評価点:79点/2016年/日本/120分
監督:庵野秀明
その未確認巨大生物とどう対峙すれば良いのか。
日本の東京湾に突如原因不明の水蒸気爆発が起こった。
トンネルにも被害が出て何台かの車が巻き込まれたと一報が入る。
官邸はすぐにその原因を議論し、記者会見に臨もうとする。
そこで一人が意見を口にする。
「あれは未確認巨大生物という意見と動画がネットに出ています」
一笑に付そうとしたところ、巨大な尾らしきものが海岸から現れ、議論は白紙に戻される…。
あの、庵野秀明が、エヴァも作らずに、「ゴジラ」シリーズを撮る。
その一方にどれだけの人が、肯定的な印象を受けたのだろう。
しかも、「進撃の巨人」でオオコケした樋口真嗣が監督を務めるという。
これは大きな失敗に陥る可能性が高いと誰もが思ったはずだ。
そして、ついに完成し、公開された。
平日の昼間、時間がたまたまできたので映画館に向かった。
ほとんどが大人ばかりの客層で、隣にいた親子連れ、「お父さん、子ども全然おらんやん」と小学生がぼやくほどだった。
まあ、仕方ないよね。
ともかく、映画館で見ることをおすすめします。
映像の面白さは、家で見ると半減してしまうと思いますよ。
▼以下はネタバレあり▼
本編がはじまったところから、これは私たちが今まで子供だましに見せられてきた「ゴジラ」ではないことはわかった。
そして、その映像リズムがすべて「エヴァ」で培われてきたものであることもわかったことだろう。
だが、それは「ゴジラ」のエヴァによる焼き直し、という同工異曲の作品ではないこともわかってくる。
私たちにとって、「ゴジラ」は固有名詞ではないほど、一般に根付いている映画であり、キャラクターだ。
だから、ゴジラに準じる怪獣が登場しても驚かないし、ゴジラ対策の自衛隊部隊が登場することも、とくに違和感はない。
それはもちろん、虚構だからだ。
ゴジラが存在してしまっている世界として描かれていれば、それはなんら違和感はない。
だがそこには、決定的な現実と虚構の線引きがあるからに他ならない。
そうなると、子供だましのような、怪獣どうしが、どんちゃんする映画になってしまう。
この映画はそこに焦点を置いていない。
もし、ゴジラのようなわけのわからないサイズの生き物が日本に現れたら、私たちはどんな対処をしうるだろうか、ということがテーマになっている。
これがものすごくタイムリーだ。
東日本大震災、熊本地震、北朝鮮からの攻撃の脅威、ISなどのテロ攻撃の可能性、あらゆる状況が、日本の危機管理態勢への疑問とシミュレーションを求めている。
それを形にしたのが、この「シン・ゴジラ」なのだ。
いるわけがない者が、いきなり現れたら?
目を疑うのは簡単だが、被害をどのように押さえていくのかを考えずにはいられない。
東京中心にまわっている日本で、東京が襲われたら?
誰が指揮を執って、どのような形で対処するのか。
今までのゴジラは、精神的すぎた。
ゴジラの気持ちや、科学技術への警鐘など、お説教臭いメッセージが先行し、因果応報、勧善懲悪の世界を築き上げることでしか表現できなかった。
今作では、ゴジラの気持ちに議論の余地はない。
ゴジラの仕組みも、ゴジラの行動も、すべては日本の被害をどれだけ押さえるかという点にしか追求されない。
駆逐か、保護か、その選択も、日本国民の国益を最優先して決められる。
この辺りが、非常にシリアスで、身に迫るように描かれている。
私はこの映画を観ながら、様々なことを考えさせられた。
日本人とはどういう人種なのか。
リーダーからのトップダウンでは何もできないことは、すでに「踊る大捜査線」で示されていたはずだった。
しかし、「踊る」シリーズでは、その解決、その答えは出さずに安易な路線に甘んじた。
誰かの指示の元動く国ではなく、国という抽象的なもののため、目的という具体的なもののために個人が一方向に向かっていけるのが日本人なのかも知れない。
もちろん、この映画は虚構に過ぎないが、説得力ある展開に、そう感じさせる力がある。
私がこの映画で一人のキャストも個人名を記していないのも、それと無関係ではあるまい。
それは、決してパンフレットが売り切れていたことに対する怒りの表明だけではないのだ。
また、「ヱヴァ」という映画が、シンジを中心とした個人の物語でありながら、日本を舞台にした社会的な物語なのだということを、なぜか意識させられた。
このテンポは、まさに「ヱヴァ」で培われたものであり、この展開はまさに一つの作戦に日本全国の人々が協力する物語という点で、ヤシマ作戦と同じだったからだ。
「シン・ゴジラ」を描きながら、「ヱヴァ」の可能性を見せられた、そんな映画にすら感じる。
映像は確かにハリウッドに負けるかもしれない。
けれども、この映画を観ていると、それだけが映画の見せ方ではないことをよく教えてくれる。
それだけが、「ゴジラ」を描く方法ではないことを示唆している。
ハリウッドのように、日常を離れてしまった街の崩壊に、どんな「守るべき者」が存在するのだろうか。
あるいは、そのように感じるのは私が行ったことがない街だからなのかもしれない。
日本のための、日本人が作った、日本人が見るべき映画になっている。
だからこそ、「ゴジラ」というタイトルが冠されているのだということを改めて発見させる映画だった。
映像が……なので、映画館でしか味わえない面白さなのかもしれない。
おとな向けゴジラでしたネ。
>東日本大震災、熊本地震、北朝鮮からの攻撃の脅威、ISなどのテロ攻撃の可能性、あらゆる状況が、日本の危機管理態勢への疑問とシミュレーションを求めている。
危機に直面した際の国レベルの対応力が問われる昨今です。
ところで、エヴァンゲリオンを特撮博物館で見学しましたよ。もちろん、「ゴジラ」、「キングギドラ」の着ぐるみもいました。
http://blog.goo.ne.jp/iinna/e/649d3d5b5de62b7bb2cefc29d45d0afd
映画館に行きたい映画が見当たらないので、とりあえずTSUTAYA通いを始めました。
どれだけ記事にできるかわかりませんが、ぼちぼち更新していきます。
それにしても暑いです。
西日本はなかなか雨が降りませんね。
多少のにわか雨希望。
>iinaさん
コメント・トラックバックありがとうございます。
特撮博物館とかあるんですね。
東京は良いですね。
私は先日、エヴァ新幹線乗ってきました。
なかなかに恥ずかしいエントリープラグ体験でした……。
それが、結構よかった。
いかに小さくみせるか。
意図的やったら、凄い。けどたぶん違う。
>セガールさん
書き込みありがとうございます。
テンポが速いことで、スケール感の小ささを感じさせないようにもっていってますね。
予算内でしかたがなかった、といえばそれまでですが。
とにかく石原さとみがかわいかったからそれで満足です。