secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

硫黄島からの手紙

2009-08-16 10:18:39 | 映画(あ)
評価点:63点/2006年/アメリカ

監督:クリント・イーストウッド

思ったより完成度は低い。

2005年、硫黄島では埋められた大量の手紙が発見された。
そこには生々しい、兵士たちの家族を思う気持ちが綴られていた。
1944年、硫黄島の軍事的役割は大きなものになっていた。
サイパンから日本本土までの距離を二分するこの島は、占領されれば本土への攻撃を許し、占領し続ければ、アメリカは直接日本に手を出せない。
しかし、日本海軍はすでに壊滅状態であり、後方支援も、援軍ももはや期待できない状態だった。
そこへ配置された栗林(渡辺謙)は、海岸線を守るという従来の戦術を覆し、トンネルを掘り巡らし徹底抗戦しようと提言する。
来る日も来る日もトンネル掘りを続け、いよいよアメリカ軍が上陸する。

父親たちの星条旗」とともに硫黄島の戦いを描いた作品。
この「硫黄島からの手紙」は、日本側から描いた硫黄島の戦いであり、アメリカ側から描いた「父親たちの星条旗」とは対をなしている。
こういう試みはおそらく映画史初めてではないだろうか。
しかも、その様子を描いたのは、アメリカ人であるイーストウッドである。

これ一本でも完結する物語となっているが、やはり「父親たちの星条旗」と合わせて観たい映画である。
 
▼以下はネタバレあり▼

正直、僕はこちらよりも「父親たちの星条旗」を評価したい。
大変良くできた映画ではあるが、「父親たちの星条旗」の完成度とは大きな隔たりがある。
それは日本とアメリカという人種の相違だけではなく、役者をはじめとするスタッフとのコミュニケーションにあったのではないかと想像する。

結構じたいは、「硫黄島からの手紙」も同じである。
つまりは、現代という視点を持たせながら、過去を振り返る、という視座である。
手紙が発見されるというシークエンスから始まり、また手紙を発見するシークエンスで終わるのだ。
これは、この物語自体が、単なるフィクションではないというだけではなく、この物語は今だから振り返る価値があり、
現時点で問題にしたい闘いなのだということを示しているだろう。

そしてスタンスも共通している。
ただ戦争を賛美したり、逆に反戦色だけを色濃く出すような作品ではない。
多くの日本人と、少数だがアメリカ人が登場する。
その誰もが個性をもち、人生をもっていることを明確に打ち出している。
戦争に反対しながらも参加する者、祖国のためなら命を落とすこともいとわないという者、祖国の精神性を重んじる者など、その国民性や国家観の善悪がどちらか一色に描かれることはない。

「ありのままの姿を伝えたいのだ」というスタンスはこちらでも息づいている。

だが、この映画がもともと一本の作品だったことが影響してだろう、物語が冗長になっている。
展開される事件に対して、上映時間が長すぎるのだ。
シーンやエピソードが多すぎるということだけではなく、ワンカットがやたら長いのだ。
本来ならもう1秒や0.5秒ほど短くするべきシーンがあったり、カットしてしまったほうが余韻が残るはずなのに、というシーンをそのまま見せたりしている。
それ故、一つ一つは繋がっているし、別に違和感もないのだが、それが連続することによってどんどん集中力がそがれてしまう。

明らかに編集ミスだろう。
その修正により、上映時間自体がどれくらい短くなるかわからないが、おそらく10分でも短くすればもっと快適に感情移入しやすかっただろう。
映画・映像のテンポというのは本当に大切なのだ。

もっと大幅に省略して、違う場面を描くべきだった。
たとえば、トンネルを掘るシーンなどである。
描くべきシーンを間違えたな、という印象が強い。

もちろん、感情移入できないのはそれだけではない。
この映画の最大の欠点は、人物像の薄っぺらさだ。

まず、視点人物となる西郷(二宮和也)の設定が頂けない。
彼は軍にはいる前、パン屋をしていたという経験を持ち、生まれたばかりの娘を置いてきたという設定だ。
しかし、残念ながら、明らかに彼は妻子持ちには見えない。
昔は若いうちから結婚したとかいうレベルの話ではない。
顔が幼すぎる。
顔にそのような「父親」が見えないのだ。
だから、まず違和感が生まれてしまう。
そして何より、彼の戦争への態度があまりにも消極的だ。
戦争バンザイの人間ばかりでないとおかしい、とそこまで言う気はない。
ただ、戦争に参加する際、みじんも前向きにならないのは不自然だ。
妻子を残し、そして硫黄島の軍事的な意味合いを理解していたなら、自分が死ぬ理由は理解できるはずだ。
それなのに、彼は一向に「戦う」ということに前向きにならない。
穴掘りも、トンネル掘りも、自決も、何一つとして前向きに取り組まないのだ。
視点人物として設定されているにもかかわらず、ただのわがままっ子に見えてしまう。

というよりむしろ、彼こそが、この物語に埋め込まれた「現代人」なのである。
超越論的な、すでにこの戦争が過ぎ去ったことを知っているかのような彼の態度は、当時の人間とは思えない。
おそらく、アメリカで、日本からの視点からの映画を公開するには彼のような人物でないと成り立たなかったのだろう。
彼のときより見せる笑いを誘うシーンは、万国共通であり、劣悪な環境である戦場を、何とか観られる舞台にしたのは、彼のキャラクター性なのだろう。

しかし、日本人である僕たちにとっってはそれは違和感のかたまりのようなものだ。
それは彼の設定そのものに問題があるだけではなく、二宮和也という役者の演技そのものにも問題がある。
だれもが思うはずだ「そんな軍人いねぇ。」と。
本人がどのような役者なのか僕は知らないが、上官にあれだけあからさまに反発し、平気で悪態を吐くのは考えられない。
今の若者としても、はっきり言って殴りたくなるような人間である彼に感情移入しろというほうが無理である。

(ちなみに僕はジャニーズを「役者」としては認めていない。
キムタクだってどんな役柄でも同じ演技だし、他の役者でも良いと思ったことはほとんどない。
そして「嵐」に至っては彼らの人生をなめたような態度がどうしても好きになれない。
だからこのあたりには僕の主観が大きく反映している。
ごめんなさい。)

そして、視点人物としての根本的な欠点は、葛藤がない、ということだ。
彼には一切葛藤が現れない。
揺れ動く気持ちは常に後ろ向きであり、死にたくない、働きたくない、戦いたくないといったレベルのものばかりだ。
だから、彼の通して映る世界は、一切が消極的な映像なのである。
それはすなわち、この映画全体が陥っている映像でもある。

だが、二宮君だけにその責任を押しつけるのは忍びない。
彼のせいだけではない。
この映画に登場する日本人はすべてそうだ。
様々なキャラクターに色分けされた人物たちが登場するが、かれらは全て一色に文字通り「色分け」されいているにすぎず、
それぞれの人物の内面の矛盾や葛藤、表裏などが一切ない。
祖国のために頑張ろうとする者はやはり頑張るし、
いつまでたっても部下を苦しめる上官は変わらない。
変化もなければ、成長もない。
だから、全体的に人間性が薄っぺらく、物語としてのおもしろみも、また薄い。
当然感情移入しにくく、余計に長い物語を冗長に感じてしまう。
それぞれのポジションを守っているだけで、やりとりによって深まったりしないのだ。

それぞれに過去の回想をこまめに入れてはいるが、それはキャラクターの内面を鋭く描出するには至っていない。
自己紹介に過ぎない。

「硫黄島からの手紙」がより反戦色が濃くなっているのはそのためだろう。
反戦色の濃い西郷を視点人物にしているために、日本軍の中でも(西郷にとって)いい人・悪い人という色分けになる。
そして、中村獅童などは否応なしに完全に「悪役」に撤してしまうのだ。

「父親たちの星条旗」に内面をえぐり出すような強さや鋭さがあったのに、「硫黄島からの手紙」はただの「ええ話」程度に成り下がっているのは、登場人物に深みがないためなのだ。

中村獅童といえば、彼の守るポジションなどは、「悪役」を通り越して「コメディ」だ。
さんざんに栗林に反抗したあげく、かっこいい(?)二宮君の首まではねようとし、
さらに絶対にだれも通らないだろうというところで地雷を抱えて居眠り。
誰もいないとわかっていてなのか「だれか俺を見つけてくれ」と叫ぶ。
そして、お約束、生き残ってしまう。
戦闘が終わっていたことにも気付かないくらい空気が読めない。
結婚が終わって離婚に向かっていることを知らない誰かさんのようだ。
(あ、同じ人物か。こりゃ失敬)

ここにあるのは、戦争における不条理などという仰々しいものではなく、単なるバカである。
(「男たちの大和」で部下を殴る上官に反対する役を演じていたいのは、この映画で笑いをとるための伏線だったと僕は想像する)

これらはすべて、二つの理由によるものだろう。
一つは、観客はあくまでアメリカ人であり、彼らに理解されないような映画をとるわけにはいかなかった、ということ。
葛藤として人間性を見せるのではなく、それぞれ別の人間が対立することで葛藤を見せようとしたのだろう。

もう一つは、日本人を描くと言うことで、確固とした人物を立てられず、メッセージ性が弱くなってしまった、ということである。
もしかすると、そのメッセージ性はできあがっていたが、上手く周りに伝えることができなかったのかもしれない。

あるいは、強く期待しすぎたのかもしれない。
 
(2007/1/17執筆)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« パプリカ | トップ | サマーウォーズ »

コメントを投稿

映画(あ)」カテゴリの最新記事