなら、鈴原の考え方は、とても危険だが、とても説得力がある。
「人間は農耕を始めてから軟弱になった。
奴隷になることを求めた弱者がのうのうと権利を主張している。
本来自然に淘汰されるべき者たちまで面倒を見るだけの余裕は、もはや世界にはない」

ヒューマニズムを完全に否定したこの考えは、非常に説得力がある。
もちろん、それに賛成か反対かそれはどちらでもいい。
ただ、弱い人間までなぜ面倒をみなければならないのか、というスタンスは揺るぎがない。
私たちがどうしてもその決断に踏み切れないのは、弱者を守るべきだという固定概念があるからだ。
だが、本当に守るべきなのか。
強い者だけが残る世の中では本当に駄目なのか。

そう強く言われたとき、私たちのヒューマニズムなど単なる詭弁になってしまう。
なぜなら、「豊かに成りたい」という願望は誰もが持っているが、その願望は「誰かを貧しくする」ことでしか叶わないからだ。
その矛盾をどうヒューマニズムは答えるだろうか。
「そんな動物みたいなこと、私たちは人間だ」と言い張るのだろうか。
だが、戦争を好み、友人を裏切り、乳飲み子を虐待する、その残虐性を私たちは否定し得ないだろう。

私たちは人間である前に、動物なのだという迷いのない判断は、私たちが陥っている問題のほとんどを解決してくれるようにさえ思う。

彼はやがて日本の国家を牽引する立場になろうと画策していく。
ハンター鈴原はどのような末路をたどるのか。

それは読むしかない。


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